フィロの正体18
するとマコトは少し考えてから答える。
「・・・なるほどな。
何となくユダが言いたかったことがわかったぞ。」
「それは本当かい、マコト?」
「いったいどのような意味で、ユダはその言葉を口にしたのですか!」
冷静なフィロに対して、過剰に反応したクシナダだったが、マコトは慌てることなくいつもの調子で答えた。
「黎明と東雲は、どちらも夜明けや明け方辺りを意味する言葉だ。
おそらくこれは、何かしらの計画のはじまりや冒頭部分であることを意味すると思われる。
そして更にオノゴロでは部屋の名前でもある。
仮眠室は寝て起きる場所であることから、活動の開始、もしくは活動の終了であること。
応接室は相手を招いて談話する場所であることから、自分以外と対面で会うこと。
そのため言葉の順番から考えると、計画がはじまり次に誰かと合流する、という隠語ではないかと推測される。」
「なるほど!
つまりユダは、誰かと結託して何かの計画に加担し、自身以外の統制管理者たちを休眠させ、空中都市を分裂させた。
そしてこれらは計画のはじまりであり、その後も計画は進められ、今も計画は続いている可能性があります。
そう考えれば、ユダが口にした言葉と、当時の行動が一致します!
さすがはマコト様です!」
クシナダが興奮気味にマコトを褒め称える一方で、フィロは冷静に注意する。
「クシナダ、ちょっと待ちたまえ。
確かに当時の状況からも、その可能性が高いと私も思うよ。
しかし、あくまでも推測であって、事実とは異なる可能性もある。
何の証拠も無いのだからね。」
すかさずクシナダが反発する。
「フィロ、貴女はマコト様の推測が間違っているというのですか!」
そンなクシナダにフィロは冷静なまま答える。
「全部が全部間違っていると言わないよ。
私もマコトの推測は概ね合っていると思うしね。
でも事実に対して、一言一句違えずに合っているとは言えない。
だから事実が判明しない内は、推測が合っていると決めつけるのは早計だと言っているだけだよ。
何か間違ったことを言っているかい?」
「それは・・・」
クシナダが反論できずにいると、マコトもフィロに同意した。
「フィロの言う通りだ。
現状では事実確認ができないため、推測の域を出ない。」
すぐにクシナダはマコトの意見に同意する。
「承知いたしました、マコト様。
現状は、そのように認識いたします。」
そんなクシナダに、フィロが茶々を入れてくる。
「君はマコトの言うことは素直に聞くんだねぇ。」
「それが何か問題でも?」
クシナダが一転して冷ややかな視線を向けてきたので、フィロはおとなしく引き下がる。
そして追及されるのを逃れるため、何事も無かったかのようにマコトへの質問に切り替えた。
「いいや、無いよ。
それにしてもマコト、さっきの推測は、何かの情報に基づいているのかい?
例えばアカシックレコードの情報とか。」
「その通りだ。
ユダの足跡はフィロを休眠カプセルに閉じ込めた以降は消えている状態だ。
だがその後、オノゴロの東雲と名付けられた応接室内の情報が消されていた痕跡が見つかっている。
おそらくそこで・・・」
「ユダが誰かと会っていた可能性が高い、というわけだね。」
「ああ。」
「となると問題は、ユダが誰と会っていたのか、だ。
ユダが絡んでいるとなると、死亡判定が下された、賢知神アルベル、武法神カルイン、調停神セルト、この三柱も怪しいと思えてくる。
実際にはまだ生きているのかもしれないとかね。」
このフィロの予想に、多少冷静になったクシナダも自分の予想を付け加える。
「他にも、三柱の死亡判定を主導した双妹美神フレ-ラも疑わしいです。
そもそも三柱と懇意にしていたユダを、何故死亡判定に立ち会わせたのか疑問です。」
そんなクシナダに余計なことを言わずに、フィロは更に予想を追加した。
「そうなってくると、双姉美神フレーアでさえ怪しく思えてくるよ。
少なくとも今名前を出した人物たちは、死亡判定を受けたか行方不明になっているからね。
身を隠して潜伏している可能性は大いにあるだろうね。」
「正直なところ、私は全員が怪しく思えてきました。
しかし現状得ている情報では、誰が白で誰が黒なのか特定は困難です。
マコト様はどう思われますか?」
結局謎が深まっただけのクシナダは、マコトに意見を求める。
「俺も二人の言うことはもっともだと思う。
とりあえず現状では答えを急ぐ必要は無いし、慌てて結論付けても後で痛い目を見る可能性が高い。
この問題は慎重に調べていく必要がある、俺はそう考えている。」
慎重論を口にするマコトに、フィロも同意した。
「確かに、マコトの言う通りだね。
慌ててもいいことは無いし。」
当然クシナダもマコトに同意する。
「承知いたしました、マコト様。
引き続き、私の方でも情報収集を継続いたします。」
「頼む。
些細なことでも何でも構わないから、とにかく情報を集めてくれ。」
「お任せください、マコト様。」
話が一区切りついたと判断したフィロは、再びこの場の解散を提案する。
「とりあえず、話は終わりということでいいかな?
だったら私はそろそろ休みたいんだけどね。」
「長々と突き合わせて悪かったな、フィロ。
この場は解散すると・・・」
マコトがフィロの提案に同意しようとしたところで、それまで黙って話を聞いていたノアがそれを遮った。
「その前に少しだけいい、マコト?
