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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 6 黄昏の時代
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 19 -黄昏の号笛-


 19 -黄昏の号笛-


 決戦の日がやっていた。

 一体、私とシンギ教官、どちらが最強の座を手にするのか。

 それが今日決まるのだ。

(緊張してきた……)

 スラセラート学園から少し離れた海上に聳え立つバトルフロートユニット。

 その内部にあるハンガーにて。

 試合を15分前に控え、葉瑠はかなりの緊張状態にあった。

 昨日は良く眠れたが、今になって緊張してきた。領域内でのバトルは当然として、一体どんな展開が待ち受けているのだろうか。

 アビゲイルのオーバーホールも終わり、兵装も全てチェック済みで準備は万端だ。が、心の準備はまだできていない。

 ランナースーツ姿でアビゲイルの前を行ったり来たりしていると、唐突に声を掛けられた。

「葉瑠ー、おひさー」

 突然の女性の声に、葉瑠は体をビクリとさせてしまう。

 しかし、その声の主が見知った人だと知り、葉瑠の表情は一変した。

「エ、エネオラ先輩!!」

 ハンガーに入ってきたのはアメジスト色の髪が特徴のランナー、エネオラだった。

 エネオラはにこやかな笑顔で手を振っていた。

「俺もいるぞ」

 そんなエネオラ先輩の背後から顔を覗かせたのはロジオン教官だった。

「ロジオン教官まで……」

 ロジオン教官は相変わらず酒好きのようで、手にはしっかりと酒瓶を持っていた。

 葉瑠は二人に歩み寄る。

「どうして二人共こんなところに……?」

 葉瑠の純粋な問いかけに、エネオラは当たり前のように理由を述べる。

「私の弟子が世界最強のシンギと真剣勝負するっていうのに、本国でのうのうと機体テストしてるわけにはいかないでしょ」

「ああ、こんな勝負二度と無いだろうからな。見ないと絶対後悔すると思って来たってわけだ」

 露国からわざわざありがたいことだ。と言うか、シンギ教官と私が対戦するという情報はどこから漏れたのだろうか……

 エネオラは葉瑠の頭をぽんぽんと叩く。

「……勝てるよ、頑張って」

「はい」

 エネオラ先輩に言われると本当に勝てる気がしてくるから不思議だ。

 彼女には長い間お世話になった。彼女のためにもこの勝負、無様に負けることだけは避けなければならない。

 改めて気合を入れなおしていると、またしても新たな人影がハンガー内に現れた。

「やあ葉瑠くん、久し振りだな」

 艶のあるテノールボイス、この声は間違いなくアルフレッド教官の声だ。

 確信を持って振り返ると、金属製の仮面を装着した男性が入口付近に立っていた。

「アルフレッド教官……」

「戦場での噂はこちらにも届いているよ。……問答無用で敵を切り捨てる、漆黒の悪魔として恐れられているそうじゃないか」

「そうなんですか……」

 初耳だ。何だか恥ずかしい名前である。

「あと、絶対にコックピットは狙わないって噂も聞いてる。治安維持部隊での仕事、頑張ってるみたいね」

 アルフレッド教官に続き、ブロンズの髪に褐色肌の女性……ルーメ教官もハンガー内に入ってきた。

「ルーメ教官!!」

 インドでのクーデター事件から全く連絡を取っていなかったが、無事だったようだ。

 二人を前にして、葉瑠は本心からの言葉を告げる。

「おふたりとも無事で何よりです。もう会えないかと……」

 葉瑠の言葉に、素早くアルフレッドが突っ込みを入れる。

「いや、学園には頻繁に足を運んでいたつもりなんだが、葉瑠君が出突っ張りで会う機会がなかっただけだろう」

「そういえばそうですね……」

 葉瑠はここ半年の自分の行動を振り返る。

 私はずっと治安維持部隊と共に行動していて、学園には一度も帰っていない。そんな状態で彼らと会えるわけがないのだ。

 浅はかな発言を取り繕うように、葉瑠はルーメに話を振る。

「ところでルーメ教官、今は何をしてるんです?」

 アルフレッド教官が何をしているのかはだいたい想像がつく。が、ルーメ教官はあんなことがあった後、何をしているのか気になる。

 ルーメは気負う様子もなく応じる。

「今は実家でのんびりしてるわ。後は……たまにNPO法人で難民キャンプの支援活動をやったりしてるわね」

