表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入学初日にクラス全員を拒絶した女子と関わったら、愛が重すぎる甘々彼女になった。  作者: あすれい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/115

第103話 臆病を捨てた夜と、覚醒の夜

 洗っているのは背中とはいえ、栞の肌は柔らかく、絹のように白く滑らかで繊細だった。少しでも爪が触れたら傷付けてしまう気がして、俺は細心の注意を払って手を滑らせる。


 だんだんと自分がなにをしているのか曖昧になりながら、それでも俺は、感触を確かめるように泡を広げていった。


「はぁ……涼の手、やっぱり好きだなぁ」


 ぽつりと、噛みしめるように栞が言う。

 自分の中で、なにかが軋みを上げる音がした。


 心と身体がバラバラになってしまいそうで、俺は湯温を確認してからシャワーを栞の背中に向けた。


 さぁっと泡が流れていき、また栞の素肌が顕になる。ゆっくりと振り向いて俺を見上げた栞の顔は、なぜか不服そうだった。


「……もう流しちゃうの? 前は洗ってくれないの?」


「だ、だって……」


 俺が洗われるのと、俺が栞を洗うのでは、わけが違う。興味はある。触れたいとも思う。


 でも、俺は──


「……ご、ごめん。今は、これが限界。あとは、自分で洗って」


 背中の泡だけしっかりと流し切り、逃げるように湯船にどぼんと身体を沈めた。そして、ハッとする。


 ……いや。なんで出てかなかったんだろ、俺。


 心を鎮めるなら、その方がよかったはずなのに。


 まださっきの答えを聞いていないからなのか。

 それとも、栞を残して出ていくのが忍びなかったからなのか。


 どちらにせよ、今さら出ていくこともできずに、俺は栞から視線をそらした。


「ぶー……涼のケチっ」


 反論はしなかった。代わりに、口元まで湯につかり、ぶくぶくと息を吐き出した。


 口ではケチだケチだと言いつつも、栞は自分で身体を洗い始めたらしい。しばらくして、シャワーの音。それがやむと、ぴちゃんと水音が響いた。


「私も入るから、ちょっと詰めてくれる?」


 俺は咄嗟に、身体を縮めた。そして、できた隙間に栞の右足が沈む。続いて左足、それから、すらっとしたふともも、ぷりんと張りのあるお尻、さっきまで触れていた背中が、順にゆっくりと目の前を通過していった。


 最終的に、栞は強引に俺の脚と脚の間にすっぽりと収まり、背中を預けてくる。


「……な、なんで普通に入ってきてるの?」


「え? だって、せっかくお湯ためたのに、浸からなかったらもったいないでしょ? というわけで、涼──ぎゅってして?」


 なにがどう「というわけで」なのか理解に苦しむが、栞にハグを求められると身体が勝手に動いてしまう。俺は半ば無意識に、栞のお腹に腕を回して引き寄せた。


 細くくびれた栞のお腹。そのくせふにふにと柔らかくて、自分との違いを思い知らされる。わかりきってることだけど、女の子なんだって、強く感じた。


 栞は小さく身じろぎをして、顔だけをこちらに向ける。気付いた時には、ちゅっ、とキスをされていた。


「涼って、こんな時でも紳士だよね。別に、どこ触ってくれてもいいのに」


「だからっ、いきなり変なとこ触ったりしないってば!」


「……私の胸って、変なとこなの? 涼はこれ、嫌い?」


 栞の手が、俺の手に重なる。少しだけ持ち上げられると、ぷにっと、さらに柔らかな感触が伝わってきた。


「いやっ、それは言葉の綾というか……。別に変じゃないし、きれいだとは、思うよ」


「なら、どうして触ってくれないの? 私、もっと涼に触れてほしいよ。こうして優しくぎゅってしてもらうのも好きだけど、全然足りないもん。私の身体、涼に触れられてないところがなくなるくらいに──涼の方から……してほしいのに」


