暗躍する者たち4
そんなクロの様子を内心微笑ましく思いながら、シロは話を先に進めるように促す。
「ではそのようにお願いします、クロ。
これについてはこのくらいですね。
それでは次の報告をお願いします。」
「わかりました、シロ。
次は見失った浮遊大陸と天空城についてです。
改めて移動経路について過去の実績と今後の予定経路を捜索しましたが、痕跡どころかその影すらいまだに発見できず。
ついでにいまだ存在確認できていない他の浮遊大陸も同様に発見できず。
可能性としては、管理者の覚醒、緊急退避による捜索範囲外への離脱や消滅、誰かに掌握、などが候補として考えられます。」
「その状況では、こちらの戦力には数えられないですね、クロ。
ただ他の浮遊大陸はともかく、天空城にはそれなりに投資していましたから、様々な設備や実験、都合のいい駒がどうなったのか気になるところです。
それと当時、浮遊大陸や天空城にいなかった者も含めて、他の特級天使たちの動向については何かわかりましたか?」
「そちらも何もわかっていません、シロ。
シルフィナたちと同様に、他の特級天使たちも行方不明です。
ただ先に挙げた可能性によっては、ある程度の予想はできます。
管理者が覚醒したのであれば、配下に組み込まれたり殺処分などの可能性大。
緊急退避であれば外宇宙へ放逐や一緒に消滅などの可能性大。
誰かに掌握されたのであれば、こちらも配下に組み込まれたり殺処分などの可能性大。
これらが予想されますが、いずれにしても精神的か肉体的に無事では済まないでしょう。
つまり、死か隷属か、どちらも特級天使たちにとっては望まぬ状況であることは間違いありません。」
「私もその予想を支持します、クロ。
ただ誰かに掌握されていると、場合によっては非常に厄介です。
我々の敵になるのであれば尚更です。
こちらは早急に浮遊大陸の位置の確認と、その後の状況を把握する必要があります。」
「同意します、シロ。
引き続き捜索を続けます。」
「お願いします、クロ。
これについてはこのくらいですね。
それでは次の報告をお願いします。」
「わかりました、シロ。
続いて軍国に捕らわれている軍王について、その後の状況です。
と言っても、何も変わっていないとしか、現状報告できません。
何度も救出を試みていますが、接触すらできていない状況です。」
「いまだ状況に変化無しですか、クロ。
まさかここまで長引くとは、完全に予想外でした。
しかしこうなると、そろそろ見切りをつけるべきかもしれません。
できれば軍王の細胞と天魔を掛け合わせる実験をしたいところでしたが、パンドラが手中にある状況では、それもやむを得ないでしょう。
本格的な実験には心許無い量ですが、ここにも多少は軍王の素材が残っていますから。」
このシロの考えに、クロが意見する。
「待ってください、シロ。
あの現存する軍王の素材は、保険として保管している貴重なものです。
いくらパンドラが手中にあるとはいえ、今使ってしまうのは時期尚早です。」
「もちろん今すぐ使うわけではありませんよ、クロ。
しかしこれまでに確保した実験体などの素材では、天魔の強化は微々たるものでした。
試していない残る素材は軍王の細胞のみです。
多少消費してでも、少しでも実験を進めておくことを提案します。」
シロの提案を、珍しくクロが強く拒否する。
「今は反対です、シロ。
まだ軍王を確保できないと決まったわけではありません。
それに軍王については私に一任されています。
ならばここにある軍王の素材、その使用についても私に決定権があります。
違いますか?」
一歩も引かないクロの主張に、最終的にはシロが先に折れた。
「・・・仕方ありません、クロ。
今は別の道の可能性がありますから従います。
しかし現状が続けば、近い将来に必ず決断するときがくると私は考えています。
そのことだけはお忘れなく。」
「大丈夫ですよ、シロ。
私も何を優先すべきかわかっています。
そのときが来たら潔く従います。」
「その言葉が聞けて安心しました、クロ。
私としてもクロの意見は尊重したいのですが、優先すべきは私たち個人ではありません。
そしてそれらを是正するために、私たちは対で存在しているのですから。」
「その通りです、シロ。
私も想いは同じです。」
「さて、互いを改めて確認したところで一つ代案があります、クロ。
