フィロの正体17
そんなフィロに対して、マコトはある提案をすることで答えとした。
「考えてはいるし、既に開発を進めているが、正直なところ難航しているのが現状だ。
そこでフィロにも研究に加わってもらいたい。」
これに対してフィロは、間髪入れずに即答する。
「構わないよ。」
「まだ内容も聞いていないのに了承していいのか?」
「こんな面白そうで興味深そうな研究を目の前にぶら下げられて、私に断るなんて選択肢が存在するわけがないだろ。
それで、何を研究するのか、それくらいは今この場で教えてもらえるのだろう?」
期待がこもった視線を送ってくるフィロに対して、マコトには断るという選択肢はなかった。
「わかった。
フィロに手伝ってほしい研究は、アカシックレコードの元になった元始記憶を利用する技術の確立だ。
俺はこれを、オリジンレコード、と呼んでいる。」
はじめて聞く言葉ばかり出てくると、フィロは目を輝かせながら質問してくる。
「元始記憶という言葉ははじめて聞くな。
それで、そのオリジンレコードというのはどういったものなんだい?」
元々説明するつもりだったからか、マコトもフィロの要望に応えた。
「まず元始記憶とは、俺たちが住む惑星などが持つ記憶、まぁ歴史と言い換えてもいいが、それらを記録した情報のことだ。
これは個人の記録に近いものだが、規模が違うため書き換えたり消すことは不可能なものだ。
そのため元始記憶の情報には真実しか存在しない。
この元始記憶に保存されている情報を引き出し、解析して言語、画像、映像などへ可視化した状態にする技術をオリジンレコードと呼んでいる。
この状態の情報であれば、アカシックレコードと同様に、アイが検索して情報を引き出すことが可能だ。」
「つまり元始記憶とは、自然発生した初回だけ書き込み可能な変更不可能の情報記録媒体であると。
その元始記憶から情報を読み込んで理解可能な状態にすることをオリジンレコードというわけか。
となると必要な工程は、大きく分けて次の三つだな。
①元始記憶からの読み込み。
②読み込んだ情報を解析して可視化するための変換処理。
③検索可能な記録媒体へ情報を書き込み。
どうだい?」
「その通りだ。」
自分の考えが当たったからか、気をよくしたフィロが更に予想を口にする。
「となると、この中で最も難易度が高く、私の手伝いを求めていると思われるのは、おそらく②。
違うかい?」
しかしこのフィロの予想は外れてしまった。
「残念ながら不正解だ。
既に全ての基礎理論の構築は完了していて、テスト使用も開始している。」
「おや、そうなのかい?
まぁ内容にはとても興味があるから、研究に協力するのはやぶさかではないがね。
だがそこまで完成しているなら、今更私の手を借りる必要は無いように思うがね。」
「確かに、ただ使うだけなら完成したと言えるだろうな。」
この短い説明だけで、フィロはマコトが何を言いたいのか理解した。
「なるほど、使えるが実用段階に至るには程遠い状態、というわけか。」
「そうだ。
現時点では、必要な情報を検索して可視化するまで早くて数日から数ヶ月。
場合によっては数年単位でかかる場合もあるだろう。
そのため実用化への課題として、必要な情報を最速で検索して取得できるように技術の見直しが必要だ。
フィロには最優先でこの部分の研究に協力しもらいたい。」
「1回の検索に掛かる平均時間は、どれくらいが目標だい?」
「実用可能な状態としては、最大10秒以内で平均は5秒以下にしたい。
最終的な目標は全ての検索を1秒以内にしたいが、とりあえず今はそこまで考えなくていい。」
「まぁそれくらいは最低限必要か・・・となると今の仕様では難しいだろうな。
何故元始記憶から直接検索する仕様にしなかったんだい?
