#39
「#39」
佐藤の盗聴機からの音声に耳を傾ける鼻毛…
「何故だ…前嶋君、若菜ちゃんと結婚するんだって…
幸せになるんだって、あんな笑顔の君を見たばかりだったのに…」
鼻毛は拳を握りしめる…
夕張のゴミ処理施設から1キロ程度離れた道路に停車しているワゴン車…
香山の私財で作られた戦闘用の車両であった。
後部座席から、何事かを呟いた鼻毛に助手席に座る雪乃は…
「どうしました、ミスターノーズ?」
「シュガーが誠次に捕まった…」
振り返った雪乃は驚きから目を丸くしていた。
「助けに行きましょう‼︎」
運転席のマスターは今にも飛び出す勢いだ。
「ガーディアンズに連絡します、何かあればバックアップに回ります…
香山様にも支援をお願いします…」
「ガーディアンズは戦闘には参加させるな、まだ3ヶ月しか訓練してない素人の子供達だ…」
鼻毛は困り顔で答えた。
「万が一…負傷者を搬送する為にレスキューを要請しておけ…
私と鼻毛さんで佐藤さんを取り返す。」
マスターは雪乃へ後を託す。
「雪乃さん、成り行きとは言え…巻き込んでしまった…
思ったより早くなってしまったが…
やはりケリをつけるよ‼︎」
マスターは親指を立てる。
「ダーリン…ワタシモ…」
「サラ…」
マスターはサラの目を見つめて静かに頷く。
「ミユキ、ヨロシク…」
雪乃の手を握るサラ。
サラは一言だけだが…
愛娘を託すと言うような瞳の力を感じとってしまった。
「シュガーが拷問を受けている…
敵は、誠次…ソエジマという男とマッケンジーこと前嶋は元フィナーレのナイフ使いだ‼︎」
鼻毛はヘッドホンから聞こえる情報と自分が知り得た情報を交えて、皆に説明した。
そして前嶋は仕方なく、誠次に従っていることがわかるとも伝えた。
「なるほどな、楽観視は出来ないが前嶋さんは…こちら側に加勢する可能性があるか…」
マスターは額をトントンと指で弾いて思案していた。
「皆で生きて帰ってくるのですよ…」
雪乃は全員の瞳をそれぞれに向いて見つめた。
この状況で、尚…信じている。
雪乃の震えている手をサラは握りしめていた。
雪乃ひとりだけ残すことになる。
待つ身の辛さもわかるからだ…
……………………
………………
…………
……
…
「何を探っていた、ドブネズミが‼︎」
誠次は床に転がっていた金属製のワイヤーの切れっ端を拾って鞭代わりにして…
佐藤の身体に激しく打ちつけた。
服の上からでも激しい痛みが襲う。
打ちつけられた皮膚が裂けていくのがわかる。
悲鳴など上げるものかと佐藤は堪えた。
「…ぐっ、ぐっ…く…」
楽しそうに打ちつけ続ける誠次。
「情報を聞いて下さいよ、失神しますよ…」
前嶋が誠次に制止するように声をかける。
誠次は…水をさされたとばかりにワイヤーを床に放り投げた。
副島が間に入る。
「お前と仲間達が夕張中を駆け巡って…
五百川さんやエターナルの裏事情を探って聞き回っているのは、こちらに筒抜けなんだぞ‼︎
何が目的なんだ、話せ‼︎」
「副島、下がってろ…こっちからベラベラとしゃべんじゃねぇよ‼︎」
床に置いてある一斗缶を蹴り飛ばす誠次。
彼も焦っていた、迷っていた…
自分を愛そうと言った義理の父親…
鼻毛が間もなく、ここへ来るのだろうと…
だからこそ、いつもよりもモヤモヤする。
言葉に出来ない感情の鎖が心を縛り付ける。
余計にイラつく。
愛を知らずに育った、それでも構わないと思っていた。
しかしだ、鼻毛は無条件で無辜な愛で包んでくれた。