現状ではすぐに軍王の素材や細胞を使った実験ができません。
そこで試しにパンドラの細胞を試してみるのはどうでしょう?」
「それは盲点でした、シロ。
元始核の現保持者であり純血種の完成体であれば、確かに試してみる価値はあります。
しかしパンドラの身体は何よりも大事で、現在この地において最も価値があるものです。
その一部とはいえ使用することに問題はありませんか?」
「もちろん本人に影響が出ない範囲内でです、クロ。
現在使用を考えているのは、例えば毛や爪、汗や唾液など、まずは老廃物や分泌液のような普段は捨てているものです。
ゆくゆくは健康状態の確認と称して血液や排泄物などの採取もできればと思っています。
これらであれば何の問題もないはずです。
そうは思いませんか?」
「なるほど、それなら大丈夫ですね、シロ。
ではそれらの採取はお願いしてもいいですね?」
「任せてください、クロ。
ついでに一緒にいる特級天使の素材もできるだけ集めて実験しておきます。
天魔も元の起源は同じ天使ですから、何かしらの効果は得られるはずです。」
「それも一理ありますね、シロ。
ではパンドラたちの管理と実験については任せます。
軍王については引き続き私の方で対応し、回収でき次第報告します。」
「お願いします、クロ。
これについてはこのくらいですね。
まだ報告はありますか?」
「次が最後です、シロ。
最後の報告は、例の人物の捜索についてです。
まずはこれまでの状況です。
パンドラの母親であるパメラをあてがった後に行方不明。
あちらからの接触も無かったため、連絡手段を喪失。
現在に至るまで組織の関係者との接触は無し。
以上です。
それでここからは進展の報告です。
少し前まで完全に行方不明でしたが、先日ようやく僅かな痕跡を発見しました。」
「それは重畳です、クロ。
場所は何処ですか?」
「複数です、シロ。
確認されたのは、皇国を除く全ての国です。
主に表には出られない裏の小規模な組織が大半を占め、それらへ素性を隠して出入りしていたようです。」
「目的は、聞くまでもありませんね、クロ。」
「お察しの通りです、シロ。
どうやらパメラで味を占めたらしく、無差別に女性との行為に及んでいたようです。
それを報酬に含めて裏の仕事を請け負い、更に得た金銭で娼館などにも通っていたようです。
また未確認情報ではありますが、女性が被害を受けた事件や事故の中にも、当事者であるものが含まれている可能性が高いようです。」
「そこまで調査済みとは、さすがです、クロ。
それで、現在の所在の特定、または接触など連絡手段の確保はできましたか?」
「申し訳ありません、シロ。
この情報は今から20年ほど前、つまり失踪してから半年ほどの間に起こったことです。
その後の足取りは、まだ不明です。」
「謝罪の必要はありませんよ、クロ。
これまで全くつかめなかった痕跡を見つけただけでも称賛に値します。
今後の追跡にも期待が持てます。」
「ありがとうございます、シロ。
ただ疑問もあるのです。」
「疑問とは何です、クロ。」
「説明します、シロ。
これまでも各国隅々まで痕跡を調査してきました。
当然裏の組織も大小全てを対象にしてです。
しかしここ最近になって、急に情報が集まりはじめたのです。
まるで誰かが意図的に流したように思えるのです。」
「それらは誤情報なのですか、クロ。」
「いえ、裏は取れているので正しい情報であることは間違いありません、シロ。
ですがそうなると、何故今になって情報が出てきたのかがわかりません。
これについてどう思いますか?」
クロに問われたシロは、少し考えてある可能性に至った。
「・・・もしかしたら、という予想はあります、クロ。
それは情報源が本人であった場合です。
あちらも今になって私たちと接触したくなったのかもしれません。」
このシロの予想を聞いて、クロもその考えを瞬時に理解する。
「なるほど、そういうことですか、シロ。
かつての連絡手段は既に破棄されていますから、あちらからの接触は不可能。
だからといって現在の連絡手段をあちらが見つけるのは困難。
そこで仕方なく自分の足取りを追えるように、今まで隠したり消していた僅かな痕跡をさらして、組織からの接触を待つ。
