第136話 『ヨロイオオクチバスの魚肉カレー』
(一人称視点)
キャンプといえば、カレーライスである。
大人数を賄うことができ、調理も難しくない。環境に左右されにくく、そして美味しい。完璧なチョイスだ。
「まあ、修行を頑張った人たちへのサービスということで」
俺が亜空間食糧庫から取り出したのは、中層の魔物からドロップした魚肉である。
せっかくのダンジョンキャンプなんだし、ダンジョン内で手に入る食材で料理したい。そしてその美味しさを知ってもらえれば、攻略のモチベーション向上にも繋がるだろう。
:料理始まる?
:でっけー鍋だ。学校の給食とか思い出す
:料理配信は久々に見た気がするな
:これカレーじゃね?
「お、早くも正解のリスナーが。お察しの通り今からカレーを作ります」
今回の調理は生配信も行う。修行の様子を生放送して宣伝するというなら、こうした休憩シーンも映すべきだろう。
「このヨロイオオクチバスの魚肉をまず、一口サイズにカットします」
十メートル超の巨体からドロップするだけあって、そのままだと食材がデカすぎるんだよな。
野外に設置された臨時キッチンで包丁を振るい、適当に食べやすいサイズに切り刻んでいく。
:中層のあのクソでかい魚か
:白身魚なんだね……
:あいつのタックルは余裕で人間をミンチにする
「カットした肉にスパイスを振りかけたら、次は野菜のカット」
ちなみにスパイスは市販のものを使う。カレーは調理が簡単な料理だが、香辛料なんかは下手に弄るとヤバい味になったりするからな。
同様の理由で、カレールーも市販のものである。……ぶっちゃけ、俺もゼロからカレーを作れる程この料理に習熟してはいない。簡単なようで奥が深い料理なのだ。俺も料理人としてはまだまだと言ったところか。
:相変わらず切るのはえーな
:一回腕を振るだけでじゃがいもがバラバラになったんですが映画か何か?
:初見さんかな? この程度で驚いてたら身がもたないぞ
:今回は店長のチャンネルじゃなくて探索者協会のチャンネルで配信してるからな。客層がいつもと違うんじゃね?
「鶏肉、ニンジン、じゃがいも、玉ねぎ……まあ基本の具材はこんな感じかな。ここら辺の具材は各自お好みで。あ、キャンプするなら食材は缶詰のものを使うと便利だよ」
生の食材を持ち込んでダンジョン攻略、なんてのは結構ハードだからな。一般の人にはお勧めしない。
そしてカットした食材を大鍋にぶち込み、水を入れて火にかける。
「後はしばらく加熱。火を通せば食中毒の危険も少なくなるし、食材が柔らかくなって食べやすい。キャンプならとりあえず食材に火を通しとけばいいと思う」
:あーカレーの雰囲気してきた。美味しそう
:簡単にいうけどダンジョンで火起こすのってそれなりにリスクあるんだよな
:まあ食材の匂いとか音とかで魔物に気づかれる可能性あるからね
「まあ確かにダンジョン内での調理はリスクもあるな。簡単な対策は風上で調理するって手法だけど、それが難しいならボス部屋の前とかでもいい。状況にもよるけど、ボス部屋の前は安全地帯になってる事が多いから」
:ボス部屋の前で料理を……?
:ボスの扉の前で弁当食べてるシーン想像しちゃった
:遠足気分かよ
:やめましょう。ボス部屋前で料理店開いてる人もいるんですよ
:ネタっぽく聞こえるけど探索者にとっては、割とマジな必要知識だからな?
「お、話してるうちにいい具合に煮込めたな。じゃあ一旦火を止めてカレールーを入れます」
野菜と鶏肉の出汁が混じり合い、食欲を刺激する匂いが充満していた所にカレールーをぶち込む。
香辛料の高度な調合でしか生み出せない、ぱちぱちとした刺激的な香りが一気に広がった。
「後は鍋をかき混ぜて、時々弱火にかけながらとろみがつくまで混ぜるだけ。お手軽調理で完成するのが、カレーの強みだよね」
十分程度でとろみがついて、あとはスパイスをお好みで振りかけて完成だ。
「完成――『ヨロイオオクチバスの魚肉カレー』」
さて、こんな大人数向けの料理は殆ど作った事がないが、あの五人は果たして気に入ってくれるだろうか?