 てっきりランナーを続けているかと思ったが、VFとは縁を切ったらしい。

「何だかもったいないですね」

「私は見た目以上に弱い人間なのよ。あなたと違ってね」

「……?」

 ルーメは物憂げな表情を浮かべたが、誤魔化すように葉瑠の背中を叩く。

「とにかく、挑戦する以上は全力で頑張りなさいよ」

「もちろんです!!」

 ルーメから激励を受けていると、その言葉に毒づくように横槍が入ってきた。

「頑張ったって無駄なじゃないかなー?」

 内容とは裏腹に可愛らしい声で登場したのは金髪にエメラルドグリーンの瞳が映える少女、頭部に猫耳のカチューシャと銀のヘアピンを装着した少女、カヤだった。

 カヤは葉瑠に急接近し、ランナースーツの胸元を突く。

「無謀なことはやめといたほうがいいんじゃないー?」

「そんなこと言わないでよカヤちゃん。無謀でも何でもやってみるの」

 葉瑠はカヤの手を掴み、優しく払いのける。

 こちらの決意を汲んだのか、カヤは「ちぇー」と後頭部で手を組み、つまらなさそうに背を向けた。

「何言ってるんだよカヤ、葉瑠なら勝てるかもしれないじゃないか。1%くらい……」

 カヤの言葉を撤回するように、フォローの言葉を送ったのはカーキの長い三つ編みが特徴の少女、スーニャだった。

 が、あまりフォローになっていなかった。

「1%って……スーニャ、それ、応援してるの……?」

「応援してるつもりだけど?」

 スーニャは本気で言ってるらしい。その瞳に曇りはなかった。

「1%はひどいな。少なくとも15%くらいはあるだろう」

 スーニャに乗っかるよに言葉を発したのは長針で痩せ型、ロングコートを身にまとったジェイクだった。

「ジェイクさん……」

 宏人さんの死を一番悲しんでいるのは彼に違いない。が、彼も私と同じく宏人さんの遺志を受け継いでいるようで、アンカラードの一員として活動を続けているらしい。

 近況は知らないが、こうやってスラセラート学園に出入りできる事を考えると、まっとうな手段で世界平和のために尽力しているようだ。

「妹君、勝利を願っている」

 15%という数字はどうやって算出したのか気になる所だが、応援してくれているのだから気にしないでおこう。

「葉瑠さん、先手必勝よ、先手必勝」

 ジェイクさんに続いて現れたのはショートの赤毛を左側に編み込んでいるイリエ教官だった。

 今はスラセラート学園に在籍していない。ジェイクさんと行動を共にしているのだろう。

 イリエは自慢気に続ける。

「私、こう見えて一度シンギ教官に勝ったことあるのよ? ダイヤモンドヘッドの時に……」

「はいはい、自慢は後でね」

 イリエさんを押しのけて会話に割り込んできたのは学園の校医、リリメリアさんだった。

 リリメリアさんは拳をぐっと握り、葉瑠を激励する。

「思いっきり戦ってきてね、もし四肢がなくなったり両目が潰れてもわたしの再生医療技術なら……」

「縁起でもないこと言わないでくださいよ……」

 でも、この勝負は真剣勝負だ。そういうことになる可能性もある。

 が、それも覚悟済みだ。

 私は私の為に戦う。腕や足を失う程度のことで決心が揺らぐことはない。

 リリメリアさんは優しくこちらの肩を叩き、ウインクする。

「葉瑠さん、悔いのない戦いを」

「はい」

 気が付くとハンガー内は人で溢れかえっていた。

 こんなにも応援に来てくれるなんて思っていなかった。

 嬉しい上に緊張も解けた気がする。ありがたい限りだ。

 次々とハンガーに人が訪れる中、予想だにしない人も現れた。

「葉瑠さん」

「セルカ理事長……」

 いつの間にか正面に立っていたのは長い銀髪と蒼の瞳が美しいセルカ理事長だった。

 葉瑠はセルカに問いかけてしまう。

「あの、シンギさんの応援に行かなくていいんですか?」

 セルカ理事長はシンギ教官の婚約者だ。当然シンギ教官を応援するものかと思っていたが……何か事情でもあるのだろうか。

 セルカはクスリと笑い、自慢気に告げる。

「あの人は最強ですから。私が何も言わなくても最高の実力を発揮してくれます」

「そうですか……」

 応援というより、シンギ教官の強さを自慢しに来たんじゃないだろうか。

 そんなことを考えている間もセルカ理事長は言葉を続ける。

「だから葉瑠さん、あなたも全力で戦ってあげてください。シンギさんはあなたに期待しているんです。自分を負かしてくれるかもしれないと期待しているんです」

