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入学初日にクラス全員を拒絶した女子と関わったら、愛が重すぎる甘々彼女になった。  作者: あすれい


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第38話 溢れ出した想い、告白の夜

 ◆side栞◆


 お母さんに呼ばれて、私は涼の側を離れてキッチンに向かった。


 さっきは『私がついてるから』なんて言ったけど──


 ごめんね。

 だって、お父さんがどうしても涼と二人きりで話がしたいって言うんだもん。


 その分、お料理頑張るから許してね。


 お礼にまた手料理なんて、芸がないかな?


 でも……今はこれくらいしか思い付かないの。


 こないだ美味しいって言ってもらって、踊り出しそうなくらい嬉しかったから。


 ほっぺをぱんぱんにして食べる顔を思い出すだけで、胸がきゅんってしちゃう。


 ……って、自分のためになってちゃだめだよね。


 これはお礼なんだからね。


 美紀と話をしてる時、隣にいてくれる涼の存在に、しっかりと握っていてくれた手の感触に、すごく助けられたの。


 緊張も、不安も、恐怖も。

 全部、涼が包み込んでどこかに消し去ってくれた。おかげで、私は静かに自分の心の声に耳を傾けることができたんだよ。


 だから私は、今出せる最良の答えにたどり着けた。


 あの場でばっさり切り捨てることも、ただ許すことも、たぶんできた。でも、そのどちらを選んでも、私はきっと後悔することになったと思う。


 切り捨てるには、あまりにも楽しかった思い出が多すぎる。あっさり許してしまえるほど、私の器は大きくない。


 だから、あれで正解だったんだよね。


 でもね、なによりも安心したのは、それを涼が認めてくれたこと、なんだよ。

 『頑張ったね』って、そのひと言にどれだけ私が救われたか、きっと涼はわかってないだろうね。


 料理の手を止めずに、視線だけを涼に向ける。

 お父さんと話している声は、聞こえてこない。

 

 二人して真剣な顔して、なんの話をしてるのかな。


 離れたところから顔を見ているだけで、幸せな気持ちになる。


 やっぱり。


 好きだなぁ。

 大好きだなぁ。


 私の心は、涼に溶かされちゃったの。

 涼が隣にいてくれるから、私は笑えるようになった。


 涼がいなかったら、私は……。


 今もまだ、一人ぼっちで、過去に囚われたままで。生きてるのか死んでるのかもわからずに、ただ呼吸を繰り返していたはず。


 だから、私は今日──


「栞、手が止まってるわよ?」


「ひゃわっ……?!」


 ちょんと肩に触れられて、私はビクリと跳ね上がった。振り向くと、お母さんがニヤリと顔を歪めた。


「そんなにリビングが気になる? それとも……気になるのは涼くんかしら?」


「べ、別にそんなんじゃないもん……」


「今更隠さなくたっていいじゃない。あーんなに熱い視線送ってたくせに」


「もうっ……! わかってるならいちいち言わないでよっ!」


 ……お母さんの意地悪。

 顔が熱くなってきちゃったよぉ。


「うふふっ、ごめんね。なんだか栞が可愛くって。けど──栞にもそういう人ができたのねぇ。……お母さん嬉しいわ」


 わしゃりと、頭を撫でられた。

 恥ずかしくてしかたないのに、ふわふわして、心地いい。


 でも、すぐにお母さんの手は離れていった。代わりに、優しそうな目を向けられる。


「さてと──お父さんたちのお話もキリが付いたみたいだし、そろそろお食事にしましょうか。悪いけど、栞は二人にご飯だって伝えてきてくれる?」


「……うん、わかった。行ってくる」


 私の返事も待たずに、すでにお母さんはお皿に盛り付けを始めていた。その背中を残して、私はリビングへ向かう。


 涼はお父さんとも少し打ち解けてくれたみたいで、小さく笑みを浮かべている。家に連れてきた直後の緊張した様子はなくなっていた。


 ゆっくりと近付くと、私に気付いた涼がそっと顔を上げた。涼と目が合った瞬間、心臓が止まるかと思った。


「あの……涼? えっと、ね……ご飯できたから、そろそろ、食べよっかって──お母さんが……」


 あぅ……意識しすぎて変になっちゃった。

 お母さんが変なこと言うから……。


 さっきまでは普通に話せてたのに。


「あぁ、うん。ありがと、栞」


「ううん。それより……もうお話は済んだの?」


「ひとまずは──ですかね?」


「そうだね。にしても、栞。涼くんは思っていた以上だったよ」


「……なにが?」


 私が首を傾げると、お父さんは意味ありげにくつくつと笑った。


「いや、こっちの話だよ」


 ……なんだったんだろ?

