フィロの受難5
リュジュの攻撃はこれまでと違い、フィロは上から下に向かって殴られることになった。
結果としてフィロは、その場から一歩も動くことも倒れることも無かった。
若干膝が曲がって腰が下に沈んだが、すぐに元の状態に立ちなおしたことから目に見えるダメージは無いようだ。
それだけ見届けると、リュジュは僅かに口元を緩めながら、無言で皆の許へと戻って行ってしまった。
そんなリュジュと入れ替わりにマコトが近づいて来て、フィロに治療の意思を確認する。
「・・・フィロ、今回も治療は必要か?」
「頼むよ。
さすがに調整する暇が無かったからね。
でもその前に、どうやら今ので私が何をしているのか、ある程度わかってしまったみたいだね。」
既に治療の了承を得ていたマコトは、フィロの話を聞きながら一瞬で治療を終えると同時に答える。
「完全ではないようだが、そうだろうな。
だがそれで何か問題はあるか?」
マコトの問いに、フィロは焦ることなく答える。
「いや、無いね。
結局私がやることは変わらないからね。」
「それがわかっているなら大丈夫だな。
次で最後だが、気は抜くなよ。」
「言われなくても。」
「そうか。」
そこへ次の相手であるルーヴがやってきた。
代わりにマコトは、その場を黙って離れていく。
「最後は俺だ。
とっととはじめよーぜ。」
「そうだな。
私としても早く終わらせたいので賛成だ。
いつでもどうぞ。」
「いい覚悟だ。
準備するからちょっと待ってな。
うぉぉぉぉぉ・・・うりゃぁ!」
ルーヴが気合を込めると、短かった髪が背中まで伸び、色が銀色に変わる。
「待たせたな。
こいつが俺の最強攻撃形態だぜ。」
「見たところ、髪の長さと色が変わっただけみたいだがね。
よければどういった形態なのか教えてもらえるかい?」
「おうっ、いいぜ。
今の俺の姿は玄真狼の突攻形態だぜ。」
「なるほど、君の言葉通りであれば、特攻と言うことは防御を捨てて攻撃に全振りしたということか。
それも物理攻撃力に特化しているようだな。」
「正解だぜ。
じゃぁ、行くぜ!
・・・うおりゃぁぁぁぁぁ!」
ルーヴはフィロの答えを待たずに、雄叫びを上げながら突進してくる。
そして突進の威力をそのまま右拳に乗せ、フィロの腹部を殴った。
ヴァイフーやリュジュとは違い、最初の原点に返って正面から後方に殴り飛ばすつもりのようだ。
しかしルーヴの攻撃は、フィロをその場から動かすことはできなかった。
殴られたフィロは開始位置から微動だにせず、ルーヴの攻撃に耐えて見せたのだ。
だがルーヴは少しも悔しがること無く、むしろ楽しそうにフィロを賞賛した。
「すげーじゃねーか、フィロ!
まさか俺の全力攻撃を受けて動かないどころかノーダメージとはよ!
いったいどうやったんだ?」
興奮するルーヴの純粋な疑問に、フィロは答える前にマコトに確認する。
「マコト、種明かしをして構わないかい?」
「ああ、構わない。
だがどうせなら、答え合わせするのがいいんじゃないか。」
「答え合わせ?」
「それなら我らの考察を聞いてもらおうか。」
マコトの言葉に少し考えたフィロだったが、いつの間にか集まって話に割って入ってきた他の五人が現れたことで意味を理解したようだ。
「・・・そういうことか。
ならまずは君たちの答えを聞こうか。」
「では最初は私からです。
まず注目するのは、今回の条件です。
攻撃側は純粋な物理攻撃のみとし、殴る場所も腹部に固定されていました。
これは攻撃を限定することで、防御側の負担を減らす狙いがあると考えました。」
「次は私だ。
実際に最初のアクアや私の攻撃はダメージを受けたものの、致命傷にはならなかったからな。
これは今のフィロにとっては、普通に防御すれば死んでもおかしくないほどの攻撃のはずだ。
だがそうはならなかった。
おそらくフィロの第四世代の神としての力を使った防御方法で防いだからだろう
それは最初から予想していた。
この力を徐々に上手く使えるようになったことで、ダメージ量も減ったと思われる。」
「今度は私じゃ。
ここまでは見ていれば誰でもわかることじゃ。
だがその方法がわからなかったのじゃ。
私たちの攻撃の威力を減衰させているわけでもないのに何故踏み止まれて何故ダメージを少なくできたのか?
