第130話 イカダに揺られて(後)
(一人称視点)
「おー、やっぱなんだかんだ言って上手くやれてるじゃん」
木陰から見守る俺の視線の先には、イカダの上でてんやわんやの五人組。
訓練を開始する前、五人のうちユダさんとヒヨリさんは不安そうにしていたが……
実際にやってみたら、意外と上手くいったみたいだ。攻略経験者のAランク二人のフォローも上手いな。それにベルフェさんが予想以上に強い。
:なあ俺たちは何を見せられてるんだ……?
:店長と探索者協会がコラボするって聞いて来たんだけど
:もっとカメラ近づけない?
「ダメダメ、これ以上近づいたら邪魔になっちゃうからね」
俺の側には、配信用ドローンが浮遊している。この訓練の様子を絶賛生配信中だ。
今回の共同計画を大体的に宣伝するために、コラボ配信と銘打って始めたこの放送。始まったばかりにも関わらず、既にかなりの視聴者が集まりだしていた。
「最初はクライさんにドローンを付けようと思ったんだけどね。“流石にイカダの上でドローンは守り切れない”って言われたので、今俺が配信してる状態です」
:そもそも中層をイカダ下りするという発想がおかしいんだわ
:これが訓練とか正気じゃないと思う
:なんでこんな人外に訓練を任せたんですか?
:まじで休みなしに全方位狙撃されてんじゃん。なんで死なないの??
「リスナーのみなさーん、ここコラボ配信のチャンネルですからね、俺のチャンネルの時みたいな粗暴な言葉使っちゃだめですよ」
ホムラちゃんやクライさんの配信をたまに見るんだが、リスナーの質が全然違うんだよなー。
俺のチャンネルはやたら粗暴な言葉遣いのリスナーが多い気がする。なんでだろうね?
:粗暴()
:こんな乱暴な訓練メニュー組むお前に言われたくない
:クライミカちゃん見れると思ってたのになんで野郎の顔見なきゃいけないんだ
「……お、また滝を降りるみたいだ。そろそろかな?」
当然だが、ダンジョンというのは奥に行くほど危険度が増す。段階式に難易度を上げることで、より効率的に人類から情報を搾り取ろうとしているからだ。
この中層も例外ではない。川を下るほど、魔物の凶悪性も増していく。
そして中層にはもう一つ、注意しなければならないポイントがある。
それがこの辺、中層の三層に差し掛かった辺り。
:なんか音聞こえね?
:ん?
:ほんとだ、なんかキーンって音する
:機材トラブル?
:やばい。デカいの来るぞ
「音量注意〜」
俺が忠告した次の瞬間、周辺の森林一帯が吹き飛んだ。
レーザーのように超遠距離から飛来した水流が、森林ごと俺の周りを薙ぎ払ったのだ。
「俺的中層ヤバポイント第三位『中層ラスボスの狙撃』。だいたい三層から五層の途中まで、全部ラスボスーーダブルヘッドドラゴンの射程範囲なんだよね。ご覧の通り威力と射程がえげつないので、注意して先に進む必要があります」
:は??
:階層を跨いだ超遠距離射撃!??
:まじで初見殺しなんだよなこれ。事前に情報仕入れてなきゃ一瞬で壊滅する
:あの二本首、実は本体よりこっちのが厄介だったりして
:いや店長はなんで狙撃くらって平然としてるんですかね
「所詮ただの水鉄砲だからね。俺はダメージなんか喰らわないし、狙撃前の音でバレバレ」
まあ、あの五人組はそうはいかないだろうが。
なのでこうして俺が別行動することで、ダブルヘッドドラゴンの囮になっているのだ。
さすがに水上で狙撃されたら、回避は難しいだろうし。
「けどなーあいつの首、二本あるからなー」
今の狙撃の正体は、首から放たれた水流ブレスだ。
つまり首が二本あるということは、狙撃も二発同時に撃てるという事である。
:おいまたさっきの音しだしたぞ
:風切り音? 唸り声? どっちにしろやばい
:クライちゃん避けてー!!
……さて、本当にヤバくなったら手助けはするつもりだが。
中層ラスボスの牽制攻撃、果たしてあの五人に捌けるだろうか?
◆
(三人称視点)
「……? なんだ?」
その異変を、真っ先に感知したのはユダだった。
水中からこちらを狙う魔物の気配が遠ざかっていく。
同時に、流れる川の水位が下がる。
「ユダさん、どうしましたか?」
「……ヒヨリさん。なんか水中が静かになってませんか? 水位も下がってるような」
「い、言われてみれば、魔物の量が減ってるような」
「……あー、こりゃ来るね、アレが」
「ええ、どうやら騒ぎすぎたようです。中層の主に気づかれてしまった」
中層攻略経験者であるクライとマカリは、ユダの言葉を聞いてすぐに状況を理解したようだった。
「中層の主……って」
「ダブルヘッドドラゴン。中層5階に潜む最終ボスです。しかし奴の射程範囲はとにかく広い。ボス部屋からここまで直接狙撃してきますよ」
「は!? ここまだ三層ですよ!? 五層から三層まで直接狙撃してくるんですか!??」
「マカリくん、あのブレス防御とかできそう? ウチの電撃じゃこういう単純暴力には対抗できないんだよねー」
「やるだけやってみますが、多分防ぎ切れないですよ。気づかれてしまった以上、僕はイカダから飛び降りるべきだと思いますが」
「……問題ない。私が斬る」
そして名乗りをあげたのは深山ベルフェだった。
濡れた漆黒の髪を肌に貼り付け、剣を片手に佇む様は、さながら幽鬼のようであった。
「私は影のあるものなら何でも斬れる。貴方の【召喚術】と【影剣士】、二つのスキルを同時にぶつければ、奴のブレスにも対処は可能」
「……なるほど、では試してみましょう。かの【焔剣士】と並ぶレアスキル、お手並み拝見ですね」
「んじゃ、ウチは緊急避難に備えておくかなー。防御が無理そうならみんなを抱えて避難しちゃうよ! 逃げ足には自信があるから、みんな安心してね⭐︎」
「……ユダ。貴方のスキル【水術師】は液体を操れるはず。念の為、奴の水流ブレスの威力を弱めてほしい」
マカリが巨大な岩石を召喚し、ブレスを防ぐ盾にする。
ベルフェの足元から影が立ち上り、その片手半剣に絡み付く。
ユダが川の水流を取り込んで、巨大な矢を生み出し弓につがえる。
三者三様即興連携。
この地獄のイカダ下りで否応無しに連携をさせられた彼らにとって、ボスが放つ超遠距離狙撃への対処もそう難しいことではなかった。
「来たッ!」
「【召喚】、岩石蓋」
「【境界断ち】」
「す、【水流射撃】!」
岩石がブレスを堰き止め、水の矢がブレスを弱め、そして影の斬撃が真っ二つに切り裂く。
川そのものを飲み込む筈だった巨大なブレスは、あらぬ方向へと逸れて着弾した。
「うおお、やった!!」
思わずガッツポーズをしてしまうユダ。
しかしその腕を、横からベルフェが引っ張った。
「ん?」
「駄目だ。次射がくる」
「た、退避ー!!」
次の巨大水ブレスが着弾し、イカダがひっくり返った。




