フィロの正体13
数分後、アイとエイリの報告を受けてマコトがやって来た。
部屋の異様な雰囲気については無視して、早速本題に入る。
「一応確認するが、本当にフィロの記憶の封印を解いて構わないのか?
安全には十分配慮するが、もう少し調べて万全の態勢を整えてからの方が確実に安全だぞ。
今の時点では絶対成功するとは言えないからな。」
危険性を示唆するマコトに対して、好奇心の方が遥かに勝っているフィロは聞く耳を持たない。
「そんな些細なことは気にしなくていいから、早く私の記憶の封印を解いてくれ。
私の過去が暴かれることによって何が起こるのか、そちらの興味の方が大きいのでね。
それに比べれば、僅かに安全の保障が無いなど些細なことだ。
そもそもマコトがここに来たということは、少なくとも最悪の事態は避けられる自信があるのだろう?」
これ以上は何を言っても無駄だと思ったのか、マコトはフィロの記憶の封印を解くことに了承した。
「わかった。
そこまで言うなら記憶の封印を解こう。
だがその前に、こちらの誓約書にフィロのサインと拇印を押してもらうぞ。」
そう言ってマコトが一枚の紙を差し出してきた。
フィロは受け取ると、書かれている内容を確認する。
「なになに・・・なるほど、要約すると、記憶の封印を解除した結果、何が起こっても一切文句を言わないという内容か。
もちろん構わないよ。」
「それだけじゃない。
その過程においても、一切文句は受け付けないという部分も忘れるな。」
「もちろんわかっているよ。
それら全てをひっくるめて問題無いと言っているんだ。
何か書くものはあるかい?」
「これを使ってくれ。」
「では借りるよ。」
フィロはマコトが差し出したペンを使って自分の名前を誓約書に書く。
続いてマコトが拇印用で朱肉を差し出したが、フィロは受け取らず、いつの間にか親指に何かの液体が付いていた。
そのまま親指を誓約書に押し付けると、鮮やかな赤色で拇印が押された。
どうやら樹木としての特徴を生かして、自傷することなく樹液のように自分の血液を滲ませたようだ。
その誓約書をマコトに返してきた。
「これで構わないかい?」
マコトは特に何も言わずに誓約書を受け取って確認する。
「・・・ああ、問題ない。
それでどうする、すぐにはじめるか?
別に時間をおいて後でも構わないぞ。」
準備に少しでも時間をかけたいマコトだったが、好奇心が抑えられないフィロはもう止まらない。
「ここまで来たら面倒事はとっとと終わらせたいのでね。
すぐにはじめてくれ。
さあ、早く。」
目を輝かせているフィロの姿に、とうとうマコトも覚悟を決めた。
「・・・わかった。
それでは早速準備してもらおうか。
ということで、まずは服を全部脱いでくれ。」
このマコトの言葉に自分の耳を疑ったフィロが思わず聞き返す。
「・・・すまないがもう一度言ってくれないか?」
マコトはわかりやすいように、もう少し細かく説明する。
「フィロが今着ている服を全部脱いでくれ、と言ったんだ。
当然下着もだ。」
聞き間違いではなかったことに内心驚きながらも、少し冷静になったフィロが改めて確認する。
「・・・それはつまり、マコトの前で私に全裸になれ、ということか?」
一切間を置かずにマコトが肯定する。
「そうだ。」
真剣なマコトの表情を見て本気だと感じたフィロは、いきなり拒否するのではなく、まずは詳細な説明を求めることにした。
「・・・先に理由を聞いてもいいかい?」
「もちろんだ。
事前にエイリの看破の眼で確認してもらい、フィロの身体のいたるところに存在する刻印の数と位置はおおむね把握できている。
ある程度準備期間を設ければ、何回か確認を繰り返すことで正確性を増すことは可能だ。
だが今すぐとなると話は変わる。
この場で刻印の位置、数、形状、効果を、俺が全て正確に把握する必要があるからだ。
そうしなければ全て同時に解除できないからな。
それには少しでも刻印の情報取得精度を上げるために、衣服などの余計な妨げになるものは排除した方がいいというわけだ。」
