第125話 テスターを招待してみた(三人称視点)
(三人称視点)
「絶対行きたくない」
Cランク探索者、湯田幸矢はスマホの画面を見つめながら、そんな弱音を零した。
『前略。湯田幸矢殿は探索者協会にて実施される、特別強化合宿のテスターとして抜擢されました』
数日前に探索者協会からこんなメールが届き、それ以降ユダは眠れぬ日が続いていた。
「なんだよ特別強化合宿って……なんで俺がいきなり抜擢されるんだ?」
以前に『止まり木亭』の直接送迎キャンペーンに応募し、当選したことがあるユダだが、今回は全く心当たりがなかった。
内容としては、渋谷ダンジョン中層にて、個人の戦力増強を目的として三日間の訓練合宿を行う、と書かれてあった。
しかしテスター書いてあるということは、まだ試作段階ということ。要するに訓練が成功するかどうか、実験体を募集しているのだ。
「正直めちゃくちゃ胡散臭いから断りたいんだけど……これ、断ったら今後の評価に響くのかなぁ。うわぁ、行きたくねぇ……」
まるで飲み会に誘われた新入社員のような心境で、ユダは力なく寝転がる。
ユダは別に最強の探索者だとか、そういった夢を持ち合わせているわけではない。
ただ成り行きで探索者になった結果、成り行きでCランクまで上り詰めたというだけである。
自分が食うに困らないくらいの稼ぎがあればいい。それくらいのモチベーションで探索者をやっている。これ以上強くなりたいと考えることもなかった。
でもそれはそれとして、協会から悪印象を持たれたくはない。
「断りたい……! でも協会から嫌な奴とも思われたくない……! あー! 隕石でも降って台無しにしてくれないかなぁ!!」
そんな無駄な事を願いつつ数日経ち、一向に隕石が降る気配がなかったので、ユダは悩み抜いた挙句に『参加します』と返信した。
◆
そして半月ほどの時が経ち。
ユダは渋谷ダンジョンの中層1階を訪れていた。
「えっなにこれ」
ユダは渋谷ダンジョンの中層に、以前もソロで訪れたことがある。
渓谷を再現した複雑な地形と、上層とは一線を画す魔物の強さに、その際は攻略を断念する結果となったが。
しかし目の前の光景は、ユダの記憶にある中層とはかなり様相が異なっていた。
鬱蒼と生い茂っていた森林は切り開かれ、高低差のある地面は平らに均されている。そしてログハウスのような巨大な建築物と、木製のテーブルやイスのようなものがいくつか並んでいた。
「なんか、林間学校の時に見たキャンプ場と似てる……え? どうやって作ったんだこれ?」
ダンジョン内部での地形開発というのは簡単ではない。
魔物からの妨害もある上、地質や環境自体にも常識が通用しない。地上での工法をそのまま持ってきても失敗することが多い。
しかもここは世界最難関とも呼ばれる、渋谷ダンジョンの中層だ。果たしてこの魔境で、どんな手段を使いここまで大規模な開発をおこなったのだろうか?
「……いや普通に考えて絶対無理だよな。もしかしなくてもこれ、あの人が関わってる案件じゃ……?」
「――あれ、ユダさん?」
不意に声をかけられたユダ。
その声の主は、やはり予想していた人物であった。
「トオルさん、やっぱりあなたの仕業だったんですね……」
「久しぶりー! 前にお店に来てくれたよな? ユダさんも協会に呼ばれてたんだ」
止まり木亭店長、サカガワトオル。
下層で店を開いているはずの人物が、なぜか中層の1階に姿を現した。
「お、お久しぶりです。……この場所って、もしかしなくてもトオルさんがやったんですか?」
「ん、ああちょっとね。ダンジョンに詳しい知り合いがいるもんで、そいつに手伝ってもらったんだ。俺は結界張ったり、魔物とか追っ払ったりしてただけだよ」
そりゃそうか、とユダは納得した。
ダンジョン土地開発だなんて、トオルにとっては対して難しい作業ではないだろうからだ。
それよりも、トオルがこんな場所にいる理由の方が気になった。
「俺は今日、強化合宿をするって言われて来たんですけど……トオルさんが呼んだんですか?」
「あー、計画を立てたのは俺だけど、人選の方は協会に任せたんだよ。|俺の考えた訓練メニュー《・・・・・・・・・・》についてこれそうな人材を、適当に見繕ってくださいって」
「え」
「止まり木亭の経営戦略その一。『探索者全体のレベルを引き上げる』……その為の訓練メニューを、俺が考えた。今から始まるのは、それが通用するかどうかのテストだ」
あ、これガチで死ぬかもしれん。とユダは自分の選択を後悔した。




