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入学初日にクラス全員を拒絶した女子と関わったら、愛が重すぎる甘々彼女になった。  作者: あすれい


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第39話 寝不足のモーニングコールと、ほにゃほにゃな声

 栞が去っていったあと、取り残された俺は、しばらくその場で呆然と立ち尽くしていた。


 ぼんやり空を見上げると、夏の大三角形がやけに明るく輝いていた。それから、どうやって家に帰ったのかは、よく覚えていない。


 まさか、あそこで栞から告白されるなんて、微塵も思ってもいなくて。栞が落ち着いた頃合いを見計らって、俺から告白するつもりだったのに。


 でも、そんなことよりも──


『……涼、あのね。私、涼が好き。ううん、大好きなの』


 照れくさそうに想いを告げてくれた栞の言葉が、何度も何度も頭の中でリフレインする。


 胸の中に飛び込んできた栞の体温。柔らかさ。甘い香り。その全てが、暴力的なまでに記憶に焼き付いていた。


 ……いや、待てよ。


 あれは夢、じゃないよね?

 俺──本当に栞に告白、されたんだよね?


 ということは、つまり……。


 両想いじゃん!


 えっ、うわっ……やばっ。

 嬉しすぎるんだけど……。


 俺の大好きな栞が、俺のことを大好きって言ってくれて。


 そんな奇跡みたいなこと、あってもいいの?


 俺は頭からタオルケットに包まって、ベッドの上を一晩中ゴロゴロと転げ回っていた。一睡もすることができずに。


 そして、カーテンの隙間から朝陽が差し込んできた頃。


 俺はようやく我に返った。

 タオルケットを跳ねのけて、飛び起きる。


 ……あれ?


 そういや、俺……ちゃんと返事してなくない?!


 俺が言葉を発する前に、栞は帰ってしまった。俺も、突然すぎて後を追うなんて思い付きもしなかった。


 ……これって、まずいんじゃ?


 栞はたぶん、恥ずかしくなってしまったのだろう。ここで俺がなにもしなければ──


 今後、ぎくしゃくすることになったり……。


「そんなの嫌だっ!」


 思わず、俺は叫んでいた。


「涼っ、うるさいっ! あんた朝っぱらからなにドタバタやってんのっ!」


 階下から、家中に母さんの怒号が響き渡った。けれど、今はそんなことに構っていられない。


 俺は慌てて、枕元に放り投げていたスマホを手に取った。画面に表示させたのは、当然栞の連絡先だ。


 時間は、午前七時。規則正しい生活をしている栞なら、もう起きていてもおかしくない。


 俺は呼吸を整えてから、通話ボタンをタップした。睡眠不足の変なテンションのせいか、迷いは一切なかった。


 栞が出るまでのコール音が、とてつもなく長く感じる。少し待つと、通話は静かに繋り、栞の声が聞こえてきた。


『んぅ……。ぁい……』


「あ……おはよう、栞。俺……涼だけど──」


『……りょう? おはよぉ……。んふふ、りょうだぁ。ねぇ、りょう。あのね……えへっ、らいしゅき』


「……」


 ……なんだこれ。


 可愛すぎるんだが?

 めちゃくちゃ心臓に悪いんだが?


 栞の声は、やけに舌っ足らずで、ほにゃほにゃしてて。しかも、妙に甘えるみたいな声色だった。


 そんな声で、また告白なんてされたらひとたまりもない。俺は、今すぐ栞への思いの丈をぶちまけたい衝動を、ぐっと抑え込んだ。


「あのっ、栞?! もしかして、寝惚けてる……?」


『んーんっ……しょんなこと──ふぇ……?』


 あ、声が戻った。

 やっと意識がはっきりしたかな?


『……涼?』


「うん。おはよ、栞」


『えっ……これって、夢じゃ、ない?』


「……うん。現実だよ」


『っっっ〜〜〜〜〜?!?!』


 プツッ。


「えぇ……」


 俺は呆然と、完全に沈黙してしまったスマホに視線を落とす。


 なに一つ、肝心な話ができなかった。


 なら、もう一度だ。


 寝惚け栞の破壊力にやられた心臓をなだめつつ、再度通話ボタンに指をかける。今度は、ワンコールもしないうちに繋がった。


『おはよっ、涼! いい朝だねっ!』


「……あの、栞? それはさすがに無理があると思うよ?」


『うっ……! だってぇ……。私、完全に寝惚けてたし。ねぇ……変なこと、言ってなかった……?』


「別に……言ってないよ?」


『その反応、絶対言ってるやつだよね……? うぅ、恥ずかしいよぉ……』


 スマホ越しに、栞がのたうち回る音が聞こえてきて、さすがに可哀想になってきた。もう少しこのままにしておきたいと思うくらい可愛らしいのは間違いないが。


「それはほら、俺も徹夜のテンションで通話しちゃったし、お互い様ってことでさ。ところで……栞は今日、なにか予定あったりするかな?」


『えっ……? 特にはないけど……どうして?』


「……毎日会ってるのに、今さらこんなこと言うのは変かもしれないけど──今日も、会えないかなって」


『えっとえっと……そう言ってくれるのは嬉しいんだけどぉ。今日は、その──ちょっと気まずいというか……』


 あぁ、違う。

 あんな言い方じゃ、なにも伝わってない。


 無意識に、スマホを握る手に力が入った。


「ごめん、栞。言い直させて。俺が──栞に会いたいんだ。会って、話したいことがあるんだよ。だから、少しでもいいから……時間を作ってくれないかな?」


『……話って、なに? 今じゃ、ダメなこと?』


「うん。悪いんだけど」


 栞は、面と向かって告白してくれた。

 俺も、同じようにしたい。


 すごく大事なことだから。

 適当になんて、できるわけがない。


「絶対に、栞の顔を見て伝えたいことだから」


『……わかったよ。そんなふうに言われたら、断れないもん』


「本当?!」


『……うん。でも、さっき涼、徹夜って言ってたよね? 実は私もね……全く寝れてなくて。だからね……お互い、今からちょっとでも寝よ? 寝て、起きて、そしたら夕方くらいに……涼のおうち、行くから』


「栞も……寝れなかったの?」


『……寝れるわけ、ないもん。わかってるくせに……ばかぁ』


「ご、ごめん。けど、そういうことなら俺が行こうか?」


『ううん、いい。私が逃げちゃったせいでも、あるから。私がそっちに行くよ』


「……わかった。待ってるよ」


『うん。家出たら、連絡するから。それじゃ……ひとまず寝ることにするね。おやすみ、涼』


「おやすみ、栞」


 名残を惜しむように、数秒の間を置いてから通話は途切れた。


 約束は取り付けた。

 あとは、俺がどう言葉にするかだけ。


 そのためにも──


 頭をスッキリさせておかないと。

 

 俺は昼過ぎにアラームをかけ、ベッドに横になる。栞にちゃんとおやすみを言ったおかげか、眠気はすぐにやってきた。


 微睡みの中で、恥ずかしそうに笑う栞の顔が、瞼の裏に浮かんでいた。

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