痕跡をわかりやすくしなかったのは、組織の情報収集能力評価を高く見積もったのと組織以外からの余計な接触を回避するため。
といったところでしょうか?」
「私も同意見です、クロ。
おそらく今後も地道に追跡していけば、そう遠くない未来に接触ができるはずです。
しかしそれ以外の可能性も完全に無いとは言えません。
面倒をかけますが、引き続き慎重に追跡を頼みます。」
「任せてください、シロ。
必ずや接触してみせます。
当然、他が介入してこようとしているのであれば、逆に潰すまでです。」
「お願いします、クロ。
ただ本人だった場合でも、くれぐれも油断は禁物です。
あちらはただの協力者であって、私たちと志を同じくする同志ではないのですから。
いつ裏切るかわかりません。」
「十分に理解しています、シロ。
利用価値が高いので、できれば首輪や同等の何かをつけたいところですが、敵対関係になってしまうと少々厄介です。
何か飼うためのいい方法は無いものでしょうか?」
「それについては私の方で考えておきますよ、クロ。
ですから今は自分の使命を果たすことを最優先に行動してください。
それこそが最善につながると私は考えます。」
「そうですね、その通りだと私も考えます、シロ。
では首輪の件は任せます。」
「任せてください、クロ。
報告は以上ですか?」
「報告は以上です、シロ。」
「ありがとうございます、クロ。
主様への報告は、今日この後の定期報告時に私が行っておきます。」
「お願いします、シロ。」
「それでは次回の報告は何時になりますか、クロ。」
「そうですね・・・では10日後でどうですか、シロ。」
このクロの提案に、シロが申し訳なさそうに変更を願い出る。
「・・・できれば5日後でお願いできませんか、クロ。
それと今後は緊急性がある内容の場合は、その都度報告をお願いしたいのです。
可能ですか?」
「それは可能ですが、理由を聞いてもいいですか、シロ。」
「もちろんです、クロ。
パンドラをここに迎え入れてから、主様より報告の間隔を短くするよう仰せつかったからです。
その際の期間を7日以内にするよう、ご指示を受けています。」
「そういうことでしたら問題ありませんよ、シロ。
今後は私も報告を密にします。」
「私も最優先で予定を空けて待っていますね、クロ。」
「では次回は5日後に来ます、シロ。
いい報告を期待して待っていてください。」
「ええ、楽しみに待っています、クロ。」
ここで報告に関する話は一旦終わったのだが、まだ少しシロと話したかったクロが雑談をはじめた。
「それにしても主様がパンドラを気に入ってくださって本当に良かったですね、シロ。」
クロの意図に気付いたシロも雑談に付き合う。
「まったくです、クロ。
もし主様がパンドラを拒否された場合は、これまでの苦労が全て水の泡になるところでした。
そうならずに済んで本当に良かったです。」
「しかし見事な采配でした、シロ。
パンドラとマコト、どちらを残してどちらを切り捨てるか、全てはその英断を下したシロの功績です。」
「そんなことはありません、運が良かっただけです、クロ。
ですが今、運気は確実にこちらへ流れ、急上昇しています。
そう思いませんか?」
「私も同感です、シロ。
それほど運は私たちの味方に付いていると実感しています。」
「やはりそう思いますか、クロ。
今なら目的の完遂まで一気に突き進めると確信しています。」
「私もです、シロ。
もう少し、あと少しで私たちの目的は達成されます。
ですがそのためには、私の隣には必ずシロが必要です。」
「私も同じ気持ちです、クロ。
私の隣にも必ずクロが必要です。
だからこそ私たち二人が揃った状態で、必ず目的を達成するのです。
そう・・・」
「全ては、主様のために。(×2)」
互いの想いが同じであることを改めて確認し、満足したクロは、今度こそ話を終わりにすることにした。
「・・・さて、そろそろ私は自分の仕事に戻ります、シロ。」
「そうですね、私も自分の仕事に戻ります、クロ。」
二人は互いを慈しむように見つめ合ってから抱き合うと、その状態で別れの挨拶を交わす。
「いってらっしゃい、シロ。」
「いってらっしゃい、クロ。」
「いってきます、シロ。」
「いってきます、クロ。」
数分後、名残惜しそうに二人は離れると、クロは執務室を出て行き、シロは部屋で報告内容をまとめはじめたのだった。




