東方視察団
東方よりきたれりは………
「これにて貿易の条約の締結が終わりましたな」
クロノス王国
玉座の間。
件のコウシロウ殿下とは違う名もなき島国より使者数名とジーニアスはにこやかに話をしていた。
「貴重な味噌と醤油をこちら側にも渡して頂けるのは実にありがたいです」
「いやいやこちらこそそちらの技術により味噌と醤油の量産に成功したのはありがたいです。やはり食事の充実してこその身体ですからな」
ちょび髭に長い黒髪を後ろに結いあげた人好きそうな中年の刀を携えた着物を着た男に息子とと娘と思わしき二人。どうやらこちらも男女の双子のようだ。どちらも似たような顔立ちをしていて青年の方もにこやかな雰囲気でそのまま中年を青年に変えた感じの青年だ。この中年の男も若い頃はもてたに違いない。女性の方は凛とした雰囲気にどちらかというとこちらの大陸の人間に近しい感じがする。どうやらこの男の奥方はこちらの大陸の人であるらしい。黒髪にこちらの大陸の美しさを兼ね備えた女性は魅力的な美女としてもうつる。男の方も柔らかな物腰でかっこいいというよりかは可愛いという風だ。
「さてゴロウ殿、こうして無事やることは済ませたし、コウ君とリンネちゃんもお腹が減ったろう、私も公務を終えた、食事にいかないか?叔父さんいいだろう?」
「ええ………公務は終ったとしても宰相ですよ?ジーニアス王」
ジーニアスの叔父であるニコライに注意を受けるが肩を竦め転移魔法陣の刻まれた紙を取り出した。
「しかしいきなりですね」
「いいだろう、東国の料理を作れる店はここくらいなものだから」
ジーニアスはにこりと微笑む。
「しかし毎回シンヤ君達は居ないね」
「基本的に学生ですからね、学業優先です、今日はそちらがお客さんですかね?」
「ああ、商業都市シュラクの使節の方だよ、ゴロウ=マサムネさんとコウ=マサムネ君とリンネ=マサムネちゃんだ」
若い男女は頭を下げると同時に席につく。
「こちらの大陸のものも味が濃くておいしいのですが………やはり何カ月もいると淡白な我が国の料理が食べたくなりますね」
「シュラクといえば寿司が盛んな地域でしたね」
「ええ、漁師が多い街なので片手間で食べれるものが主流ですね」
「なるほど、では握り寿司に致しましょうか、丁度良い魚が手に入りましたので」
「それはありがたい」
ゴロウはにこやかに微笑むとジーニアスが注いでくれた冷酒をあおる。
「しかしジーニアス王は気が良い御方ですな、なかなか民衆に混じって飲む事はないですよ」
「はは、民が好きなのさ、母も元は王家とは関わりのないヒトだったから、よく街中で御酒を飲んでいたようだよ、母の性格に似たのかも知れないな」
ゴロウとジーニアスがしみじみと酒を飲みながらレイの握った握り寿司に舌鼓を打つ。
「………姉上………このネタは高級魚ではないか?」
「………そうだな、弟よ………これは私達も滅多に食べれない朧鯛だ」
コウとリンネが戦慄しているのは朧鯛と呼ばれる本来ならば祝い事の席でしか出されない高級魚である。味は淡白にして濃厚。わさび醤油にも合ってスイスイと食べれる魚であるのだ。父並みの給金であれば普通に食べれるであろうが使節団として来ているとしてもまだ下級の役人………本来ならば白金貨二枚はするであろう寿司を銅貨三枚でいただくとなるとやはり度胸がいる。
目の前の店主であるレイ=シルベリアは自国にも名前は知れ渡っている。この国の闇の大貴族の令嬢である。ゼファー=シルベリアの夫にしてクロノス王国最強の男とも名高い人物だ。この男は料理人と言いながらも様々な知識に精通し、多くの絶滅危惧種などの保護………未だかつて誰も為しえなかった希少食材のコンプリートなどがあげられ、滅多に戦闘はしないので彼の戦いは滅多に聞けないのだが………瞬きをする間もないくらいの流れるような武術をするらしい。そしてその武術はあらゆる武器に通じ誰もが弟子入りも懇願するも断わられているらしい。ランク未定の魔物すら彼を避け時に敬うのだとか………[黒の料理人]侮りがたし。
「毒などありませんよ、そして朧鯛も養殖というだけで天然物と味は変わりません」
二人の視線を見ながらレイはにこりと微笑む。からくりを教えるとこの前友人であるルビーが恋人であるマモルの為に狩ってきた朧鯛を調理した時ふとレイが[養殖]という言葉を言った事に端を発した。どうやらこちらの文化ではコピーという文化はあっても養殖という文化はなかったらしく商会の長であるルビーは商魂逞しくレイに問いかけた。レイもうろ覚えな知識なのだかと前置きを入れて教えた所………レイ以上にスマートフォンを扱いなれたルビーがマモルと共に朧鯛を狩りにいったあとそのまま養殖場を国外れに作ったのは記憶に新しい話だ。
「何故ここまで本物かは知りませんね、すいませんね」
「………いえ………噂に名高いデミムーア商会の現当主ならば得心が行きます」
「………」
リンネがそのまま頭を下げる。
「失礼を承知してお願い致します!!私に料理を教えてくれませぬか!!」
リンネの言葉にゴロウとコウは静かに眼を瞑る。
聞けば彼女は幼少の時から料理人に憧れており………母の慣れ親しんだ料理にいつも憧れを抱いていた。勿論故郷の料理も好きだが………母譲りのこの姿形に沿った生き方もまたしたいと願っていた。父も兄も承諾してくれているし、今回の使節の目的はレイに弟子入りすることでもあった。都市を統括する総代にも話は通しており、レイ個人に後は直談判するだけであった。
「構いませんよ、丁度調理人欲しかったし」
「へ?」
「あれ、君、弟子は取らないんじゃないの?」
ジーニアスの言葉にレイはやれやれとため息をつく。
「それは武勲を立てるだとか、権力に対して強欲な奴にだけですよ、僕の扱う術はどうあがいても殺人術………自分の心を律せない者にどうして教えれましょうか………だがこの子は違う………本当に料理で幸せにしたいという気持ちがわかります………店長ですからわかりますよ」
にこりと微笑みながらリンネと握手をする。
「よろしくリンネちゃん」
その言葉にリンネは力づよく頷きゴロウとコウは穏やかに微笑み………ジーニアスは新たな料理人に祝杯をあげた。




