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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第5章 店長、地上にお出かけする

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第137話 巡り合う縁


(三人称視点)


 トオルに誘われたユダ達がキャンプ場に向かってみると、既に料理が出来上がっていた。

 あの場には居なかったベルフェとマカリも集まり、既に用意された椅子に座っている。


「……」

「おや、来ましたか」


「お待たせー、みんな連れてきたよ。……特に何もなかった? シラユキちゃん」

「ええ、結界もちゃんと動作してるみたい。魔物が寄ってくることもなかったわ」


 長髪を結い上げていつものお仕事スタイルになったシラユキが、食器や料理の配膳をしている。

 止まり木亭から離れたキャンプ場であっても、彼女はスタッフの一人として働いていた。食事の準備ももはや慣れたものである。


「え」


 しかし。テキパキと動いていたシラユキが、トオルとその一行を目にした途端、凍りついたかのように動きを止めた。

 ……正確には、一行の内一人を目にして、だが。


「ヒ、ヒヨリ(・・・)?」




 ……かつて。シラユキの生まれ育った世界線において、祇園寺ダンジョンを攻略すべく、彼女はパーティーを組んで攻略を試みていた時期があった。

 その時のパーティーメンバーの一人に、タチバナヒヨリ(・・・・・・・)という名のヒーラーの少女がいたのだ。

 目の前の少女と、全く同じ容姿で。


「ユダさんは会うのは初めてだったかな。こちらシラユキちゃん。当店の唯一の従業員で、ここでも色々とお手伝いしてもらってます」

「あ、どうも……ユダです」


「私も初めまして(・・・・・)ですね、タチバナヒヨリといいます! 今日はご馳走になりますっ!」

「――ぁ」


 そこで、シラユキの時はようやく動き出す。

 目の前のヒヨリという少女は、自分の知るヒヨリではない。

 この世界線でのタチバナヒヨリ。つまりパラレルワールド(・・・・・・・・)の存在(・・・)なのだと、ようやく理解が追いついたのだ。


「は、初めまして……シラユキヒョウカ、です」

「わ〜やっぱり直にみるとすっごく美人さんですね! 配信でも何度か見てましたけど、同じ女性から見ても憧れちゃいます! ……あの、後で使ってるコスメとか聞いてもいいですか?」

「う、うん。いいけど……」


(……名前だけは事前に聞いてたけど、ただの偶然だと思ってた。けど本当に私の知ってるタチバナヒヨリだったなんて。……本当に、ただの偶然なの?)


「どしたのシラユキちゃん、大丈夫?」

「……大丈夫。ちょっと驚いただけだから」

「?」


 実際、突然の再会に驚きはしたが、やはりこの世界のヒヨリは別人であると、シラユキは正確に認識していた。

 トオルには心配されたが、普段の冷静さを取り戻すのにもさほど時間は掛からなかった。


「――――」


……ただ。その様子を、マカリがじっと見つめていた事には気づかなかったが。



「このカレー……魚肉が入ってます?」

「うん。ヨロイオオクチバスの肉だよ。あいつの肉は名前通りアホみたいに硬いけど、火を通すと柔らかくなるんだよね」


 トオルの言った通り、ユダの口の中でほろほろと崩れる魚肉。

 白身魚らしく淡白な味わいだが、それがカレーとの調和を乱さず共存を実現しているのだ。

 脂っこ過ぎず適度な旨味と食感。そこに白米が加われば、訓練生五人も疲労を忘れて、どんどん口の中へとスプーンを運んでいった。


「これ、おいし〜!! あのデカ魚こんなに美味しかったんだ! 今まで傍迷惑な魔物だと思ってたけど、次会った時は調理してみよっかな?」

「……美味しいですね。魔物を食した経験はありますが、確かにこれは別格だ。これからは魔物に対して、食材価値という新たな観点を見出せるかもしれません」

「……もぐもぐ」

「こんなに美味しいカレー初めて食べました! ついおかわりしたくなっちゃう……けど、食べすぎるとお腹周りがっ……!」


「食べた分は動けば問題無し! おかわりはまだまだあるから、遠慮なく食べちゃってくれ」


(……大人数向けに料理作ったみたのはほぼ初めてだったけど、美味しく食べてもらえたみたいで良かった。他の繊細な料理じゃこうもいかなかったかもしれんし、やっぱカレーって偉大だわ)


 カレーの偉大なる力にトオルが感激している中、五人の訓練生同士でも会話が進む。


「ずっと気になってたんだけど、ユダ君はどうして探索者になったの? Cランクまで上がってきたくらいだから、それなりにモチベがないと続かないと思うけど」

「……えーと、実は就活に失敗したのがキッカケで……そのまま探索者になったら、いつの間にかこんな事に」

「わーお。それでCランクならマジで才能あると思うよ? 会社にとっては逃がした魚は大きかったみたいだね〜」




「ベルフェさん、さっきは助けてくれてありがとうございました。あれがなかったら私、イカダから落ちて魚の餌になってたと思います。ちゃんとお礼を言ってませんでしたので……」

「……気にしなくていい。こんな馬鹿げた訓練を考えたあの男(・・・)が悪い」

「あ、あははは……ベルフェさんってすごい剣捌きでしたよね、誰かに習ったんですか? それとも我流? その歳でBランクなんて相当凄いのに、私ベルフェさんの事全然知らなくって……」

「……今まで目立つ事は避けてきたから。それと、詮索はあまり好きじゃない」

「あっ、ごめんなさい」

「……」

「……」

「…………。お水、持ってこようか」

「あ、はい。ありがとうございます」




「しっかし、マカリん(・・・・)が訓練に参加するなんて、正直意外だったなー。てっきりこういうメディア露出嫌いかと思ってたけど」

「僕ももっと高みを目指したいと考えただけですよ。実際、あの店長さんの技術には目を見張るものがあります。同じスキルを持つものとして、参考にしたいと思いましてね。

あとそのあだ名なんです? 不快なんでやめて頂けますか」

「え〜ウチなりの親愛の証だったんだけどな〜。お菓子みたいで可愛い名前だと思うんだけど。そうだマカリん、今度ウチの配信に出てみない? ちょっと下層潜るメンバー探してるんだけど」

「結構です。あとそのあだ名は今後禁止で。……なんですその顔。いい歳(・・・)してそんな子供みたいな拗ね顔「あ゛?」

……すみません、失言でした」


 共に苦難を乗り越えたという経験と美味しい料理は、立場を超えて五人の距離を確かに縮めていった。


◆◆◆

ちなみにヒヨリちゃんは78話にチラっと出てます。遅すぎる伏線回収。


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