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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第5章 店長、地上にお出かけする

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第126話 中間地点設置計画


(三人称視点)


「“探索者全体のレベルの引き上げ、それによる渋谷ダンジョン攻略の進展をはかる”、ですか」


 ユダが中層に訪れる少し前、止まり木亭の店内でシドウが、トオルとシラユキの考えた案を聞いて頷いた。


「確かに、それは我々としても望ましい展開です。現状この渋谷ダンジョンの攻略は、残念ながら殆ど進んでいません。ホムラアカリという例外こそありますが、もう少し攻略できる人員を増やしたいというのが本音です」


 しかし、とシドウは言葉を続ける。トオルの提案はシドウとしてもぜひ叶えたいが、そう簡単にはいかないことも理解していた。


「探索者を鍛えるというのはそう簡単ではありません。協会でも上級探索者による訓練や講座などを適宜行なってみてはいるのですが、めぼしい結果を挙げられていないのが現状です」

「ですよね。やっぱりそう簡単にいくもんじゃない」

「ええ。特に渋谷ダンジョンは世界的にみてもかなり難易度が高い。上層はともかく、殆どの探索者が中層で脱落しています」

「そう、そこなんです。中層(・・)がネックなんですよ」


 これはシラユキが渋谷ダンジョンの情報を集めた結果、気づいた盲点であった。


「ぶっちゃけ、上層はなんとかなります。3階までしかないし、通路が入り組んでいる分大型の魔物も少ない。きちんと準備と対策をして、パーティーを組めば突破は難しくない」

「仰るとおりです」

「ただ中層から、いきなり難易度が跳ね上がる。上層の入り組んだ遺跡とは違って、高低差のある開けた地形。空中、水中、地中、森の中、全方位ありとあらゆる角度から狙われて、一方的にタコ殴りにされる。崖や滝といった危険な地形も多く、遭難者がぶっちぎりで多い」


 トオルの指摘は当たっていた。

 上層まではなんとかなる。しかし中層では通用しない。

 難易度の差が大きすぎるのだ。そのギャップについていけず、多くの探索者が脱落している。

 これを乗り越え中層を攻略できたのは、Aランク探索者十人のみ。


「ウチの店に来てもらうにしても、まず中層を攻略できなきゃ話にならない。だから、中層を乗り越えられるような支援をする」

「……そのためのキャンプ場、中間地点の設置、ですか」

「渋谷ダンジョンには安全地帯と呼べるものが殆どない。ボス部屋前の空間とかは数少ない例外だけど、そんなに広くないし……いずれにせよ、中間地点と呼べる場所がないんですよ」


 転移石などの超高級品を使わない限り、ダンジョン探索は上層から順に降りていく必要がある。

 目的地に辿り着くまでに数日を要することもあるし、そのための食糧も必要だ。無事に到着できたとしても、すでにヘトヘトに疲労しているかもしれない。

 なによりダンジョン突入の試行回数を増やすことは、単純に予期せぬ事故を招く可能性が上がる。


「他の世界線でもあった手法です。“大規模なダンジョンでは、探索者が物資の補給、休息を取れるような安全地帯を設ける”。俺はこれを中層でやってみたい」

「……他の世界線で。なるほど、成功例があるならば、こちらとしても多少は動きやすいですね」

「ダンジョン内で休息が取れるなら、渋谷ダンジョン探索へのハードルも大幅に下がる。その余力を他の要素に回せますし、初心者にとってはひとまずの目標地点としてモチベーションに繋がる。……そして、この中間地点には俺が顔を出す」


 トオル本人も、世間からどういった評価を受けているのか、全く把握していない訳ではない。

 トオルに会うために海外から渋谷ダンジョンに来る(アルベルト)もいるくらいだ。自分の存在そのものに集客効果がある事も理解していた。

 (なお本人はシラユキに指摘されるまで自覚していなかったが)


「さすがに毎日って訳にはいきませんが、中間地点であるキャンプ場に来て、料理でも振る舞いましょう。臨時出張店みたいな感じですね。それがモチベーションになってくれるなら、攻略意欲も増すと思います」

「……下層のお店の方は、よろしいので?」

「ぶっちゃけ、殆ど客が来ないので……それに店舗自体を動かすのは難しいですが、俺自身が移動して料理をすることはできるって、気づきましてね。

“ダンジョンに探索者達にとってのオアシスを”。……これは俺の理念ですが、現状では達成が難しい目標だ。

だから今回の中間地点(・・・・)なんです。俺の夢にとっても、探索者達にとっても」


 ……トオルの失敗点は、『最初からハードルが高すぎた』という点に尽きるのだ。

 難易度設定を誤った結果、この世界にとってハードルが高くなりすぎてしまい、ろくに客がこない店になってしまった。

 故にハードルを差げる。最終目標との間に、中間目標を生み出す。


「なるほど。お話はよくわかりました。……試してみる価値はありそうですね」


 シドウはこの計画に、大いに興味を抱いた。そしてより詳細な部分を詰めていく。


「中間地点を作るとして、トオルさんはどの程度協力してくださるのでしょう? また、設置場所はどこにしますか?」

「俺が言い出したことだし、許可さえもらえるなら大抵は協力できるよ。魔物避けの結界とかも貼れるし。設置場所は……候補はいくつか絞り込んでいるくらいです。大規模なプロジェクトになるだろうし、シドウさんにも設営場所の意見を聞いておきたかったので」

「助かります。では後ほど実地検査をしましょうか。……もう一つ。トオルさんは、いつまで(・・・・)この計画を支援してくださるおつもりですか?」


 シドウが最も懸念しているのはそこだった。

 トオルの協力が得られるならば、協会としても万々歳だ。

 しかしそれがいつまで続くのか。それをトオル本人から引き出しておきたい。

 サカガワトオルは別世界の人間。いつまでもこの世界にいる保証などないし、店を畳むと言い出せばこの計画も支援する意味がなくなるからだ。


「……最初に言っておくと、永遠にずっと支援をする訳ではありません。あくまでこれは、ウチの店にお客さんを呼び寄せるための施策であって、慈善事業じゃありませんので。

目的を果たした、あるいは要求を満たせなかったと判断した場合は、俺はこの計画から手を引く可能性があります」

「やはり、そうですね」

「ただまあ、すぐに結果が出るとも思っていません。年単位で、長い目で様子を伺おうと思ってます。流石に協会に手伝ってもらっておいて、急に放り出したりはしませんよ」


 その言葉を聞いて、ひとまずシドウは胸を撫で下ろした。

 自身が想定していた反応の範疇であったからだ。これで時間操作でめちゃくちゃ時短しますとか言い出したらどうしようかと思っていた。


「その言葉を聞いて、安心しました。……ところで、この資料にはトオルさんがトレーニングプランを用意すると書かれていますが……」

「はい。俺も探索者レベルの引き上げに協力したいので。渋谷ダンジョンの攻略方法とかなら、いくらでも出せますよ」

「それはありがたいのですが、失礼ですが指導の経験などお有りでしょうか? こういった訓練は、指導者としての知識も必要になることが多いので」

「……………………。まあ、俺の師匠が使ってた訓練メニューがありますし、それを試しに使ってみるつもりです」


 なぜかシドウは急激な不安に襲われた。



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