最低限それができないと、速度問題の解決は難しいはずだと思うがね。」
「実際に今の状態の技術が完成したのは二日前だ。
これはとりあえずの技術で、元始記憶の存在確認と、その利用が可能かを検証するためだったからだ。
実用化を目指した技術の開発は、まだはじまったばかりというのが正直なところだ。」
「その開発に私も加わるということだね。
やりがいがありそうな研究でとても楽しみだよ。」
「そう言ってもらえると助かる。
早速明日から研究班に加わって、開発を進めてほしいが、構わないか?」
「構わないよ。
ただその前に、答えてほしいことがある。
いいかい?」
「俺が答えられるものなら。」
「それで構わないよ。
ここまでのマコトとの会話から、アカシックレコードには製作者がいることは間違いない。
私が聞きたいのは、アカシックレコードを作ったのは誰か、だ。」
「その疑問は当然だな。
悪いが、その答えは俺もまだわかっていない。
空中都市の分裂に、アカシックレコードの製作者が何かしら関わっているのは間違いないだろう。
だからこそオリジンレコードを完成させる必要がる。」
「改ざんされたり消された情報、その真実を明らかにするためのオリジンレコードというわけか。
であれば、何としてもオリジンレコードを完成させないといけないな。
私の知識と経験を全て使って。」
「そうしてもらえると助かる。
当然、俺や研究班の皆もできることは協力する。」
「任せてくれ。
ちなみに希望する完成期限なんかはあるのかい?」
「できることなら半年以内には完成させたい。
当然、早いに越したことは無い。」
「半年以内か・・・」
「短い期間で厳しいことは重々承知しているが、できそうか?」
「できないとは言わないが、できるという保証もできない、というのが正直なところだね。
まずは現状を理解して、それをどのように発展させていくかを考えないといけないな。
だが、困難な研究ほどやりがいがあるというものだ。
とりあえず大船に乗ったつもりで、朗報を期待していてくれ。」
「わかった。
何か必要なものがあれば、遠慮なく言ってくれ。
可能な限り用意する。」
「もちろんそうさせてもらうよ。
本音としてはのんびりさせてもらいたかったんだがね。
これは明日から忙しくなりそうだ。」
少し面倒くさそうにそう言いながらも、フィロの表情は今から研究が楽しみで仕方かないというのが誰の目にも明らかだ。
それでもマコトはフィロに申し訳なさそうにしながら、殊勝な態度で頼んだ。
「すまないが、頼む。」
「まぁ任せておきたまえ。」
マコトとフィロの話が一段落したのを見計らっていたクシナダが、再び話に入ってきた。
「フィロ、話を戻しますが、構いませんね?」
「おっと、そういえば話が逸れてしまっていたね。
申し訳ない。」
「問題ありません。
では話の続きの前に、ここまでの内容を簡単にまとめます。
現状ではユダの行方も生死も不明。
助手や助手らしき人物がユダとどのような関係なのか不明。
これで間違いありませんか?」
「間違い無いよ。
今のところの結論として、ユダに関する事は全て不明、ということだよね。
で、他には何が聞きたいんだい?
先に言っておくけど、ユダに関する情報は、私にはもう無いよ。」
「では例の騒動について聞きます。
当時のフィロは、ユダの補佐をしていたはずです。
例の騒動のはじまりから終わりまで何をしていたのか、時系列順で完結に教えてください。」
「例の騒動というのは、賢知神アルベル、武法神カルイン、調停神セルト、この三柱が中心になって反逆したときのことかい?
確か名目は、双姉美神フレーアと双妹美神フレ-ラの双子姉妹による空中都市の私物化に反抗して、だったかな。」
「そうです。
結果として、双姉美神フレーアと双妹美神フレ-ラの手により三柱は断罪されました。
三柱の死亡判定は双妹美神フレ-ラ主導で行われ、当時の統制管理者筆頭であったユダも立ち会っています。
その後、何故か私たち統制管理者は全員休眠カプセルに入れられ、起きた時には空中都市が分裂しており、今に至ります。」
「つまりユダだけではなく、双姉美神フレーアと双妹美神フレ-ラ、他にも大勢いた空中都市の住民たちが何処に消えたのか。
その行方や、何かつながる情報が無いか、ということかい?」
「その通りです。」
「たぶん期待に沿えないと思うけど、とりあえず当時の私の行動を順番に説明するよ。
まず例の騒動がはじまったときは、ユダの指示でユグドラシルシステム内で待機任務に従事。
それはユダが迎えに来るまで続いた。
その後ユグドラシルシステムから出てからは、さっきも話した通り、無理やり休眠カプセルらしきものに閉じ込められた、というわけだ。
以上だが、何か参考になったかい?」
「そうですか・・・こちらの記録に残っていた内容と同じですね。
他に何か気付いたことはありませんか?」
「気付いたことと言われてもねぇ・・・」
「些細なことでも構いません。」
「うーん・・・そういえば、あれは何だったんだろうな。」
「何がありましたか?」
「休眠カプセルらしきものに閉じ込められた直後、ユダが何か呟いていたみたいだったな。
声は聞こえなかったが、確か口の動きを見て、何を言ってるんだこいつは、と思ったことを覚えている。」
「ユダは何を言っていたのですか!」
「それなんだが、あれは何だったかな・・・うーん・・・」
「思い出してください!」
「うーん・・・」
「頑張ってください!」
「うーん・・・あっ!思い出した・・・」
「ユダは何を呟いていたのですか!」
「確か、れいめいはしののめに、だったはずだ。
実際に聞こえたわけじゃないからたぶんとしか言えないがね。」
「それは、黎明は東雲に、ということですか?
どちらもオノゴロにある部屋の名前と一致しますが・・・」
「当時私もそう思ったよ。
でもそうだとしたら、意味不明だと思わないかい?」
「確かに。
黎明の使用用途は仮眠室。
東雲の使用用途は応接室。
これらを当てはめてみますと、仮眠室は応接室に、となります。
単純に考えれば、仮眠室を応接室として一時的に使用する、ということでしょうか?
仮にそうだとして、あの状況でいったい何の意味があるかと疑問に思うだけです。」
「そういうこと。
もしかしたら何かの暗号かもしれないけど、私には何のことやらさっぱりだ。
ただ単にそれらしいことを口にして見せて、場を混乱させたいだけかもしれない。」
「ユダならあり得そうですね。」
「だろう。
マコトはどう思うんだい?」
クシナダとの話の中では答えが出なかったフィロは、マコトにも意見を求めたのだった。