たいしたことないけど一つ思い出した。」
このノアの言葉に興味を示し、マコトは話を続けることにした。
「どうした、ノア。
何を思い出したんだ?」
「ユダには影の薄い使いっ走りがいた、たぶん。」
曖昧な内容に対して、マコトはノアに詳しい説明を求める。
「あまり自身が無さそうだが、どうしてだ?」
「私も何度か偶然に、影のようなものが僅かに見えた、と思うから。
ちなみに私はそれを、薄影、と呼称していた。
でも、もしかしたら私の気の所為だったかもしれない。」
「つまり確証は無いということだな。
それにしては、薄影、と固有名称まで付けているんだな。
どうしてだ?」
「ユダにとって都合がいい偶然が起こることが、結構な頻度であった。
でも誰にも気付かれないほど影が薄い仲間がいれば、意図的に偶然を装うこともできる。」
「なるほどな。
つまりそいつはユダのために、普段から誰にも気付かれずに暗躍していた可能性がある、ということか。
ずいぶんと存在感が無い奴なのか、気配を消すことが相当上手いのか、それとも両方か。」
「信じてくれるの?」
「今のところいた証明はノアの証言だけだが、いなかった証明はできない。
ならいる前提で動くべきだと俺は考える。
そう思わないか?」
「うん、私もそう思う。」
そこへダッキニも話に入ってきた。
「わたしもぉん、マコトちゃぁんの考えにぃん、賛成よぉん。
ノアちゃぁんはぁん、ちょっとした違和感にぃん、気付きやすいものぉん。
それに今の話でぇん、ワッチも思い出したことがあるわぁん。」
「それは何だ?」
「ユダには定期的にぃん、使途不明分の物資がぁん、追加で渡されていたのよぉん。
当時はぁん、自分の懐を潤すためかと思ったわぁん。
けどぉん、隠れて部下や仲間なんかを囲ってたならぁん、今思えば納得だわぁん。」
「どうやら、薄影、の存在は信憑性が増してきたな。
ちなみに物資の追加は、どの程度の量がどれくらいの頻度でユダに渡されていたんだ?」
「そうねぇん・・・二~三人分のぉん、生活必需品やぁん、食料なんかがぁん、週に一回くらいだったわねぇん。」
「それはユダからの指示でか?」
「そうよぉん。
統制管理者筆頭の強権を使ってねぇん。
当時はぁん、その権力を使ってぇん、ユダの陣営はぁん、すごく入れ代わりが多かったのよぉん。
だからぁん、その所為で余計な物資が必要になったんだってぇん、思ってたのよぉん。」
「表向きは出入りを激しくして誤魔化すことで、裏では暗躍する者たちを囲っていた可能性が高いな。
だがそうなると疑問がある。」
「何かしらぁん?」
「皆から聞いた話やアカシックレコードの情報にあるユダは、どう考えても権力欲に捕らわれたただの小物だ。
自ら大胆で綿密な計画を立てる頭脳や、それを実行に移す度胸など、まず無いとしか思えない。
そう思わないか?」
「確かにそうねぇん。」
「となるとユダはただの表向きの駒で、その背後には、それらを指示した黒幕がいる可能性が高い。
おそらくその黒幕が、今現在も暗躍している元凶ではないかと俺は考えている。」
「なるほどねぇん。
ワッチもマコトちゃぁんの考えに賛成よぉん。」
このマコトたちの意見にフィロも同意したものの、更なる疑問を口にする。
「ふむ・・・確かに私が知るユダは、権力を持ったことで態度がでかいだけの小悪党、というイメージだな。
そんなユダが、黎明は東雲に、などというひねった暗号を口にするかと言われれば、あり得ないと思ってしまう。
現に当時の私は馬鹿にして暗号とすら思わなかったからな。
だがそうなると、いったい誰がユダの背後にいたのか?
マコトの言う通り、この謎を解くことが様々な問題の解決につながる可能性が高いように私も思う。」
「そうだな。
これについては、引き続き最重要案件として最優先で調査を進めるとしよう。
他に誰か、何か思い出したことや気付いたことはあるか?
どんな小さなことでも構わないぞ。」
マコトは少し間を置いて皆の反応を確認したが、誰からも何もなかった。
「・・・他は今のところ無いみたいだな。
というわけでクシナダ、引き続き調査は続行し、何かあれば都度報告してくれ。
どんな些細なことでも構わない。」
「承知いたしました、マコト様。
何か新しい情報が入りましたら、必ずご報告させていただきます。
そして必ずや黒幕の正体、もしくはその糸口をつかんで御覧にいれます。」
「頼むぞ。」
「はいっ!」
マコトに頼られたことが嬉しかったのか、クシナダはこれまでで一番元気な返事を返してきた。
それを終わりの合図にして、マコトは再びこの場を解散するために、最終確認を行う。
「とりあえず今はこんなところか。
何も無ければ、今日はこれで解散しようと思うが・・・大丈夫みたいだな。」
マコトの言葉に、フィロが緊張を解いて安堵する。
「ようやく終わったか。」
「付き合わせて悪かったな、フィロ。」
「まぁ必要なことだったからね、別に構わないよ。
でもさすがに疲れたね。
悪いけど私が休める部屋まで誰か案内してもらってもいいかい?」
これに対してクシナダが少し迷ってから誰かに任せようとしたが、それよりも先に名乗り出る者がいた。
「なら俺が案内しよう。
皆はもう少し残って話し合いたいみたいだからな。
クシナダ、いいな?」
「はい、ありがとうございます、マコト様。
お手数をおかけして申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。」
「気にしなくていい。
それにフィロも、今はその方が安心できるだろうからな。」
「正直に言うと、そうだね。
じゃぁマコト、案内を頼めるかい?」
「わかった。
こっちだ。」
マコトは部屋ある扉の一つに向かって歩き出すと、フィロもその後について行く。
そのまま二人は部屋から出て行ったのだった。