そのヒントの一つとなったのが、ナーシャと私が斜め上に向かって殴ったにもかかわらず、フィロの身体を浮かせられなかったことじゃ。」
「ここからは私が引き継ぐ。
そこで私とリュジュがある仮説を立て、検証のために極端な攻撃方法をとった。
私は下から上に向かって、リュジュは上から下に向かって、それぞれ攻撃してみることにした。
結果として、フィロの足を地から離すどころか、その場から動かすことすらできなかったがな。
だがこの結果が仮説を確信に変えた。」
「最後は我だ。
その得た確信というのが、フィロの防御で最も重要なのが、足元、更に言えば足の裏だということに気付いたことだ。
そこにフィロの第四世代の神としての特徴を合わせて導き出された答えが、地に根のようなものを張っていたのではないか、ということだ。
そうすることで吹き飛ばないように踏ん張ることができたのではないかと考えた。
ダメージの無効化については、何かしらの方法で攻撃の威力を足元を介して逃がしたのではないかと推測した。
我らが導き出せた答えはこんなところだ。」
五人の答えを聞いて、ルーヴが納得しながら感心していた。
「なるほどな。
そういう原理だったんだな。
ていうか、お前らそんなことやってたんだな。
やるじゃねーか。
・・・おい、ちょっと待て、俺は何も聞いてねーぞ!」
怒るルーヴに、リュジュは少しも悪びれずに答える。
「言ってないからな。」
「何でだよ!」
「我とヴァイフーだけで検証の手は足りていたからな。
それにルーヴに検証を手伝えと言っても、お前は自分のやり方を曲げないだろう?」
「それはそれ、これはこれだ!
何で俺を仲間外れにしたかって言ってんだよ!」
「余計な情報を与えない方が、ルーヴは最高の力を発揮できると思ったからだ。
そもそも自分で言っていたではないか。
とにかく早く殴ってスカッとしたい、と。
もし検証を頼んだらルーヴの好きなように殴ることはできなかったが、それでもよかったというのか?」
リュジュの説明にルーヴは反論できず言葉に詰まる。
「うっ・・・それは・・・」
「わかったら黙って話を聞いていろ。」
「わっ、わかったよ!
黙って聞いてりゃいいんだろ!」
ルーヴを言いくるめて、リュジュは本題に戻る。
「やれやれ。
さて、待たせたな、フィロ。
答え合わせの結果を聞こうか。」
フィロもルーヴとのやり取りには一切触れず、リュジュの意見に賛同して答えた。
「そうだねぇ、結論から言えば、8割ほどは君たちの検証結果通りだよ。
ただ正直なところ、原理については詳しく聞いていないため、ほとんどが私の推測になるけどいいかい?」
「ふむ、その推測とやらを聞こうか。」
「私がマコトから言われたのは、地に根を張る一本のしなやかな大木をイメージして自然体で立ちながら相手と向かい合う、これだけだ。
このことからもわかるように、私の第四世代の神としての特徴から導き出された、地に根を張る、これについては合っているよ。
しかしダメージの無効化については、攻撃の威力を足元に逃がす、これだけだと完全に合っているとは言えない。
私が実際に行ったのは、一度足元に攻撃の威力を導いて内部循環させてから真逆の力を得る、これが正解だ。
だから私の身体が重いと感じたのは、その真逆の力が自分に返ってきていたからなんだよ。
まぁ結果として、最後にやっと私自身の防御力を足してなんとか攻撃を相殺できたのだけどね。」
「なるほど、原理は理解した。
だが疑問がある。
その方法では攻撃の威力が循環して戻ってくるまで僅かな間とはいえ、フィロは一度我らの攻撃を受け切って耐える必要がある。
しかし我らとフィロの攻撃力と防御力の差は明白。
今のフィロの防御力では、その僅かな間が致命的となるはず。
にもかかわらず、我らの誰もがフィロに致命傷を負わせることができなかった。
この矛盾はどう説明するというのだ?」
「その疑問はもっともだね。
しかしこれには明確な理由があるんだよ。
そしてその部分こそが今回の結果における根幹を支えているわけだ。
結論から言うと、循環の間が問題なら、その間を無くせばいいだけなんだよ。」
「その理屈はわかるが、それでは反射になるはず。
循環という言葉は出てこないはずだ。」
「確かに反射であれば間を無くせるだろうね。
だけど反射だと攻撃の角度によっては真逆に返すことはできないという問題があるんだよ。
でも今回、斜め上や下からの攻撃でも真逆に返せている。
もしこれが反射だったら、斜め上からは斜め下に、斜め下からは斜め上に返されるはずだよ。
つまり反射では無いということだね。」
「では根に循環させるという工程を挟むことで真逆に返すことができているということか。
だがわからん。
いったいどうやって循環の間を省いているというのだ?」
「そこで重要なのが、真逆に返している力は必ずしも循環させた力ではない、ということだね。
つまり、循環させる通り道にあらかじめ別の力を放出直前で待機させておいて循環させる力で押し出した、というわけだ。
こうすることで循環の間を無くしたというわけだよ。」
「ということは、最後にルーヴが攻撃した際の力は今も待機状態で残っている、ということだな?」
「そういうこと。
これが私の、循環反応装甲、だよ。
まぁ本来であれば攻防一体のはずなんだけど、今の私には攻撃の相殺が限界だね。
