表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入学初日にクラス全員を拒絶した女子と関わったら、愛が重すぎる甘々彼女になった。  作者: あすれい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/48

第44話 待ち合わせと、同じ想い

「……しまった。まだこんな時間じゃん」


 俺はスマホの画面に視線を落として、ぽつりと独り言をこぼした。


 現在の時刻は九時前。

 栞と約束した時間は九時半。


 なのに、俺はすでに待ち合わせ場所に到着していた。もちろん、栞はまだ来ていない。


 自分でも、わかってる。

 家を出るのが早すぎたんだって。


 でも、仕方ないよなぁ。


「……はぁ」


 小さく、ため息がもれた。


 今日は、栞とデート。


 楽しみで、昨夜はあまり眠れなかった。それでも早い時間に目が覚めて、ソワソワと落ち着かなくて、家を飛び出してきてしまった。


 少しでも早く、栞に会いたくて。


 ……こんなに早く来ても、会えるはずないのに。

 

 俺は思わず、空を見上げた。

 まだ午前中だというのに、夏の日差しが容赦なく照り付けてくる。


 暑い。ものすごく暑い。


 汗がつぅっと頬を流れ落ちた、その瞬間──


 俺の視界が、ふっと暗転した。同時に、今一番聞きたかった声が耳元で弾む。


「っ?!」


「んふふっ、だーれだっ?」


「うーん……誰かな?」


 俺はあえて、答えをはぐらかした。

 このじゃれ合いを、少しでも引き延ばしたくて。


「あれれぇ、わかんないの? じゃあ、こうしたらわかってくれるかなぁ?」


 そんな言葉と同時に、背中に柔らかな温もりが押し付けられた。ぴったりと、隙間を埋めるように。


 それは……さすがに反則でしょ?!

 普段はあんまり意識しないように気を付けてたのに!


