特別訓練と事情を持った亜人ハンター-8
「はぁっ……はぁっ……まだ追いかけてくるっ……!」
目が覚めた丘から少し離れた所でサクラは灰色の毛並みと鋭い牙を持ち、獰猛な叫びを上げながら追いかけてくる狼—————『灰牙狼』に追いかけられていた。さらに言ってしまえば地を這う灰牙狼だけでなく空からも全身を銀の体毛で覆われ、人と同じサイズの鳥—————『銀喰鳥』にも獲物として追われてもいた。
「はぁ……っ!—————嘘、でしょ……前にも……っ!」
今まで生きてきた中でまったくと言っていいほど運動をしてこなかったサクラは息が切れ、走る足を止めて息を整えようと顔を上げると前方にも魔物がこちらを見ており、サクラと目が合った。後方からは『灰牙狼』と『銀喰鳥』、前方からは全身が青い鱗で覆われ、人間が作ったと思われる鎧の様なプレートと兜を被り、ショーテルの様な形をした武器を持った『蜥蜴人』がこちらへと歩いてきていた。何の武器も持たないサクラは確実に死を覚悟した。
—————ははッ……もうだめだ。何も知らない場所で私は死ぬのか。
サクラは心の中でそう呟くと、静かに瞼を閉じ深呼吸を何度か行うと再度瞼を開き、目の前に広がる大空を眺めた。
「頭を下げな!」
死を覚悟していたサクラの耳には1つ女性の様な高い声が届いた。そしてサクラはその声が聞こえたと同時に反射的に頭を手で覆い、膝を屈した。すると、一拍置いてからサクラの耳の近くをヒュンと通り過ぎる音が何度か聞こえ、その後魔物の呻きらしき声が聞こえた。恐る恐る顔を上げたサクラの視線に入ったのは先ほどまで自分を追いかけ、追い詰めて来ていた魔物たちが身体から頭からと至る所から血を流して倒れていた。
そして先ほど声が聞こえていた方へと視線を向けるとそこには1人の女性と1人の兎耳の少女が木の上から飛び降りてきた。2人とも手には弓を持ち腰には先ほど魔物を射った時と同じ矢が入った矢筒を携行していた。
「ケガはないかい。お嬢ちゃん」
「え、あ、はい!ケガはないと思います。あ、ありがとうございます」
女性は手を差し伸べながらそう言葉を発した。私は1つ頷きで返すと彼女の手を取り立ち上がって再度礼を述べた。
「まったく災難だったね。魔物に追われるとは」
「魔物……。あのここはどこなんでしょうか。日本ではないんですか!」
「二ホン?……あぁ、ここはあんたの知る世界ではないよ。ここはエイガルドっていうんだ。あんたたちの世界でいう異世界って奴かな」
異世界。やっぱここは日本どころか地球でもない場所か。
サクラはこの世界が自分の知る世界ではないと知り、どうにか戻る方法は無いかと思考するが今まで異世界に行ってしまうといった本を読んだんことがないせいか知識がなく方法を考えようにも考えることが出来なかった。
「あの、あそこの街に行くにはどうやって行けばいいですかね?」
「うん?あぁそうだったね。あんたは転移者だ。街に行く必要があるね。ついてきなよ」
女性—————リアはサクラにそう言うと、先ほどまで倒した魔物の素材を剥ぎ取っていた兎耳の少女—————サティヴァーユを呼ぶなり、街の方へと向かって歩き出した。
☆★☆★☆
「ここまでが私とサティヴァ―ユさんの出会いですかね」
そう答えたサクラは運ばれてきた食事を次々と口へと運ぶ。
「偶然にもハンターというクラスに就いた私は師匠—————リアの下でサティヴァーユさんとハンターとしての基礎や魔物の生態などを半年ほどですかね。学ばせてもらいました」
「そうだったのか。……ところでそのリアさん?って人は今どこに?その人もハンターなんだろ」
