第70話 質問攻めと、あふれる気持ち
◆side栞◆
体育館、涼と一緒に行こうと思ってたのに──
「しおりん、行こっ?」
「えっ、えっ?! ちょっとっ! 私は涼と──」
「いいからいいからっ! 」
あっという間に彩香に捕まって、いつの間にかクラスの女の子たちに囲まれていた。
そして、あちこちから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。それも、涼とのことばかり。
「黒羽さんと高原くんってさぁ、いつ頃から仲良くなったの?」
「てか、それ聞くならいつから付き合ってるのかじゃなぁい?」
「そんなことより、高原くんのどんなところが好きなのか気になるー!」
「二人が付き合うなんて、ほんと意外だったもんねっ!」
……みんな、人の恋愛に興味津々すぎないかな?
気になる気持ちもわからなくはないけどさぁ。
だから、私はこの質問攻めを正面からぶった切ることにした。
「私……涼のこと、好き──なんかじゃないよ」
『……えっ?』
一瞬にして、空気が凍り付いた。
それに構わずに、私は続ける。
「だって、私……涼のこと、大好きだもん。顔も、声も、手も、髪の毛の一本まで、全部。でも、やっぱり一番大好きなのは中身かな。涼はね、私のヒーローなの。だから、好きなんて言葉じゃ全然足りない。大好きでも届かないくらい、好きで好きでたまらないの」
……どうしよ。
恥ずかしいのに、止まらなくなっちゃった。
勝手に口から、涼への想いがあふれ出して。私の周りだけ、妙に静かになったかと思ったら──
『きゃああぁぁーーー!!』
黄色い歓声が廊下に弾けて、ビクリと肩が跳ね上がった。
「やっば! 黒羽さん、高原くんにガチ恋じゃん!」
「やーんっ、こんなの聞いたらニヤけちゃう!」
「ちょーっと重いけど、それがまたいいよね!」
「うわぁ〜。高原くん、めちゃくちゃ愛されてるぅ!」
……あ、あれ?
引かれちゃったかと思ったけど、そうでもないかも?
なら、もっと喋っても……いいのかな?
私、涼の好きなところならいくらでも言えちゃうし。
そんなことを考えていると、なぜか私の横で彩香が得意気に胸を張った。
「そうだよ、みんなっ! しおりんの許可なく、高原くんにちょっかいかけたらダメだよ! しおりんってば、高原くんにベタ惚れで独占欲マシマシなんだからっ! ねーっ、しおりんっ?」
「う、うん……まぁね。涼はいつも優しくて、どんどんかっこよくなってくし。本当に大好きで大好きで、気持ちが抑えられなくなっちゃって。それで私から告白したんだもん。他の人に盗られたくないって思うのは普通のことでしょ?」
また、黄色い声が飛び交う。でも、その中で一人だけ、驚いた顔で私を見ている人がいた。
「……告白って、高原くんからしてもらったんじゃ、ないんですか?」
えっと……橘さん、だったっけ?
「おやおやぁ? さっちんはそこが気になっちゃう感じかぁ」
「だ、だって彩ちゃんっ! やっぱり告白って、された方が嬉しいというか……そういうの、憧れちゃうじゃないですか!」
「相変わらずさっちんは乙女だねぇ。そんなだから、かづちんとなかなか進展しないんだよ?」
「ちょっと彩ちゃん! 恥ずかしいからそういうこと言わないでくださいっ! わかってますよ……私だって。でも……それができたら、苦労しないというか」
……んー。なんだろ、この感じ。
まるで、涼に告白することを決める前の自分を見てるような。
だからなのかな。
ふと、口から言葉がこぼれた。
「そうだよね。怖いよね」
この気持ちが、一方通行だったらどうしようとか。気まずくなって、距離ができちゃったらどうしようとか。
私も散々悩んだから、わかるよ。
相手から告白してほしいって気持ちも、理解できる。
「……でもね、私は自分から伝えたよ。涼に私の気持ちを知ってほしかったし、私の特別になってほしかったから」
「え、あの……黒羽、さん?」
「……私がうまくいったから言えることだってわかってるけど──本当に欲しいって思うなら、自分から行かないとダメな時もあると思うの。待ってる間に誰かに取られちゃったら、絶対に後悔するよ。それでもいいなら、待ち続けるのも悪くないかもしれないけどね」
実際、私も待つって選択をすることだってできた。そしたら、涼から告白してもらえたかもしれない。
それでも、私から伝えて良かったと思ってる。
あの時にはとっくに、友達なんかじゃ我慢できなくなってたから。
……まぁ、言った直後に恥ずかしくなって逃げ出したせいで、その後は全部涼に持ってかれちゃったけどね。
「橘さんの気持ちがどれだけ大きいのかは、私は知らない。でも、どうしてもって思うなら、なりふり構ってられないんじゃない? 少なくとも、私はそうだったよ」
言い終えて、少しだけ不安になる。
……ちょっと、偉そうなこと言っちゃったかな?
と思ったのも束の間。私は、橘さんに両手をぎゅっと握られた。おまけに、忠犬みたいなキラキラした目を向けてくる。
「黒羽さんっ! いえ、先生と呼ばせてくださいっ!」
「……え、えぇっ? 橘さんっ?!」
「さん付けで呼んでいただくなんて恐れ多すぎます! 私のことは、どうぞ紗月とでもお呼びください!」
「えっと……じゃあ、紗月?」
「はいっ!」
「とりあえず……先生はやめよっか」
「そんなぁっ! では……師匠はいかがです?」
……橘さんって、こんな子だったっけ?
話すの初めてだから知らなかったけど。
とにかく、変な呼び方だけはやめてもらわないと。涼しか知らないのに、恋愛マスターみたいに思われても困るもん。
「とりあえず、普通に呼んでくれるかな?」
「そう、ですか……。わかりました。では──栞、ちゃん?」
「うん……それなら、いいよ」
じっと不安そうに見つめてくる紗月が、急に可愛く思えてきて──
「……ってぇ! なーにを二人だけで見つめ合っとるかぁっ! あたしも混ぜんかーいっ!」
突然、彩香が強引に間に割り込んできて、もうめちゃくちゃ。でも、こういうのも悪くないような。
ううん。
……楽しい、かも。
「ところで、かづちんって誰のことなの? 彩香のセンスが独特すぎてわかんなかったんだけど」
「あぁ、それはねぇ。漣日月──名前が日月だから、かづちんだよ!」
「だから彩ちゃんっ! 大きな声で言わないでくださいって!」
「……ふぅん。漣くんのことだったんだ」
ふと振り返ってみると、後ろを歩く男子の集団。その中にいる涼の姿は、すぐ見つかった。
さらに涼の隣には、柊くんと、噂の漣くんがいる。その構図を見て、なんとなく理解した。
あぁ、だからなんだね。
これまで涼以外とは関わってこなかった私だけど、クラスの中で誰と誰の仲がいいかくらいは知ってる。
柊くんと漣くんはよく一緒にいたし、彩香と紗月も同じ。それから、柊くんと彩香は幼馴染で恋人同士だったはず。
……もしかすると、涼たちも似たようなこと話してたりして。
なんとなく、この二人がうまくいくような予感がして──
私は、こっそりと涼にウインクを送った。