「……」

 シンギ教官がそんなことを思っているなんて意外だ。

 嘘か本当か分からないが、セルカ理事長が言うのだから本当なのだろう。

「期待に応えてあげて下さいね」

「……はい」

 葉瑠は真剣な表情で応え、深く頷く。

 すると、見計らったかのようにハンガー内にアナウンスが流れ始めた。

「――試合開始5分前です。対戦者はVFに登場し、リフトまで移動をお願いします」

 とうとう試合まで5分だ。

 葉瑠は全員に向けて軽く手を振り、VFアビゲイルの元へ向かう。

 その道の途中、結賀が立っていた。

 結賀は腰に手を当て、自信満々の快活な笑みを浮かべていた。

「葉瑠」

「結賀……」

 言葉は必要ない。何を言わずとも、お互いに何を伝えたいかわかっている。

 二人は軽くハグし、数秒で離れる。

 結賀のとのハグの後、最後に待ち構えていたのはリヴィオだった

 リヴィオはアビゲイルの足元に立っていた。

「葉瑠、勝てよ」

「うん」

 葉瑠はしっかりとした声で応え、コックピット内に入っていく。

 リヴィオは二度告げる。

「絶対、勝てよ!!」

「うん!!」

 力強く返事をし、葉瑠はコックピットハッチを閉じた。

 すると、静寂が訪れた。

 これから先は私とシンギさんの勝負だ。誰にも邪魔されない、純粋な勝負だ。

 HMDを被ると、抑揚のない女性の声が耳に届いた。

「覚悟は決まりましたか、葉瑠」

 それは、戦闘支援AIと一体化したアビゲイルの声だった。

 この半年間、アビゲイルと私は数々の戦場を潜り抜けてきた。相性は抜群、連携も抜群、お互いのことも十分に理解しきっている。

 オーバーホールも済んだことだし、今までで最高の戦闘能力を発揮できることだろう。

 葉瑠ははやる気持ちを押さえ、アビゲイルに問い返す。

「そっちこそ、準備は万端? アビゲイル」

「私はいつでも出られます」

「じゃ、早速行こうか」

 葉瑠はコンソールに手を載せ、アビゲイルをリフトまで移動させる。

 リフトは自動的に上昇し始め、葉瑠を屋上のバトルエリアへと導いていく。

 屋上のバトルエリアには既に紫の機体、嶺染が中央で待ち構えていた。

 葉瑠はリフトが上昇しきらないうちにジャンプしてエリアに降り立ち、中央へ歩み寄っていく。

 やがて定位置につくと、ヘクトブレードを抜き、両手に構えた。

「お待たせしました」

「ああ、ずっとこの日を待っていたぞ」

 シンギはそう言うと鋼八雲を鞘から抜き、腰のあたりで構える。

 その構えからは紛うことなく殺気が放たれていた。

 本気だ。

 これから本気の勝負が行われる。

 勝負は多分20秒もかからず終わる。領域に入った後はミスをしたほうが負ける。

「それではカウントダウンに入ります。……10……9……」

 カウントダウンが始まり、葉瑠の緊張はどんどん増していく。

 まずは受けるべきか、それとも刺すべきか、カウンターを狙うべきか、回避すべきか……

「5……4……」

 カウントダウンを耳にしつつ必死になって初手を考えているとシンギさんに名を呼ばれた。

「葉瑠」

「はい?」

 シンギさんは優しい声で、期待の篭った声で告げる。

「楽しい試合になるといいな」

 その言葉はシンギさんの人生そのものを表しているように思えた。

 真剣勝負を前にして、このような言葉を吐ける人間……私もそんな人間になりたいものだ。

「3……2……」

 葉瑠は満を持してシンギに応じる。

「……はい!!」

「1……試合開始です」

 答えると同時に試合開始のブザーが鳴り響く。

 その音は気持ちよく天高くまで届いた。

 これで第6章『黄昏の時代』は終了です。

 この作品、『黄昏のヴァイキャリアス』も終了です。

 そしてようやく『ヴァイキャリアス』シリーズも終了です。

 耀紅のヴァイキャリアス、焉蒼のヴァイキャリアス、黄昏のヴァイキャリアスとシリーズを通して長かったですが、ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。そして、お疲れ様でした。

 次のエピローグで本当の本当に終わりです。

 今後もロボット物に限らず、色々と投稿していきたいと思っております。

 本当にありがとうございました。

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