ただそれも現状では、攻撃が来る方向がわかっていて物理攻撃だけ、という限定条件が付くけどね。」
「なるほど、そのための条件というわけか。
だがそれにしては、最初の方は相殺しきれなかったのはどういうことだ?」
「それは当然だよ。
はじまる直前にマコトから何をすればいいのか教えてもらっただけで、試す暇なくぶっつけ本番だったんだからね。
特に最初は何もかもが初めてのことで訳も分からなかったから、たまたま防御時に発動した力が運良く若干相殺に働いたけど、結果はご覧の通りさ。」
「たまたまか・・・最初は僅かしか攻撃の威力を減衰できなかったからあそこまで吹き飛ばされたのか。
その後、徐々に慣れていき、最後のルーヴでようやく完全な相殺に成功した、というわけか。」
「そんなところ。
ちなみに足元が地面から離れなかったことをずいぶん気にしていたみたいだけど、あれは根は関係ないよ。
根は力を循環させるためのイメージであって、物理的に足元を地面に縛り付けていたわけじゃないからね。
もしそうだったら、今頃私の上半身と下半身は最初の攻撃のときにお別れしてただろうね。」
「後ろに吹き飛ばされることも攻撃の威力を逃がすことの助けになっていて、極力身体にダメージを残さないためだったわけだな。
その後は循環による相殺量が増えたことで、吹き飛ぶ距離や受けるダメージも減ったということか。」
「まぁ間にマコトの回復が無ければ、間違いなく途中で耐えられなくなってただろうね。」
「そうだろうな。
では、もし来る方向がわかっていても属性が付与されていたり、攻撃が来る方向がわからなかった場合などはどうなったのだ?」
「そうだねぇ・・・例えば火属性が付与されていたら、物理的な威力は相殺できても燃えるよ。
それも全身が盛大にね。
その結果、よくて全身火傷で重症、最悪の場合は燃え尽きて灰になるだろうね。
そしてどこから来るかわからない攻撃は、今の私の防御力や回避能力でどうにかできると思うかい?」
「・・・ただの的であろうな。」
「正解。」
「少し話が逸れたな。
とりあえず今の話で原理はほぼ理解した。
その循環反応装甲が完成すれば、フィロには一切、我らの攻撃が利かなくなるだろうこともな。」
「そう単純にはいかないと思うけど、もし本当の意味で完成させることができればそうなるだろうね。」
「否定はせぬか。
だがわからないな。」
「何がだい?」
「何故その仕組みを我らに明かした?
それも事細かく。
知られなければ、それがフィロの強みになり、身の安全を保障することにもつながったはずだ。
わざわざそこまで説明する意味がわからないと言っているのだ。」
「ああ、そのことかい。
今回のこれを終えたことで、私と君たちは過去を水に流して仲間になった。
そうだろ?」
「そういう約束だったな。」
「であれば隠し事は必要無いよ。
それに仲間とは互いに切磋琢磨するもの、だろう?
まぁいきなり仲良くしろとは言わないから、まずは私を自分たちの糧として利用するくらいに考えてもらえればと思ってね。
今回のことで私の戦闘面での有用性も理解してもらえたはずだ。
同時に君たちにとって私という存在が有用で、利用価値があることがわかっただろう?」
「そうなれば我らがフィロを害すことは無いという打算もあるということか。
双方にとって利益のある話、というわけだな?」
「ぶっちゃけると、そういうことだよ。
どうだい、悪い話ではないだろう?」
「よかろう。
我はフィロを仲間と認める。
皆はどうだ?」
「私も認めます。
確かに双方にとって利益のある関係を構築できます。」
「私も認めるぞ。
今後は模擬戦でいろいろ試せそうだ。」
「私も認めるのじゃ。
今後は互いに遠慮する必要は無いのじゃ。」
「私も認めよう。
もし裏切るのであれば、そのときは処すればいいだけだからな。」
リュジュに続いて、アクア、ナーシャ、フェニス、ヴァイフーは、フィロを仲間と認めた。
「当然俺も認めるに決まってんだろ!
そんなことよりよ、もう一回、今度は制限無しで殴らせてくれよ!
そうすれば俺が勝つからよ!」
最後のルーヴに至っては、仲間と認めた上で、早速再戦を申し込んでくるオマケ付きだ。
最早ルーヴにフィロを恨む気持ちは無いようで、逆に興味を持たれてしまったようだ。
当然フィロは全力で拒否する。
「いやちょっと待て、ルーヴ。
君は今の私の話を聞いた無かったのかい。
さっきの条件があったからこそ私の防御は、なんとか君たちと拮抗できたんだ。
その言い方だと条件無しにしろということだが、それでは今度こそ私は本当に死ぬ自信があるぞ。
だから絶対に嫌だ。」
「大丈夫だって!
生きてればマコトが何とかしてくれるからよ!
だから殴らせろよ、今すぐ!」
「断る!」
「そう言うなよ!
今度こそ俺の本気を見せてやるぜ!」
「見せんでいい!
せめて私が循環反応装甲を使いこなせるようになってからにしろ!」
「それだとだいぶ先の話だし、俺が勝てねーじゃねーか!
今ならちょっと身体に穴が開く程度にしておくからよ!
なぁいいだろ?」
「いいわけあるか!」
結果としてフィロは、無事に他の第四世代の神たちに仲間として認められることになった。
特にルーヴには気に入られたようで、しばらくの間どこに行くにも付きまとわれながら、隙あらば再戦を申し込まれることになるのだった。




