王の一日
優雅なる
ジーニアス王の一日。
やあ、皆元気かな?ジーニアス=クロノスだよ、私は中央大陸最大の王都クロノスの現国王だ。嫁もまだ娶ってないのにふざけた親父のせいでいきなり十年前に王子から王にランクアップだよ………まあそつなく公務はさぼれる分には出来ているからいいんだがな。まあ王になる理由が可愛い妹じゃなかったら潰してるけどね。可愛い弟はどうやら反抗期だし………今日も和楽にいこうかなと思ったわけだけど。
「毎回レイ殿の所に遊びにいくのはいいですがせめて東国の貿易書類をみてください」
スキンヘッドのひげもじゃの優しそうな老人が額に血管を浮かばせながらにじり寄る、彼の名前はニコライ=クロノス、正真正銘僕の叔父だ、昔から世話になって良い叔父さんなんだけども………真面目すぎるのがたまに傷。
「………たしかに同年代の御友人を作る時に即位したのもありますし、大目に見ます、ですが貴方は一国の」
公務はしているし舐められそうになったら普通に物理かましてんのになー、クドクドいってる間に書類は終った………次は………あ、もう全部終ったんだっけ………しばらくレイ出張お願いしてたし………エアリスちゃんのいるとこにはジークもいるし………さすがに弟の恋路をお兄ちゃん邪魔したくないしな………、あ、でも美味しい魚が手に入ったとかいってたし何の種類かは知らないけど………いいなあ………酒盗で冷酒とかたまらないだろうなあ………てか今日は月一のあり合わせ定食の日じゃないか!? 失念してた!!これはいかないといけない。
「………話をきいてますか?」
「………ごめん」
ニコライ叔父さんは宰相になってからますます頭がかたくなった………、怒鳴られながらはあとため息とつくとジーニアスにある妙案が浮かんだ。そういえばニコライにはレイの食事を食べさせた事はない。ならば………自分のやりたい事には恐ろしく頭のまわる男である。
和楽。
そこには包丁を研ぎながら月一のありあわせ定食を思案するレイがいた。
「(先日はこってりしたとんかつだったから今回は酒に合う刺身がいいな)」
今日いった顔なじみの魚屋から大量に新鮮な魚介類を頂いたのだ。
「………残ったのは保存魔法でお魚さんにあげればいいか」
そう呟くと調理を開始する。もうしばらくすれば馴染みの常連客も来るしエアリス達も学校から帰宅する事だろうと考えていた矢先に馴染みの声がした。
ニコライ=クロノスは困惑していた。どうしても話したい事があるからとジーニアスから声をかけられついた先はいつもジーニアスが友人として語るレイの店であった。正直な話同僚とも食事処等は来ることもあるので別段問題はないが、ここまで少年のように戻る王をニコライは見たことがなかった。
そして店主であるレイ………この男もまた未知の人物として名高い………この国の帝を圧倒する力を持ちながら権力を求めもせずにただ場末の店の店主として日々腕をふるっている。またこの事は最高機密なので言外には漏らさないが機械文明黄金期に作られたヒト型殲滅兵器を妹ととして引き取り従者である大型犬に言葉を与えたというのも聞いている。また双子の妹は医学界での異端児とも呼ばれるべき医術の様相を変えた一人であり闇帝のゼファーと肩を並べるほどの手腕を持つ女医だ。
犯罪組織[武龍]のボス………ミモザ=スクリプトとも接触した共聞いているし、雷帝の要するデミムーアカンパニーとも縁深い………さらには神出鬼没の奇跡の仙人………シンとも遠縁にあたるという。
表社会でも裏社会でも注目されここまで強大な力を持ちながらも慢心せずに手心加えた料理を作る青年………実に興味がつきない。
「ニコライさんは嫌いなものありますか?」
レイ青年の穏やかな言葉にニコライはにこりと微笑むと
「何もないよ、出来るなら酒に合う物がいいな」
そういえば久しく酒を飲んでない事に気づきニコライはビールを頼む事にした。
この店での冷ビールは有名であり実に美味だと城の兵士から聞いている。ニコライは王であるジーニアスにはよく国のためと怒るが部下や国民を実に大事にする好々爺としても知られている。ジーニアスは酒盗という酒に合う独特なおつまみを頼んで冷酒という飲み物を飲んではいるがニコライとしては若き時分より麦酒に慣れ親しんでいた。ならばその美味さを極限まで極めた味があるならば賞味しておきたい。
ビールサーバーという機械から出された黄金色の酒が置かれると同時に首元を緩め、ニコライはゴクッゴクッと飲み干す。
美味い………!!!
普段飲むような温い麦酒ではなく冷たいビール!!たしかに王であるジーニアスも公務を片づけて飲みにくるわけだ。そしてコトリと目の前にいかをピンク色で着色したようなものが置かれる。
「これはなにかな?」
「いかの塩辛です………魚の内臓を使ったりもしますので苦手な方もいますが、御酒が好きな方は好きですよ」
たしかに見た目はグロテスクではあるが酒好きが好きならば賞味せざるえまい、ニコライはごくりと唾を飲み込むと同時に一口食べる。
美味!!
多少の魚臭さがあるもののそれが酒に実に合う! 確かに女人等は好ましく思わないのだろうがそれはそれ、なんともいえない塩辛さがさらに口の中の幸福度を高めていく。気づけばニコライは熱燗を頼んでいた。
「………怨みますよ、ジーニアス様………いつもこのような美味な店に来るとは」
酒に酔ったニコライは紅い顔でジーニアスを見る。
「だってさ、ニコライ叔父さんは忙しいからって理由で来なかったじゃない」
「………それはですな、私は貴方の事を思って」
「お水お持ちします?」
「すまないね、レイ君」
打ちとけたレイにニコライは苦笑しながら礼を言う。
「だからさ、ニコライ叔父さん」
「私は宰相です」
「いいじゃない、今はただの甥と叔父でしょ」
「………ではジーニアスなんですか」
ニコライはにこりと笑う。
「子を持てなかったニコライ叔父さん夫婦は私達兄妹のもう一人の父母です、酒の席くらい親子の会話させてよ、ニコライ叔父さん………本当に苦しいなら私はきちんと言うから」
ジーニアスはにこりと笑いそう言い返す。
「………ですな………私は過保護すぎたようですな………ジーニアスはもう大人だ」
「そうそう、その気持ちは妹と弟にやってあげてよ」
「そうですな………ジークはまだまだ手のかかる子だ」
「ああ、家族なんだから輪に入ればいいのに」
ニコライはにこやかに笑う。
「………そうだな、まだまだ兄上と共に君達の父をやらせてもらうさ」
「頼むよ………叔父さん」
「今日のありあわせ定食………刺身定食です、わさびと醤油でめしあがってください」
ニコライはありがとうというと器用に箸を用いて
「………うまいな………ジーニアス………今度から会議はここでしよう」
「………いいね、それ」
そこには王と宰相という肩書をとった二人の男が微笑んでいた。