俺はそう言葉を口にするとサクラは何かを思い出したように口を閉ざし、顔を伏せてしまった。そして一拍おいてから一言だけ言葉を溢した。
「あの人は……師匠はもういません」
サクラの声はいつも以上に低く、そして悲しみの様な悔やんだような表情を浮かべた。
「いないってまさか……」
「えぇ、師匠は死にました。魔物の手によって。そして……私たちのせいで……」
サクラはさらに暗い表情を浮かべ、そう言葉を口にすると次第に目尻に涙を浮かべた。そして言葉を続けた。
「すみません。いきなり泣いてしまって」
サクラは目尻に浮かぶ雫を手で掬うと謝罪を口にした。
「いや、それは構わないけど何があったのか教えてくれるか?」
「貴方はよくそんな事が聞けますね」
「あ、いや……すまん。気分を悪くしたなら謝るよ」
「いえ、普通は誰も暗い話なんか聞きたくないのにあなたはすごいですねと思っただけです。それでなんで師匠が亡くなった、でしたね」
サクラはそう確認するとさらに言葉を続けた。
それはサクラがハンターとなって半年が過ぎた頃、いつものようにリア、サクラ、サティヴァーユはギルドでクエストを受け、森へと出ていた。
「えっと、今回のクエストは『血猿』15体討伐……ってこれ誰が取ってきたんだい」
「今回はサクラが取ってきたんだよ師匠」
サティヴァーユはサクラを指で指しながらリアの質問にそう答える。
「え、だってサティがこれがいいっていうからこれに決めたんだよ?」
「えーでも決めたのはサクラじゃん」
「まったくどっちでもいいさ。それより『血猿』って結構面倒なクエスト持ってきたもんだよ」
リアは頭を掻きながらクエスト内容に目を走らせる。クエスト内容は『血猿』の討伐と記載されており、そのほかに生息地や依頼主の名前、付近での目撃情報が記載されていた。
「とりあえずこいつらの巣が近くにあるはずだからまずは偵察だよ。サクラ出来るかい?」
「うん、やってみる」
『広範囲索敵』
サクラは自身の印の能力で辺りを索敵し始めた。すると、サクラたちがいる方向から東にかなり強い反応が頭の中に流れてきた。
「……見つけた。数は19、いや20。しかも1匹かなり強い魔力を発してる」
「かなりいるねぇ。しかも強い魔力ってことはそいつが親玉かも知れないね」
「師匠どうする?そのまま突っ込む?それとも一度引き返してから他の冒険者に援助してもらう?」
リアは「そうだねぇ」と顎を触りながら思考する。今行けば奇襲をかけることは出来るが、数的に振りな上、こちらはハンター3人だ。しかもそのうちの2人はまだ見習いときたもんだ。正直な所一度引き返してもう少し人数を集めてから奇襲する方が勝率は上がる。
リアはそう思考を繰り返しているといつの間にか狙撃の出来る位置について『血猿』の巣に矢を番えているサティヴァーユの姿がリアとサクラの視界に映った。
「おい、サティ?一体何をしているんだい?」
「師匠!今なら確実に奇襲できますし、私たちなら勝てるんだから深く考えずに行きましょう」
「あ、おいバカ!今すぐ矢を降ろせ!そしてこっちに戻ってこい!」
リアの注意も遅くサティの手に持っていた矢は『血猿』の巣に真っすぐに飛んでいくが、『血猿』1匹にも当たらず巣の中央に落ちた。そして飛んできた矢に気付いた『血猿』たちは一際ガタイのでかい『血猿』を中心に矢の飛んできた方向—————リアたちが潜んでいる方向へと叫び、雄叫びを上げた。
「とりあえず逃げるよ!」
リアはサティとサクラを引っ張り一目散に『血猿』の群れから逃げ出すが、匂いと音を頼りに『血猿』たちもリアたちを追いかけ始めた。
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