「愛って、なんだ、ちくしょうめ‼︎」
拘束されている佐藤を殴る。
「どうした、愛がなんだって⁉︎」
佐藤は訝しむ。
感情が一定では無い、クスリでもやってるのか?と佐藤は考えた。
……………
………
誠次は悩みを吹き飛ばす為に何事かを考えてから…
自分の犬歯に舌を擦り付ける…
唾液腺を刺激して、唾液を溜める。
その唾液と共にポケットから出した紫色のカプセルを口へ放り込む。
そのまま飲み込む。
天を仰ぐ誠次。
数分程度、まるで石像になったみたいに微動だにしない。
副島も初めて見るようで呆然と見守っていた。
…と、沈黙を破るように…
誠次は取り憑かれたみたいに前後左右に揺れ出した。
ガタガタと筋肉がランダムに伸縮してような震え…
その震えがおさまる。
深い呼吸をひとつ。
首を左右に動かす、肩こりの人がやりそうな動き。
もうひとつ深い呼吸をして…
「スゲェな、流石スペシャルなエナジーだよ、カナヲちゃんよ‼︎」
誠次は自分の両肩をハグするように抱きしめて、そう呟く。
「さっきの女の…」
佐藤は実験していた女のクスリだと推測する。
何か吹っ切れたような目つきの誠次に頭を掴まれる佐藤。
「この赤色のベレー帽は緑色の反対色だよなぁ…
そういう意味か、おそらく…お前が五百川の言ってた蝿…
佐藤寿雄ちゃんか?
ああ、どうだ、急に頭脳明晰の探偵みたいに冴えてきたぜ‼︎」
平手で左右に打ちつける。
「好きに殴れ、何も話さない…
死んでもな…」
誠次は嬉しそうに微笑み、また平手打ちを繰り返す。
「誠次さん‼︎」
副島が間に入る。
「今、お楽しみだぞ! なんだ⁉︎」
誠次は振り返って怒号をあげる。
「鼻毛の親分とフィナーレのマスターとサラがここに来ます…
部下達は次々にやられてます…」
誠次は拍手喝采する。
「パーティーの参加客が増えたな、賑やかにいこうぜ‼︎」
ギョロギョロと眼球が動く…
どこに視線を合わせているのかわからない。
……………………
………………
…………
………
……
…
その15分前…
雪乃は各員に配布したブレスレット型の端末の操作をレクチャーしていた。
「クリップ式のイヤホンはイヤリングみたいに着けて下さい…
ブレスレットの液晶画面には発信機から現在地が番号で知らせます…」
「まるいち、まるに…みたいなやつかな?」
鼻毛が尋ねた。
「そうです、それから画面の左右にある赤と青のボタンは…
赤が通話、トランシーバーみたいなものなので離れ過ぎると通話出来なくなります。」
「んで、青は?」
マスターも尋ねた。
「カモフラージュがわりに時刻表示に変わります。」
マスターは頷く。
「1が私、2がシュガー、3がサラ、4がマスター…で5がスノーか…」
鼻毛が確認した。
「ピコピコ…デス?」
「そうだ、そのピコピコの光の2を目指せ!」
マスターはサラの肩を抱いた。
サラはマスターの頬にキスした。
「深追いはするな、マスターとサラはシュガーを目指せ、私は座敷牢とやらを目指す…」
鼻毛は握り拳をマスターとサラ、雪乃と乾杯するみたいに合わせて…
「作戦開始だ‼︎」
裏口近くまで移動した車から飛び出す各員。
雪乃は祈った…
どうか無事でありますようにと…
そして脳裏を誠一郎がよぎる。
「負けられないの…怖いなどと言って見過ごしていられないのだから…」
様々な感情がない混ぜになり…
唇を噛み締めた。
赤のリップが前歯についていた。
もう間もなくガーディアンズも香山のレスキュー隊も到着する。
分厚い雲が太陽を隠し始めた。




