第69話 新たな友人と、恋愛相談
声のしたほうを向くと、そこには一人の男子がいた。
顔を見てもなかなか名前が思い出せず、必死で記憶を探っていると、遥が先に横から口を挟んだ。
「お、日月じゃん。どうした? 涼になんか用か?」
あぁ、そうそう。
漣日月だ。
「いや……なんで遥がそんなに高原と親しげなんだよ?」
「俺と彩さ、こいつと黒羽さんに休み中一回出くわしてんだよ。そん時に、一足先にいろいろと話聞いてたんだわ」
「……へぇ、それで。って、そんなことより、高原に聞きたいことあるんだけど、いいか?」
「構わないよ。俺に答えられることなら……だけど」
「んじゃ聞かせてもらうけどさ──高原と黒羽さんって、付き合ってんだろ?」
「え……うん、まぁ。といっても、付き合い始めたのはつい最近だけどね」
思っていた通りの質問に、俺は警戒レベルを一つ上げる。さっき栞を口説こうとしていたやつらの目が、わりと本気だったから。
「やっぱり、本当なんだ……。あぁいや、別に疑ってたわけじゃないんだけどな。んで……こっからが本題なんだけど──」
漣はやけに深刻そうな顔をして、少しだけ躊躇って、それからようやく重い口を開いた。
「告白ってさ……どうやってしたんだ?」
視線を逸らしたまま、ぽつりと呟く。その肩を、遥が軽く叩いた。
「ったく日月よぉ……。お前、まだ告ってなかったのか? 早くしねぇと、夏休み終わっちまうぞ」
「う、うるさいなっ! そんな簡単にできたら苦労しないんだって! というか、遥には聞いてないだろ!」
「ったく……。いつまでうじうじやってんだか。なぁおい、涼からもなんか言ってやれよ」
……なるほど。
遥のおかげで、なんとなく話が見えてきた気がする。
「つまり……漣くんには好きな人がいて、告白したいけど踏み切れない──ってことであってる?」
「……話が早くて助かる。けど、俺のことは呼び捨てでいいぞ。俺も高原って呼んでるし」
「あ、うん。じゃあ、俺も漣って呼ぶよ。それで本題なんだけどさ……参考になるかどうかわからないよ。それでも大丈夫?」
「うん、頼む」
正直、栞のいないところで勝手に話してもいいのか迷ってた。でも、はっきりと頷く漣を見て、俺も覚悟を決めた。
……まぁ、どうせ後で話すことになるんだし。
「わかった──俺の場合はさ、栞が先に言ってくれたんだよ」
「あれ……そうだったのか?」
「うん。といっても、俺からも告白するつもりではいたんだけどね。ただちょっとタイミングというか、そういうのを見計らってるうちに栞から告白してくれて」
「なるほどな……。でもさ、返事はちゃんとしたってことだろ?」
「それは、もちろん。ただ、その場はできなかった、というか──」
その時のことを思い出して、頭を掻く。
「……栞、恥ずかしかったのかな。告白してくれて、すぐ走って帰っちゃったし。それに俺もめちゃくちゃテンパっちゃってて、追いかけられなくて」
「それじゃ、どうやって返事したんだ? しばらく気まずくなったりとか、しなかったのか?」
「うん。俺も、栞のことが好きだったからさ……。気まずくなりたくなくて、次の日の朝イチで話がしたいって言ったよ。それからはまぁ、お互いに気持ちを伝え合って、付き合うことになった──みたいな感じかな」
話し終えると、漣は噛み締めるみたいに言った。
「……すごいな、高原は。正直言うとさ……これまで俺、高原のことよくわかんないやつだと思ってた。バカにしてた、とまではいわないけど。……ごめんな」
「いや、そんなの別にいいって。自分でも否定できないし。でもさ……それを変えてくれたのが、栞なんだよね。だから、ちゃんと気持ちを伝えたかったし、受け止めたいって思ったんだ」
「……そっか。やっぱ高原はすごいわ。俺なんてさ、今の関係が壊れたらどうしようとか考えると、怖くてしょうがないんだよ。好きになったのは、だいぶ前なのになぁ」
「俺も偉そうなこと言えるほどうまくやれたわけじゃないけどさ。でも、言わないまま後悔するより、ちゃんと伝えた方がいいんじゃないかなって思うよ」
「おっ、さすが涼。いいこと言うじゃん。俺もいつも言ってんだよ。さっさと告っちまえってな」
「まぁ、うまくいくかどうかはわからないけどね。でも、言わないと始まらないから」
「おいっ、最後に怖いこと言うなよなっ! せっかく頑張れそうな気がしてたのに……」
遥に背中をバシバシ叩かれて。
漣には肩で押されて。
今は、栞が隣にいないのに──
それでも、俺は自然に笑っていた。
「あはは、ごめんごめん。でも、応援はしてるよ。想いを伝えるのって勇気がいることだけど……俺にもできたから」
漣はじっと考え込むように、俺の言葉を飲み込んだ。そして、少しぎこちない笑みを見せた。
「……サンキューな、高原。お前、いいやつだな」
「えっ、そう……かな?」
「そうだろ。いきなり変なこと聞いたのに、真面目に答えてくれたしな。それでなんだけど……遥だけじゃなくてさ、これからは俺とも仲良くしてくれよ」
「……うん。それはむしろ、俺からお願いしたいくらいだよ。よろしく、漣」
「ん、よろしくな」
漣が差し出してきた手を、俺は迷わずに握り返した。思いがけず、遥たちに続いてまた一人、友人ができていた。
遥が俺と漣の間に割り込んできて、強引に肩を組んでくる。その馴れ馴れしさが少しだけくすぐったくて、でも、楽しくて──
「ところで、漣の好きな人って誰なの?」
俺はつい、核心に触れてしまったらしい。漣はわかりやすく狼狽えた。
「うぇっ?! そ、それは……!」
「んだよ、日月。話聞くだけ聞いて、自分だけ言わねぇとかなしだぞ」
「そうそう。俺も話したんだから、漣も言うべきだよね」
「ちょっ、高原までっ?! てか、遥はもう知ってるだろ!」
「そりゃ俺は知ってるけど、涼はまだ知らねぇだろ?」
「うん。そもそも知ってたら聞かないし」
「つーわけで──ほれほれ、白状しちまいな」
歩きながら遥と二人で詰め寄ると、やっと漣は観念したようだ。顔を赤くして、悔しそうに唇を噛んでいた。
「あぁもう、わかったって! 言えばいいんだろ、言えばっ! 高原、ちょっと耳貸せ」
「あ、うん」
漣はきょろきょろと周りを確認してから、俺の耳元に口を寄せる。そして、恥ずかしそうにぽつりと呟いた。
「俺が好きな人は、さっちゃんだよ」
「……さっちゃんって、誰?」
いやまぁ、教えてもらったのはいいけど、愛称で言われてもわからないというか。その答えを教えてくれたのは、遥だった。
「ほれ、あそこ。ちょうど今、黒羽さんの隣にいるだろ」
遥の目線の先には、前を行く女子の集団。やけに、きゃいきゃいと盛り上がっているように見える。
その中心には、栞がいた。そして、栞の隣には楓さんと、反対側にもう一人。
……あぁ、なるほどね。
だから『さっちゃん』か。
「へぇ。漣の好きな人って、橘さんなんだね」
「おまっ、でかい声で言うなって! 他のやつに聞こえるだろ!」
「あ……ごめん」
そう謝った瞬間。
栞が振り返り、俺の方を見た。それからふっと微笑んで、ぱちりとウインクをした気がした。