「なるほど、情報に余計なノイズが混じらないようにするためか。」
「そういうことだ。」
簡潔な説明であったが、意外にもフィロは納得したようだ。
「理にはかなっているな。
そういうことであれば従おう。
だがその前に二つ質問がある。」
「何だ?」
「一つ目は、今の説明の中で、全て同時解除できない、と言っていたが、それ以外に方法はない、ということか?」
「一つ目の質問の答えだが、刻印は全て同時に解除する必要がある。
それ以外に方法はない。
これは刻印同士が連動しているからだ。
一つでも解除のタイミングがずれると、刻印に潜んでいる何かしらの防衛機構が動くだろう。
そうなるとフィロやその周囲に対して何かしらの悪影響を及ぼす可能性もある。」
「なるほど、理解したし納得もした。
では二つ目の質問だ。
そもそも刻印とやらを100個同時に解除することが本当に可能なのか?」
「二つ目の質問の答えだが、100個同時に解除することは可能だ。
ただし、全ての刻印の正確な情報がわかっていれば、という前提条件の上でだ。
こればっかりは、フィロに俺を信じてもらうしかないがな。」
「確かに。
まぁ誓約書にサインしたからには、信用していると言っておこう。」
「そう言ってもらえると助かる。
それと先に言っておくが、時間をかけた場合もやることは変わらないぞ。
変わるのは正確性が上がるくらいだ。
それを踏まえた上でもう一度聞くぞ。
今すぐやるか、それとも時間をおいて後でやるか、どちらにする?」
マコトの問いに、フィロは着ている白衣を脱ぎながら答えた。
「今すぐだ。
準備をするから少し待ていてくれ。」
「わかった。」
フィロは一切躊躇することなく、次々と着ている服も下着もマコトの前で脱いでいく。
そして一糸まとわぬ姿で一切隠すことなく、マコト正面で向かい合った。
「・・・待たせたね。
これで構わないかい?」
その堂々とした立ち姿に、マコトも行動で応える。
「ああ、そのまま動かずにジッとしていてくれ。」
「わかったよ。」
「では、確認させてもらうぞ・・・」
フィロは涼しい顔で、マコトの全てを見透かすような視線を黙って受け入れた。
数分後、確認を開始してから初めてマコトが口を開く。
「・・・全ての刻印の確認が終わって解除の照準を合わせた。
最終確認だ、解除して構わないな?」
フィロは静かに目を閉じながら迷いなく答える。
「構わないよ。
遠慮なくやってくれ。」
「わかった。
そのまま何が起こっても動くなよ。
では、いくぞ・・・はっ!」
マコトは右手を開いた状態でフィロに向かって突きだす。
そして気合を発して握り込んだ瞬間、フィロの身体の内側から一斉に無数の光があふれ出した。
その際に何かが砕け散るような無数の音が一斉に鳴り響いたが、すぐに光が消えて音も止む。
それから更に数秒、マコトはフィロの全身を確認してから再び口を開いた。
「・・・終わったぞ。
解除は無事成功だ。」
フィロはゆっくり目を開くと、まずは周囲を見回し、続いて自分の身体を少し動かてみてから疑問を口にする。
「・・・本当に終わったのかい?
特に何かが変わったようには思わないのだがね。」
訝しむフィロに、マコトが補足を付け加える。
「解除されてもすぐに記憶が戻るわけじゃない。
若干の時間差がある。
だがそろそろはじまると思うぞ。」
「そうなのかい?
そのような予兆は全く無さそう・・・っ!?
こっ、これはっ、何だ!?
次々と・・・知らない記憶が・・・あふれ出てくる・・・ぐっ、ぐわぁぁぁぁぁ・・・」
フィロは頭を抱えると、その場に膝から崩れ落ちてしまった。
だがマコトは慌てることなく、今の状況と対応方法を説明する。
「どうやらはじまったようだな。
これからどんどん記憶を思い出していくだろう。
フィロ、そのまま記憶の奔流に逆らわずに身を任せるんだ。
すぐに慣れるはずだ。」
「そういう、ことは・・・先に言って、おいて・・・ほしいものだ・・・ね・・・」
フィロは辛そうにしながらも少し余裕が出てきたのか、マコトへの文句を口にしていたのだった。