 俺は慌てて振り返った。

 すぐ目の前に、いたずらが成功した子供のような、屈託のない栞の笑顔。気付けば、俺はその身体を抱き寄せていた。


「……栞、やりすぎ」


「あ、やっぱりわかってたんだ?」


「そりゃわかるって。俺が栞の声を聞き間違えるわけないでしょ。でも、ちょっとびっくりしたよ。急に真っ暗になるから」


「えへへ、ごめんね。なんか嬉しくって」


「嬉しいって……いたずらするほど?」


「うん。だって、絶対早いよなぁって思って来たのに、涼の方が先に待ってるんだもん。それくらい今日のこと楽しみにしててくれたんだって思ったら、ね」


 あぁ、そっか。

 俺だけじゃ、なかったんだな。


 でも──


 栞の言っていることは、少しだけ間違ってる。


「そんなの、楽しみに決まってるよ。だけどね、一番は──栞に会いたかったから、だよ」


「……もうっ」


 一瞬、栞が固まる。

 みるみる顔が赤く染まっていく。

 まるで逃げるように、栞は俺の腕から抜け出した。


「そういうことさらっと言うの、ずるいっ。でも、私も……涼に会いたかったよ。昨日帰ってから、ずっと。私たち、似た者同士、だね?」


「そう、かもね」


 ふっと、気が緩んだ。

 どうやら、さっきの心配は俺の杞憂だったらしい。


 ただ、この先のことで懸念が一つ生まれた。


「あのさ、栞。俺が言えたことじゃないかもしれないんだけど……これから待ち合わせする時は、早くても五分前とかにしない?」


「えっ、なんで?」


「いや……この調子でいくと俺たち、来るのがどんどん早くなりそうかなって。実は俺さ、さっき暑すぎて後悔しかけたんだよね。栞も来てくれたから良かったけどね」


「あ……そう、だよね。お店が開く時間も決まってるし、そもそもバスもまだ来ないもんね」


「そういうこと。まぁ……栞とのんびり待つっていうのも悪くないんだけど、それで熱中症とかになっても困るしね」


「……だね。わかった、これからは五分前に来れるように頑張るっ!」


「あはは……なんか遅刻した人のセリフみたいになってるよ」


 実際のところは、まったくの正反対なのだが。


「絶対に遅刻なんてしないもんっ。涼と約束した時は、特にね」


「知ってるよ。栞はしっかり者だもんね」


「そうでもないよ。だって──ねぇ、涼。私たち、もう彼氏彼女なんだよね?」


「え、うん。それが、どうかしたの?」


「だったら──えいっ」


 そう言って、栞は俺の手を取った。それから、するりと指を絡めてくる。


「え、ちょ……栞?!」


 手を繋いだことは、何度かある。

 でも、この繋ぎ方は初めてで──


 いわゆる、恋人繋ぎだった。


「ふふっ。今日はデートだもんっ。それにね……涼とこういうの、してみたかったの。涼にはもう、私が甘えん坊だってバレてるみたいだしね」


「……確かに、甘えん坊な彼女だね」


 しっかり者で、甘えん坊で、寂しがり屋。

 それが、俺の大好きな彼女──栞だ。


「でも、そう言われるの嫌がってなかったっけ?」


「あの時は恥ずかしかっただけで……せっかく恋人になれたんだから、もう遠慮しないことにしたの。というわけで、いっぱいいっぱい涼に甘えていくから、そのつもりでね。──あっ、でも……ダメな時は言ってね。そしたら、なるべく控えるから……」


「ううん、大丈夫だよ。俺も、その……栞に甘えられるのは好き、だからさ」


「涼ならそう言ってくれると思ってたよ。なら、今日はずっとこのままでいようね」


 繋いだ手を、にぎにぎされる。


 栞の細い指が、俺の指の隙間にぴったりと収まる。指と指が絡み合う。これまでとの違いはそれだけなのに、ドキドキの桁が跳ね上がった。


「それはなんというか、恥ずかしいんだけど……」


「つまり、恥ずかしいだけで嫌じゃないってことだよね。なら、離してあーげないっ。ほら、とりあえず日陰に行くよ。まだまだバス来るまで時間あるし、日焼けしちゃうっ」


「まったく……わかったよ」


 容赦なく俺の手を引いていく栞に、思わず苦笑がもれる。その横顔がまた、赤く染まっていたから。


 栞もたぶん、恥ずかしいんだ。

 なのに、手を離さない。


 俺はしっかりと、栞の手を握り返した。

 栞の勇気に応えるために。

 それから、栞の恋人として、胸を張れるように。


「ねぇ、涼」


 バスを待つ間。駅の屋根の下で、栞が呟くように俺を呼んだ。


「うん、なに?」


「私ね……こんなふうに、涼と二人で恋人らしいことを積み上げていきたいの。一つずつ、大切に──それが、当たり前になるまで」


「……栞?」


「急に変なこと言い出してごめんね。昨日、涼が言ってたでしょ? 付き合うって、どうしたらいいのかって。あの時はデートがしたいって答えちゃったけど……よく考えたら、なんか違う気がして。だからね──」


「……ありがと、栞。そんなに真剣に考えてくれてたんだね。俺こそごめん……自分で言ったくせに、デートに浮かれて忘れちゃってたよ」


「ふふっ。それはそれで嬉しいけどね」


「じゃあ……今日はその第一歩ってわけだ。なら、恥ずかしいなんて言ってられないなぁ」


 俺は、栞の目をじっと見つめた。繋いだ手にも、自然と力がこもる。


「これから、二人でたくさん積み上げていこうね。思い出も、一緒に」


「……涼。うんっ!」


 栞が、にぱっと明るく笑う。

 そんなタイミングで、バスがロータリーへと入ってきた。


「あっ、やっとバス来たよ! 乗ろっ!」


「うん、行こうか」


 バスの中は、ガラガラだった。

 俺たちは後ろの方の二人掛けの席を選んで、腰を下ろした。俺が右側、栞が左側。いつも通りの並びで。


 ドアが閉まる。バスはブォンと低いエンジン音を響かせながら、ゆっくりと発車した。


「私……好きになったのが涼で、本当によかったぁ」


 エンジン音に紛れるように、うっとりと栞が言う。同時に、腕にぎゅうっと抱きつかれた。手は繋いだままで、肩に頬擦りのおまけ付きで。


「そ、そう言ってもらえるのは光栄なんだけど──これはいくらなんでもくっつきすぎじゃない……?!」


「すぐ嬉しいこと言う涼のせいだもーんっ」


 や、柔らかいのが当たってっ……!

 こんなの……積み上げペースが速すぎるって!


 デートはまだ始まったばかりなのに、早くも俺の心臓は悲鳴をあげていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