暗躍する者たち5
クロが出て行って30分後、シロも執務室を出て行き、エターナルカナン聖魔国内のある場所へと向かっていた。
それは誰も来ないように隠された洞窟で、シロは周囲に誰もいないことを確認してから慎重に中へと入る。
そして洞窟の奥へ着くと、そこにある漆黒の色をした四角錐の物体の傍で、片膝を付いて首を垂れてから淡々とした口調で報告をはじめた。
「・・・ご報告いたします。
まず以前よりご命令いただいておりました軍国への潜入と軍王の奪還ですが、今回も何者かによって阻止されてしまい失敗いたしました。
よって何の進展もございません。
申し訳ございません。」
「・・・」
報告相手はシロやクロの主なのだろうが、四角錐からは何も声が聞こえてこなかった。
おそらく相手側は直接頭の中に話しかけているのだろう。
そんな相手を敬うようにシロは報告を続ける。
「・・・はい、承りました。
引き続き軍王の奪還を続けます。」
「・・・」
まずはいつもと変わらない報告のやり取りを終える。
そして相手から労いの言葉でもかけられたのか、シロは一瞬口元を嬉しそうに緩めたが、すぐに引き締めて報告を続けた。
「・・・はい、心得ております。
続きまして、廃棄した方の被検体に関するご報告です。
その最期を私が見届けたことは、以前ご報告いたしました通りです。
それ以降、廃棄した方の被検体の存在は確認されておりません。
元始核と無理矢理切り離されたことからも、その存在が消滅したのは間違いないかと思われます。
用心に越したことはないと思い、現在も警戒態勢を維持しておりますが、今後はいかがなさいますか?」
「・・・」
報告に対して何か指示を受けたようだが、ここで珍しくシロが相手の答えに対して質問で返した。
「・・・恐れ多くも進言させていただきます。
万が一のことを考えますと、今しばらくは警戒する必要があると思いますが、本当によろしいのですか?」
「・・・」
今度は納得したようで、シロは相手の指示を受け入れ、次の報告へと移った。
「・・・はい、承知いたしました。
今後はそのようにいたします。
続きまして、先日廃棄した方の被検体と併せてご報告いたしました、かつて放置しました複製した元始核の保持者についてです。
その者の素性が判明いたしました。
保持者は王国第三王女ティリアでした。
しかし生死は不明、死体の行方もわかっておりません。
現在行方を追っておりますが、今後はいかがなさいますか?」
「・・・」
今回の指示に対してはシロも質問で返すことは無く、すぐに納得して従う意を示し、次の報告へと移った。
「・・・はい、承知いたしました。
今後はこちらもそのようにいたします。
続きまして、離脱したシルフィナのその後の行方についてです。
申し訳ございません。
現在完全に行方がわからなくなっております。
ただ離脱してから今日に至る間、何の行動も起こしていないことから、何も打つ手が無いと思われます。
そのためこちらから下手に刺激する必要は無いと考え、現在警戒のみで放置しておりますが、今後はいかがなさいますか?」
「・・・」
この報告に対する指示もシロはそのまま従う意を示した。
そして次の報告を口にしようとしたところで、シロの表情が一瞬僅かに曇る。
しかしすぐに気を取り直して、次の報告へと移った。
「・・・はい、承知いたしました。
今後もそのように対応し、状況に変化があったときのみご報告いたします。
・・・続きまして、浮遊大陸と天空城についてです。
申し訳ございません。
こちらも突然移動経路が変更されて以降、完全に見失ってしまった状態でございます。
またそれと同時に特級天使たちの行方や状況も不明でございます。
可能性としまして、管理者の覚醒、緊急退避による捜索範囲外への離脱や消滅、誰かに掌握、などが候補として考えられます。
現在、他の浮遊都市と並行して行方を追っておりますが、今後はいかがなさいますか?」
「・・・」
不甲斐ないと思いながらも淡々と謝罪を口にしたシロだったが、相手はそこまで重く考えていないようだ。
そのためシロの表情も僅かに安堵しており、そのまま次の報告へと移った。
「・・・はい、承知いたしました。
現在そのように対応しておりますので、引き続き状況が判明次第ご報告いたします。
続きまして、パンドラに関するご報告です。
先日既に目覚めていることはお伝えいたしましたが、本日から身体を動かしはじめました。
また今後は一日10体を上限とし、天魔を贈呈することになりました。
それと元始核を抑え込んで制御しようとしているようです。
あからさまに非協力的ではありませんが、自分たちを高めることを重視し、それがこちらに対する協力だと暗に訴えております。
おそらく自分たちが主導権を握る機をうかがっているものと思われますが、今後はいかがなさいますか?」
