表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入学初日にクラス全員を拒絶した女子と関わったら、愛が重すぎる甘々彼女になった。  作者: あすれい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/47

第14話 待ち合わせと、栞の素顔

 夏休みの初日。


 明日のことを考えると無性に落ち着かなくて、ひたすら部屋の片付けをしているうちに夜になっていた。


 床に散乱していた読みっぱなしのラノベや漫画を本棚に押し込み、念入りに掃除機をかける。もし栞に散らかり放題の部屋を見られたらと思うと、細かいところまで気になって仕方がなかった。


「あのさ、母さん……」


 夕食の後、洗い物をしている母さんに、躊躇いがちに声をかける。


「明日、家に友達が来るんだけど……いいよね?」


 ガシャンと派手な音が響いた。

 たぶん、食器を落としたんだと思う。


「えっ、は? 友達? あんたの?」


「そうだけど……なんか問題ある?」


「問題っていうか……それ、涼にしか見えない友達じゃないわよね?」


「実在の人間だってば! うちで一緒に夏休みの課題やることになってんの!」


「……これ、現実よね?」


 母さんは本気で信じられないようで、自分の頬を指で抓っていた。


「疑いすぎじゃない……?」


「だってあんた、今まで一度だってそんなことなかったじゃないの」


「それは、そうだけど……」


「騙されたりしてない? ほら、お金たかられたりとか。本当にお友達なの?」


「おい、失礼だなっ!」


 思わず、声が大きくなる。


「俺にだって友達の一人や二人──」


 言いかけて、止まった。


 いや、一人しかいなかったわ……。

 自分で言っていて、少しだけ悲しくなってきた。


 でも、いい。

 今は栞がいてくれる。それだけで十分なのだから。


「とにかくっ、これ以上変なこと言うと怒るからな!」


「……そっか。そういうことなら、いくらでも連れてきなさい」


「ん……ありがと」


「けど……まさか涼に、そんなお友達ができる日が来るなんてね。……良かったわ」


 怒ると言ったばかりだが、そう言った母さんの声が掠れていた気がして、俺は反論を飲み込んだ。


 たぶん俺は、思っていた以上に、ずっと心配をかけてきたのだろう。


 なんだかいたたまれなくなって、俺は椅子から立ち上がる。そそくさと自室に戻ろうとすると、背中に声がかかる。


「涼……」


 振り返れずにいると、少し間を置いて、母さんが言った。


「そのお友達、大事にしなさいよ」


 返事は、しなかった。

 できなかった、の方が正しいかもしれない。


 だって、そんなこと言われなくてもわかってるから。……たぶん、だけど。


 ***


 翌日。


 昼ごはんを食べて一息ついた後、俺は家を出て最寄り駅へと向かう。歩いて五分程度の距離だが、燦々と照り付ける太陽のせいで、じっとりと汗がにじんでくる。


 けれど、これから栞と駅で待ち合わせだと思うと、自然と足が早まっていた。


 栞から伝えられた電車の到着の時間までには、まだ余裕がある。駅に着いた俺は改札近くの日陰に陣取って、そわそわと落ち着かずに空を見上げた。


「……早く来ないかな」


 ぽつりと独り言がもれた。

 これも長年のボッチ生活の賜物か。人に聞かれたら、怪しまれていたかもしれない。


 やがて、定刻ぴったりに電車がホームへと滑り込んできた。少し遅れて、改札からまばらに人が出てくる。


 平日の昼過ぎということもあってか、利用客はまばらだった。


 数人が駅から出ていったが、肝心の栞の姿は見当たらない。


 もしかして、乗り損ねた?


