十三話
実行係の二人はマツカゼの案内で目的地を回り、一人別行動の上司の身を案じながらも、的確に回収を遂行していく。移動場所が遠い場合は一度ロッカー室へ戻り、再度設定してからまた『外』へと向かう。
回収する度に一応報告は入れるが、そんな手間の間でさえ、何故かヨシナガからの反応はない。
「班長、何してるんスかね?」
《近くの駐車場で『呼んでる』わ。ヨシナガったら、本当に面倒臭がりだから》
「呼んでる? まさか、回収対象をですか?」
《そうよ。『呼寄』を三つも使ってね》
「え? でも『呼寄』って、『レベルレーベル』が反応する範囲まで近付かなきゃ意味無いんじゃなかったっスか?」
《それが出来るのが、あなた達の班長なの。あの人は『少し特別』だから》
マツカゼの言葉に部下達は首を傾げるが、彼女がヨシナガを『特別だ』と言う理由は、彼の生まれ持った能力にあった。
僧侶の子に生まれたが故かどうかは、本人にも分からない。しかし、寺を生家とした彼は幼い頃から人に見えぬものが視え、人に聞こえぬものが聴こえた。善きも悪きも引き寄せてしまう己が不思議な力に大変苦しんだ頃もあったが、死しても尚消えなかったその才能、ヨシナガは回収班に入って初めて有効な使い道に気付く。
パチンコ店の広い駐車場の真ん中に腰掛け、人ならざるものを引き寄せる能力を聞こえない音色に乗せ、『呼寄』を三本同時に咥えて深く長く何度も吹く。数分後には、対象が目視できない程遠くにあっても、目を閉じれば暗闇の中に点々と白い光が近付いてくるのが分かった。
数は二十二。一件を残して、受け持った殆どの回収対象が己を求めて集まったようだ。
「……一つは地縛だったか。マツカゼ、六ページ目のヤツって二人から近いか?」
《やってあげてもいいけど、アキちゃんとナッちゃんに活け造りとか出してあげてよね》
《活け造り、って刺身っスかっ?》
《ヒラメ、ヒラメがいい! 班長、俺ヒラメ食べたい!》
《オレ鯛がいいっス! フグでもいいっス!》
「うっせぇなぁ、マグロでも何でも出してやるよ。任せたからな」
《了解!》
陽気な部下達に苦笑しながら、目を開けてヨシナガはゆっくりと立ち上がる。持っていた銃の引き金に指が伸びた時、集まっていた異形の化物達が一斉にヨシナガへ飛び掛かった。
次の瞬間、ヨシナガは笑む。もう片方のホルスターから違う種類の拳銃を引き抜いた。
七.六二ミリ口径ナガンM一八九五軍用回転式小型拳銃。あの地獄の中で出逢った、最初で最後の異国生まれの友人……その彼が別れ際に寄越してくれた『自決用銃器』だ。
両手に握られた銃を巧みに操り、亡者達を迎え撃つ。連射を繰り返しても弾切れが起きない理由は、この二丁の拳銃こそが、ヨシナガの『道具』であるからだ。
ヨシナガは全く対象に触れる事なく、華麗な銃捌きで次々に回収していく。しかし、残りの三体はヨシナガの狙撃すら避ける程の高レベルらしい。連射して姿を追い掛けるが、相手は上手く弾を躱しては此方の隙を伺っている。
(……一つは1E、あとの二つは2Bか)
ヨシナガが一度銃口を空へ向ける。一息吐いた後に、一際体躯の大きな対象に銃を向けてみると、後ろに気配が回るのを感じた。
囮か。そう感じた次の瞬間には、後ろから飛んできた2Bを三発で撃ち落とし、飛び回るランダムな動きを見定めて残りの二体にも殺意を撃ち込む。もう一体の2Bを回収し、地面に落ちてのたうち回る1Eの所まで駆け寄ったヨシナガは、相手が動かなくなるまで頭部目掛けて集中砲火を浴びせ続けた。
ものの数分で、二十件を超える件数をヨシナガは回収してしまった。しかし、部下達は突然繰り広げられた銃撃戦に思わず悶絶する。
イヤホンから直に入ってきた突き刺さるような大音量に、誰もが耳を押さえて痛みに苦悶の表情を浮かべた。
「おーい、終わったぞー」
《うるさーいっ! 撃つ時は言いなさいよ、耳が裂けるわ!》
「別にいいだろ、俺は今から活け造りの注文入れなきゃいけねぇんだからよ」
《班長、何なら今からこっち来ますか?》
「えー、遠慮しとくぜ。もう俺が居なくてもお前等で回収できるだろ?」
《残念っスね。でも活け造りは絶対っスよ班長!》
「わかってるって。マツカゼ、俺は先に戻ってキッちゃんに連絡入れてから製造係の手伝いに行く。あとは頼んだぜ」
《了解。お疲れ様、ヨシナガ》
実行係の二人とも挨拶を交わし、ヨシナガは誰も居ない駐車場を後にした。
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