第129話 イカダに揺られて(前)
(三人称視点)
「死ぬ死ぬ死ぬ!! やっぱこんな訓練参加するんじゃなかった!!!」
「……泣いてないで、手を動かす」
川に揺られるイカダの上、ユダは激しく後悔していた。
クライ、マカリ、ユダ、ヒヨリ、ベルフェの五名は、トオルの指示通りイカダに乗って、中層での川下りを決行していた。
「また来た! 上空前方、サケビアホウドリが三、ポイズンイーグルが四!!」
「あのアホウドリ、どんどん仲間を呼んできますよ。ユダさん、狙撃いけますか?」
「な、なんとか」
「皆さん、後ろからも魚影が! あれはケイブシャークでしょうか、数は不明!」
「……水中でよく見えないけど、周囲から集まってきてるね。そろそろ向こうの狙撃手がくるかも」
「はいはい、水中のモンスターはウチに任せて。あ、ユダ君はスキルでイカダの制御もお願い! 転覆したら大変だし!」
「うへぇ……」
一息つく暇もなく、容赦なく襲いかかる魔物の群れ達。
Aランク二人の指揮を中心に、連携して魔物をなんとか退け続けている、が。
「……来た。狙撃」
「避けて!」「うおぁ!?」
「スナイパーフィッシュですね。ここからは水中からの狙撃に注意してください」
突如、水中から射出された一筋の水流が、ユダの頬を掠める。
まるで刃物で切り裂かれたかのように、ぱっくりと避けて血が流れていた。
「威力えっぐ!? これ胴体余裕で貫通するじゃないですか!」
「水中からの不意の狙撃、中層での死因ぶっちぎりナンバーワンだね! ユダ君のスキルなら水を操作して威力も軽減できると思う!」
「ユダさん、治療するので動かないでください! 血の匂いで魔物が寄ってきますので!」
「……ちょっと遅かったみたい。地上からも敵が来た」
「やれやれ。今度はアサシンビーですか。森や空中から毒針で狙撃してきますよ。あいつらの相手は僕がしましょう――召喚、ワイバーン」
……中層の恐ろしい所は、休むことなく全方位から、狙撃と襲撃を繰り返し行われる点だ。
地上、空中、水中。いずれにも遠距離攻撃を持つ魔物が生息し、サケビアホウドリという他の魔物を呼び寄せるものもいる。
適切かつ迅速に処理をしなければ、瞬く間に魔物どもに食い荒らされてしまうのだ。
「水中、敵影一! ……これは、ヨロイオオクチバス!?」
「げ、面倒なのがきた」
「あいつの武器はタックルだ、全員何かに捕まっ――」
「ッ、【水流操作】!」
「……狙撃がくる」
五人の乗ったイカダが、まるで紙クズのように大きく吹っ飛ぶ。
十メートルはあろう巨大を持つ魔物、ヨロイオオクチバス。そのタックルでイカダを転覆させようと目論んだのだ。
「くそっ、この野郎!!」
水をロープのように張り巡らせ、水中に縫い付ける。
イカダは一瞬宙を舞うが、ユダの機転のお陰で転覆は免れた。
しかし、被害ゼロとはいかなかった。
(クソッ、ベルフェさんが……!)
「大変です! ベルフェさんが川に落ちちゃいました!? 私を狙撃から庇って――」
「落ち着いて。水中の魔物を掃討するのが先です。もうすぐ蜂共の相手が終わりますので」
「KYUUURRURURUURU!!!」
「うわあのアホウドリ!!」
「五時の方角と、七時の方角から敵! わ、ワイバーン!?」
「もう片方はキンググリフォンですか。面倒なことになってきましたね……」
「……問題ない。水中の敵はあらかた片付けた。空中戦に集中すれば、倒せない相手じゃない」
「べ、ベルフェさん!? 無事だったんですか!?」
「……ん、大丈夫」
その時、イカダから落ちたベルフェが、なんと自力で水中から飛び上がり、イカダの上に着地し帰ってきた。
その剣の先には、ヨロイオオクチバスの目玉が突き刺さっている。
「ほう、一人であの魚群を? 大したものですね」
「ナイスファイトベルフェちゃん! んじゃ空中の相手は、ウチらAランク組に任せておいて!」
「ま、マジで地獄だ……もう帰りたい……」