 いや──

 もしそうなら、栞の性格を考えれば、必ず連絡の一つは入れてくれるはずだ。


 じゃあ……連絡すら入れられない、なにかが起こったんじゃ。


 嫌な想像が頭をよぎり、俺は慌ててポケットからスマホを取り出し栞の連絡先を呼び出す。


 悠長に文章を打ち込んでいる余裕はなく、通話を選択した。


 耳元でコール音が鳴り響く中、最後にもう一人だけ、駅の奥から改札に向かってくる人影が見えた。


 たぶん、俺と同じ年頃の女の子。

 こんな状況じゃなければ目を奪われていたかもしれないほど、整った顔立ちをしている。


 ……でも、栞じゃない。


 そう思った瞬間、その女の子が改札を抜け、スマホを耳に押し当てた。ほぼ同時に、俺の方でもようやく通話が繋がる。


「どうしたの、涼? なんで目の前にいるのにかけたの?」


『どうしたの、涼? なんで目の前にいるのにかけたの?』


 わずかにタイミングをずらして、同じ声が二つ重なった。


 気が付けば、さっきの女の子がすぐ正面に立っていた。大きな瞳が、じっと俺を見つめている。


「もうっ、無駄だから通話切っちゃうよ?」


『もうっ、無駄だから通話切っちゃうよ?』


 また、同じ現象が起きた。


 片方は、目の前の女の子から。

 もう片方は、耳元のスマホから。


 同じ声、同じ言葉。

 通話は、ぷつりと切れた。


「……えっと」


 理解が追いつかない。


「栞……なの?」


「そうだよ。……えっ? まさかとは思うけど、私だってわからなかったの?」


 今でも、半信半疑なのだ。

 声も、話し方も、仕草だって、確かに栞のものなのに。


 あんなに訳ありげだった前髪が、嘘みたいに短くなっていて──


「いや、それでわかれっていうのが無理あるというか……」


「えーっ、涼ならすぐにわかってくれると思ってたのになぁ。冷たいなぁ、涼は」


 栞は拗ねたように、ぷくりと頬を膨らませた。


「……うっ、ごめん」


 反射的に謝ると、栞はすぐに表情を緩めて、短くなった前髪を揺らしながら照れたように笑う。


「なーんてねっ、別に怒ってないよ。自分でも、わかってもらえないかもなぁって思ってたし」


 それから、少しだけ言い淀んで。


「それでね……かなり思い切ってみたんだけど……どう、かな? おかしいとこ、ない?」


 変だって?

 そんなのとんでもない!


「……めちゃくちゃ、可愛いよ」


「……可愛い?」


 一瞬、栞が目を瞬かせた。


「──あ、いや、なに言ってんだ、俺……。ごめん。でも、すごく似合ってるから」


「……そっか。えへへ」


 栞は確かめるように呟いてから、ふにゃりとはにかむ。そして、そっと俺に一歩近付いた。長い睫毛に縁取られた、ほんのりと潤んだ大きな瞳に俺が映り込む。


 初めて、栞と真正面から目が合った。

 胸が、ぎゅっと締め付けられるようで。


「ありがと、涼。嬉しいよ」


 栞の顔が赤い。

 俺も、顔が熱い。


 見た目で好きになったわけじゃない。

 そのはずなのに、こんなの、もっと──


「ところで……どうして突然──」


 その先は言葉にならず、宙に浮いた。

 不意に、栞が俺の手首を掴んだから。

 まるで逃さないって言うみたいに、強く。


 髪を切ることにしたの、って聞きたかったのに。


 でも……まぁ、いいか。

 栞が笑ってるなら、それで。


「ねぇ、涼。ここ、暑くない? 早く涼のおうち行こうよ」


 そう言って、栞は俺の腕を引いて歩き出す。


「えっ、ちょっ! 栞が先に行っても場所わからないでしょ?!」


「あっ、そうだったね。へへ、気が急いちゃって。それじゃ、案内よろしくね?」


「う、うん……」


 今度は、横に並ぶ。

 それでも、栞は俺の腕を離さなかった。


 手を繋いでいるわけじゃないのに。

 腕越しに伝わる栞の手の熱に、心臓がうるさく跳ね回る。


 ──大事にしなさいよ。


 昨夜の母さんの言葉が、遅れて胸に落ちてきた。

 その本当の意味が、今ならわかる気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