「・・・」
パンドラに関しては互いの考えが一致しているようで、相手からの修正は何もなかったようだ。
その勢いのまま、シロは今回最も進展した報告を内心嬉々として口にする。
「・・・はい、承知いたしました。
今後もそのように対応いたします。
続きまして、例の人物に関するご報告です。
先日調査に進展がございました。
20年ほど前の痕跡を複数発見し、それを元に現在の行方を追っております。
ただ懸念もございます。
何故突然痕跡が見つかるようになったのかです。
可能性として高いのは、本人がこちらに接触を試みているためと考えております。
しかし他からの情報操作である可能性もありますので、今は情報を精査しながら、その後の痕跡を慎重に探しております。
この対応に何か問題はございますか?」
「・・・」
この報告も自分の予想通りの指示を受けたからか、シロはここだとばかりに提案と願いを申し出た。
「・・・はい、承知いたしました。
今後もそのように且つ迅速に対応いたします。
・・・最後にご報告ではなく、今後の実験に関しまして、提案とお願いがございます。
よろしいでしょうか?」
「・・・」
ここまで良い報告が多かったからか、相手もシロの話を聞いてくれるようだ。
シロは慎重に言葉を選びながら順番に提案をはじめる。
「・・・ありがとうございます。
対象の実験は、男の天使から天魔たちに対する進化や覚醒の促進について、になります。
過去の実験から最も効率が良いのは、力ある生命体を贄とすることでございます。
これまでは事前に採取していました軍王や魚王の細胞を移植して融合しておりました。
またそれに加えて各世代の神の複製体などを素材として与えてきました。
その結果としまして天魔に至る個体の大量生産を可能としてきました。
しかし現在、天魔以降の進化や覚醒が滞っている状態が続いております。
かつてその先に至った際の方法である共喰いについても幾度となく試みておりますが、いまだに成果が出ておりません。
またこれらの素材の在庫も心許無くなっております。
そこで新たな素材の使用許可を賜りたく存じます。
続いて希望する素材についてご説明させていただきたいと思います。
よろしいでしょうか?」
「・・・」
まずは本題に入る前の説明だったが、ここまでは問題無いようだ。
しかし問題はここからである。
そしていよいよシロが本題を口にする。
「・・・ではご説明いたします。
私たちが希望する素材、それは、アイリス、そしてパンドラでございます。
ここまではよろしいでしょうか?」
「・・・」
場合によってはここで中断もありえたが、運良く相手の興味はまだ尽きていないようだ。
シロは更に慎重に説明を続ける。
「・・・では続けさせていただきます。
現在使用を考えている素材は、例えば毛や爪、汗や唾液など、まずは老廃物や分泌液などの普段は捨てているものになります。
ですがゆくゆくは健康状態の確認と称して血液や排泄物、怪我をした際の皮膚辺などの細胞も採取できればと思います。
またそれらから複製体を作成し、素材とすることも検討したいと考えております。
いかがでございますか?」
「・・・」
説明を聞いた相手から、見えない圧力がシロにかかる。
しかしシロは臆することなく、相手の言葉を肯定しつつも自分の提案と願いが有用であることを主張した。
「・・・はい、重々承知しております。
その上で今回の提案とお願いをしております。
それだけの価値がこの提案とお願いにはあると、私たちは確信しております。」
「・・・」
どうやら相手から注意点をいくつか伝えられたものの、正式に許可を得ることができ、シロは安堵しながら感謝の言葉を口にした。
「・・・はい、ありがとうございます。
必ずやご期待以上の結果をご報告いたします。
またパンドラとの関係を壊さないよう、こちらも細心の注意を払って対応いたします、今は。」
「・・・」
最後に意味深な言い回しで終わったシロに対して、相手も同じように考えていたようだ。
それもあってか、シロは気分良く今回の報告を終えることができた。
「・・・はい、私たちからのご報告は以上になります。
貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
他に何かございますでしょうか?」
「・・・」
「・・・かしこまりました。
引き続き、悲願の達成に向けて、身命を賭して尽力いたします。
次回の報告はいかがいたしましょうか?
特にご要望が無いようでしたら、7日後の同じ時間を考えております。」
「・・・」
「・・・お任せください。
次回のご報告でも、更なる成果をご期待ください。
では、私はこれにて失礼いたします。」
「・・・」
シロはゆっくり立ち上がると、その場から静かに立ち去って行ったのだった。