「……栞、もしかしてそれって」


「うん、さっきの答えだよ。私が、こうやってお風呂に入ってきた理由。この先も、私から言った方が、いい……? 私がどうしてほしいのか、まだわかってくれないの?」


 栞の言葉が、やけにぐさっと突き刺さった。俺はたぶん、栞を気遣うふりをして、自分から誘うのを怖がってた。


 昨日だって、言い出したのは栞からだった。

 なのに今日も、栞から言わせようとしてる。


 そんな自分が情けなさすぎて、俺は栞を強く抱き寄せた。


「……ごめん、栞。俺、臆病で、ごめん。ただ、その前に一つだけ確認させて」


「うん。なぁに?」


「身体は、平気? 昨日の痛みとか、残ってない?」


 そう尋ねると、栞は少しだけ眉を下げ、困ったように笑う。


「……やっぱりねぇ。涼のことだから、そんなようなこと考えてるんじゃないかなぁって思ってたよ」


「え、わかってたの?」


「わかるよ、それくらい。だって、私、涼の彼女だもん。涼のそういう不器用で優しいところ、好きになったんだもん」


 栞は湯面を波打たせながらくるりと反転して、俺に向き直った。そうして、真正面から身体を押し付けてくる。


「心配してくれて、ありがと。でもね、本当に大丈夫だから。というか、多少痛くっても、それは涼がくれたものだもん。そう思うだけでね、全部幸せに変わっちゃうの」


「……栞」


 自制とか我慢とか、そういうものが全部バカらしくなってしまった。だって、そんなことを栞は求めてない。


 それでも、栞が好きだと言ってくれる優しさだけは捨てずに──


「……栞、好きだよ。好きすぎて、本当はおかしくなりそうだった」


 耳元でそっと囁いて、唇を奪う。二度、三度と軽く触れ合わせて、それから舌で栞の唇をこじ開けた。


 栞は抵抗もせず、俺を受け入れる。お互いを貪るように舌を絡め合わせて。顔を離すと、俺たちの間につぅっと橋がかかった。


「……涼、好きっ。もっと、おかしくなって?」


「うん。俺、栞としたい」


「いいよ、しよ。私も、もう──」


 我慢できない。

 きっと栞はそう言おうとしたのだろう。


 けれど、俺はそれをキスで遮った。


「……もうちょっとだけ、待って。俺の部屋、行こ。ここでじゃ、なにも準備ないし」


「あ、そっか。そうだったね。えへへ……焦りすぎちゃった」


「そういうとこ、栞らしいね。可愛いよ」


「やんっ。今本当にギリギリなんだから、そういうこと言っちゃヤダぁ。だからほら、早くお風呂あがろ?」


「……はいはい」


 俺たちは同時に、湯船から立ち上がった。水気を拭き取った後は、寝間着を着るのももどかしく、タオルをそのまま身体に巻きつけた。


「涼っ、早く、早くぅ」


 なんて急かすくせに、俺の部屋にたどり着くまでの間、栞は何度も何度も立ち止まり、キスをねだった。


 どうにか部屋のドアを開けると、二人してベッドへと倒れ込む。


「……やっと、お部屋ついたね?」


「栞が何回も止まるから」


「だってぇ、いっぱいキスしたいもん」


「どうせ今からだって、たくさんするのに。というか、したい」


「うん、して。たくさん、して」


「わかったよ」


 俺は静かに頷いて、栞のバスタオルを取り去った。それに合わせて、栞も俺のバスタオルを引っ剥がして床へ落とす。


 またキスを落とし、俺は自分の意思で、抗いがたい魅力を放つ膨らみに手を置いた。


 蒸し暑くて甘い、夏の夜の空気。

 俺も栞も、頭が完全に逆上せていた。


 求めて、求められて、また一つになって。


 昨日の今日だというのに、栞はずっと嬉しそうに声を響かせていて──

 

 たぶんこの日、栞はなにかに覚醒したんだと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