 涼も困ったような顔してるし。


 よくわからないうちに、お母さんが料理を並べていって、あっという間に食事が始まった。


 椅子の数が足りないからか、今回はリビングのローテーブルでの食事。私の隣には、当然のように涼が座った。


 食べる前にきちんと手を合わせる律儀なところも、ちょっとだけ遠慮がちなところも、意外と箸の持ち方がきれいなところも──


 ……全部、特別に見えちゃう。


 ずっと、涼だけを視界に収めていたいくらいに。


 なのに、それを邪魔するようにお父さんが口を開いた。


「涼くん。栞の作った料理はどうだい?」


「ちょっとお父さんっ?!」


 涼も、ちらりと私を見る。その横顔は、一気に耳まで赤く染まっていった。でも、すぐにお父さんに向き直り、ことりと箸を置いた。


「えっと……こないだもうちで作ってもらいましたけど──栞は、料理上手だと思いますよ。前回も、今日も、どっちも美味しいです」


「……はぅっ」


「良かったわねぇ、栞。でも、今日は私も一緒に作ったのよ?」


「じゃあ、文乃さんのおかげ……ってことですかね?」


「あら、涼くんったらお上手ね」


「ははは。文乃は僕の自慢の妻だからね」


 食卓には、和やかな笑い声が広がった。


 でも、私はそれどころじゃない。


 ……え、どうしよ。


 あんなこと言われたら、私──


 もう、無理なんだけど……?


 息もできないくらい胸が苦しくて、なのに幸せで。ときめきが限界突破して、ぽーっとしているうちに、食事の時間は終わっていた。


 ***


「今日はごちそうさまでした。ありがとうございました」


「お礼なんていいのよ。また遊びに来てちょうだいね」


「涼くんならいつでも大歓迎だよ。僕はあまり家にいないかもしれないけどね」


「……ありがとうございます」


 帰り支度を整え、玄関でお父さんとお母さんに頭を下げる涼の隣で、私も靴を履く。


「私、そこまで涼を送っていくね」


 涼の手を取って、少し強引に外に連れ出す。夜の生温い空気が、頬を撫でた。


「ねぇ……涼。少し、寄り道してもいいかな? もうちょっと、涼とお話したいの」


 私は別れの時間を引き延ばすように、涼の手をぎゅっと握りしめた。


「えっ? いいけど……あんまり遅くなると文乃さんたちが心配するよ?」


「わかってる。本当に……少しだけだから」


「なら……うん」


「じゃあ、こっちだよ。近所にね、小さな公園があるの」


 そこは、私にとって思い出の場所でもある。幼い頃、よく美紀と遊んだ公園。わずかな遊具と、ベンチが一つ。


 私たちは並んでそのベンチに腰を下ろした。街灯の明かりが、スポットライトのように私と涼を照らしている。


 覚悟は、決めてきた。


 そのはずなのに──


 私はなかなか言葉にできずにいた。


 涼の手の熱が、心臓の鼓動を加速させる。

 顔を見るだけで、頭がくらくらする。


 ……なんだか涼、また格好よくなってない?


 顔付きが変わったというか、うまく言えないけど。


 そんな涼にドキドキさせられて、時間だけがどんどん過ぎ去っていく。やがて、涼はふっと苦笑して立ち上がった。


「……栞。今日は色々あって疲れたでしょ? 話なら明日にでも聞くからさ、もう帰ろう?」


 頭が、真っ白になりそうだった。


 もう……時間切れなの?


 そんなの──ダメだよ。


 私も慌てて立ち上がり、繋いだままだった涼の手をぐっと引き寄せる。その勢いを利用して、力いっぱい涼に抱きついた。


 花火大会の時、私を見つけた涼がしてくれたみたいに。


「っ……?! しお、り……?」


 今しか、ないの。

 明日になったら、たぶんもう言えないから。

 チャンスがありすぎて、きっと今の関係に甘んじちゃう。


「……涼、あのね。私、涼が好き。ううん、大好きなの」


 涼の身体が、ビクリと固まった。恐る恐る顔を上げると、目が合う。


 それと同時に、照れくささが込み上げてきて──


「えっと、その……。あの、えっと──と、とにかくっ! そういうわけだから、おやすみっ!」


 私は家に向かって全速力で駆け出した。


「ちょっ……! 栞っ?!」


 涼の声が背中に響く。でも、私の足は止まらなかった。ベッドに飛び込んで、枕に顔を埋める。


 ようやく言えた。

 嬉しいなぁ。


 ついに、言っちゃった。

 恥ずかしいよぉ。


 でも、もしもフラレたら……。

 ううん、最近ずっといい雰囲気だったもん。

 それはない……よね?


 それに、口に出したせいかな……。

 ますます抑えが効かなくなっちゃった。


 「……涼。涼、涼、涼。大好きだよぉーっ……! きゃーーっ!!」


 そうして、私は朝まで枕を抱えてジタバタと悶えていた。

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