#38
「#38」
16年前のエターナル関連施設のマスコミ各社の取材の後…
佐藤は様々な施設でマスコミに紛れて、潜入調査をしていた。
当たり障りのない施設に見える…
そう見えるように作られている…が正しい。
佐藤は焦燥感に駆られていた。
あと一歩、踏み込めないかと…
そうして、マスコミには非公開の部分だらけのゴミ処理施設…
そこに佐藤は人目を盗むように潜入することにした。
「丸井君か、彼は正攻法でガッチリとした足で稼ぐタイプのジャーナリストだな…
俺の情報を託すなら彼かな。」
独り言をポツリ…
裏口の守衛の警備員は幸いなことに居眠りしていた。
居眠りどころか熟睡してる。
そして監視カメラも無いようだ。
迷う時間はない、もし見つかったらマスコミの取材を知らせる腕章を見せて…
間違えてしまいましたで退散だ…
なんて佐藤は思っていた。
「逃がしてくれるかな…」
そそくさと忍び込む。
物音を立てないように、位置関係がわからない建物の内部を調べて回る。
いつどこから誰が出てくるか、そんな1秒1秒が緊張感の途切れる時間の無い薄氷を踏む思いだ。
「あの子達が必死になって調べた…
創薬の実験室、おもちゃ工場という名の兵器工場、あの動画の撮影場所と出演させる被害者の座敷牢…
どれかひとつでもシッポをつかんどきたい…」
360度を視界に収め、周囲の音に耳をそばだてる。
反対側の階段の上から大きな声で話す声が聞こえてくる。
甲高い声の男だ…
「聞いたか、フィナーレのマスターとサラ、それに鼻毛の旦那がドンパチやるだとよぉ…
やべーよ、あの人、人間じゃねーよな…まじでよぉー。」
ガラガラ声の男が反応する。
「そんなんに巻き込まれてみろや、命がいくつあっても足りやしねぇって…
鼻毛の旦那や部下の人達は優しかったな、面倒見が良いってかな…
そうそう、フィナーレのメンバーも優しかったぞ…
それからさ…」
ドスの聞いた低い声の男が割り込む。
「おい、交代の時間だ、ちゃんとやれ…
誠次さんに見つかったら殺されるぞ、いいのか?
向こうの座敷牢の人質の見張りにも休憩をやれ。」
呆れるような声だ。
甲高い声の男が間抜けな質問をしてくれたおかげで助かった。
「誰か、新しく捕まえたのか?」
「はぁ、知ってどうなる、鼻毛の部下の細川って奴と前嶋の彼女の若菜って女だ…」
低い声の男は溜め息を吐く。
「細川さん、なんで捕まえたんだ…
フィナーレのマッケンジーの彼女も捕まえたの、なんで?」
ガラガラ声の男もバカだった。
俺としては大変助かる。
「誠次さんがな、守るモンがある奴は弱い、クソだって…うるせぇのよ…
もういいだろう、さっさと行けよ‼︎」
低い声の男は溜め息をもうひとつついた。
男達の声は、さらに上の階へ遠ざかっていく。
「上か…
そこに座敷牢ね、了解っと。」
佐藤は上の階を目指して移動する。
人気の無い通路で…雪乃への伝言メモの通話をする佐藤。
「シュガーよりスノーへ、あの動画の被害者を捕らえている座敷牢の情報を手に入れた…今はノーズの部下の細川って人とマッケンジーの彼女がいるらしい…
…以上、伝言メモ終了だ。」
通話を切る。
「ここじゃない…」
「ここでもない…」
迷路みたいな作りの通路が…
佐藤の潜入調査を拒むように思えてきた。
その時、通路の窓からゴミ収集車の回収する場所と思われるシャッターが開いた。
到着した収集車からは…
先日、死刑執行されたとニュースされた死刑囚が次々に降りてきた。
「あれは…死刑執行されたんじゃないのか?」
死刑囚達を胸にしまったボールペン型の高性能なカメラで次から次と撮り続ける。
つい集中力が散漫になりかける。
誰かの声がする、身を潜める。
それは楽しそうな笑い声…女性の声だと佐藤は気付く。
「ひとつ下の階か?」
階段を静かに駆け下りる。
通路を恐る恐る覗く。
扉が半分くらい開いた部屋から、女の笑い声がする。
「スペシャルなエナジー毒ドリンクの完成だー、あはは…毒、最高ー‼︎」
「毒、そんなモンにも手をつけてたのか⁉︎」
動揺した佐藤は階段においてあった消火器にぶつかって物音を立ててしまう。
扉から飛び出す女…
「だ、誰、誰かいるの…」
「ヤベ…」
佐藤は上の階へ駆け上る。
どうやら見つかってはいないようだ…
女は電話する。
「ねぇねぇ、セイジ君さ、ネズミちゃんがウロチョロしてるっぽいの、ボクの毒で殺しちゃおうか?」
「実験室の近くでネズミがいたのか?
わかった、オレのパーティの参加者なんだ…
手出しすんな、さっき死刑囚がついたモルモットだ、待望のな…」
「ウホホイ、最高じゃん…
サンキューね、セイジ君‼︎」
ガチャりと通話が切れる。
「ありがとよ、金魚…
早くイイモン作ってくれよ…」
誠次はニヤリと笑う。
「し、侵入者ですか?」
副島は侵入されたことについて激昂されると思い、立ちすくむ。
「副島、守衛は何やってんだ…
とりあえず、今はソイツを捕まえろ‼︎
金魚の実験室の辺りらしい、回収クレーンのある辺りまで追い込め‼︎
急げ‼︎‼︎‼︎」
「は、は、は、はい…」
ぎこちなく駆け出す副島。
…………………
…………
………
佐藤は…
とりあえず逃げることのみに集中し、気付けば…
辺りは…
違う建物へ内部から移動してきたらしい。
中央に吹き抜け、下はゴミ処理の焼却炉や分別されたゴミの山、幾つかのクレーンがトラス構造の柱と一体化していた。
グレーチングの床、エキスパンドメタルや有孔鋼板にパンチングメタルなどを組み合わせたむき出しの工場と言わんばかりの光景。
キャットウォークやタラップ…
メッシュのカバーで覆われただけの柱などが視界に飛び込む。
流石に物音を立てないで歩くわけにはいかない。
佐藤は…ガシャガシャと足音を立てて駆ける。
「アミアミの床って、怖ぇーよ…
下、何メートルあんのよ…
落ちたら死ぬかもな、マジで…」
なんとか外へ出ないと、もうヤバい。
引き際を悟って逃げる佐藤。
その足音に引き寄せられるように…
「おーい、オレはむさ苦しいオッサンのケツを追い回す趣味は無いんだ‼︎
さっさと死んでくれないか、ネズミちゃんよ‼︎」
アミアミな床や柱からは、ほとんど丸見えだ…
盾に出来るものも無い。
誠次が残弾などお構い無しに何発もピストルを撃ちまくる。
「よっと、死んでくれで…
はい、そうですかって死ぬバカが…
どこにいるんだよ‼︎」
階下からの発砲を翻って逃げる佐藤。
「誠次さん、そっちの裏に回ったぞ‼︎」
佐藤の逃げる方向から、もう1人現れた。
もちろん、ピストルを撃ってくる。
甲高い声の男が柱から飛び出す‼︎
「こっちだ、見つけた‼︎」
この男がピストルを構える瞬間を狙って…
佐藤は背後に回り込むと喉仏を潰すくらいに強く締める。
白目をむいて泡を吹いて倒れる男。
「戦場で殺さずかよ、ひでぇ縛りのゲームやらせるよ、うちの姫さんはよ…」
雪乃のむくれた顔が思い浮かぶ。
あんな顔すんだなと思う佐藤。
タラップを駆け上がると足を掴む人間が…
ガラガラ声の男は…
「捕まえた!誠次さん、コッチだ‼︎」
佐藤はタラップを蹴飛ばして、そのまま翻って…
また背後に回り込み、首を絞めあげた。
同じく泡を吹いて倒れる男。
「ひとりで行くな、ソイツもフィナーレくらいのプロだ、間違いない…
はさめ、挟み込め‼︎」
誠次は叫び声を上げる。
銃弾は…佐藤を掠めすらしない。
無駄弾がアミアミから溢れ落ちていく。
何度もリロードする音が聞こえる。
三方向から佐藤を追い込む。
その中のひとり…
低い声の男へ床を転がるようにして懐に飛び込む。
「な、うわぁ‼︎」
そのまま、足払いして…
背後に回り込み、首を絞めあげた。
さらにもう1人が泡吹いて倒れる。
「副島、近づくな!」
「はい、了解です、誠次さん!」
距離を取られて挟み込まれた佐藤。
「まいっちゃうな…」
そう軽口を呟く佐藤。
その刹那………
佐藤の背後に回り込む人影…
天井から安全帯をつけた男が現れた。
「すまない、命令なんだ…」
首元に冷たい刃が当たるのがわかる。
ナイフの達人…
佐藤は思い当たる…
「フィナーレの前嶋さんか?」
男は頷く。
「よくやった、さっさと殺せ!
マッケンジー‼︎」
誠次から、マッケンジーと呼ばれた男は…
「コイツを殺すのは簡単だ!
だが、情報を聞き出すのが先だ…
それからでも遅くない、人質にして仲間をおびき寄せることも出来る。
ボスなら頭を使え、誠次さん‼︎」
前嶋は佐藤をなんとか助けてあげたかった。
それは佐藤も感じ取れた。
「コイツ、座敷牢の人質の…」
佐藤は思い当たる先程の会話。
「確かにな、身体に聞いてやる…」
床に転がっていた作業用の折りたたみ式のイスに、作業用のロープでグルグルと縛り付けられる佐藤。
顔を近づけて挑発する誠次へ…
佐藤は誠次の顔に唾を吐きかける。
誠次も唾を吐き返すと…
「クソ野郎、楽には殺さねえぞ…」
佐藤の下着に仕込んである盗聴機と発信機が鼻毛達に危機を知らせていた。
悪意のダムは決壊してしまうだけなのか…




