#37
「#37」
誠次からの宣戦布告を受けたマスター…
東京の塩浜にあるワンルームの一室で共に暮らしているサラに声をかけた。
「サラ、美優希を連れて逃げるぞ…」
「ニゲル…ドコヘ……⁉︎」
サラは驚いた表情だが、察しはついていた。
ただ、想像することを全身で拒んでいた。
抱きしめていた生後3ヶ月の愛娘も緊張した表情で…
母親を見つめていた。
「あてがある…」
「イマ?
…スグ。」
サラは今にも泣き出しそうな愛娘を優しく撫でていた。
「すぐだ、ここに居たら殺される…」
「セイジ…?」
サラの言葉に頷くマスター。
「ミユキ…ゴメンネ、オデカケ…デス。」
美優希の額にキスするサラ。
大きなリュックに荷物を急いで詰め込んでいくサラ。
「荷物は置いていけ…」
「コレ…ミユキ…ノ…」
マスターの言葉に…ムッとした表情のサラ。
「わかった、それだけだ…」
部屋を出て、階段を駆け下りる。
特殊塗装「LINE-X」でモスグリーンに塗装された防弾ガラスの戦車みたいなセダンタイプの自動車に乗り込む。
「まさか…コイツに美優希を乗せてしまうとはな…
出すぞ…
那須の香山の庭園へ向かう…
稲村雪乃さんと香山博愛さんなら…
きっと…」
走らせた振動が心地良かったのか、美優希はスヤスヤと眠りについてくれた。
「オヤスミ、マイ…エンジェル…」
サラは愛おしそうに美優希を見つめ続ける。
…………
………
……
…一方で、電話を切ると誠次は叫んだ。
「どいつもこいつも変な正義感振りかざしやがって…‼︎
フィナーレの人間が安寧な生活を送りたいだと…クソ喰らえだ‼︎
五百川の戦争の方が、よほど筋が通っていやがる。
恋人と暮らしたい?子供が産まれた?
血の雨を降らせていた人間が平和のお花畑に逃げ込む気かよ‼︎
畜生め、全員に地獄行きのチケットをプレゼントしてやるぜ‼︎
副島ぁー、パーティーの準備だ、さっさとやれ‼︎」
身震いしてから副島は答えた。
「かしこまりました、ただ鼻毛の部下が抜けたばかりで、人員不足で…」
「副島、オレがやれって言ったらやれ⁉︎
…向こうは2人だ、こっちは10倍以上はいるだろう?」
誠次はブチ切れる寸前の苛立つ表情で、副島を睨みつけた。
「とっておき使うか⁉︎」
ニヤリと誠次は嗤う‼︎
………………
…………
………
……
…
その日の深夜のこと…
マスターの運転する自動車は…
栃木県の那須にある広大な私邸。
その中にあるガーデンという通称で呼ばれる孤児院や関連施設がある場所にいた。
そこから少し離れた、とある場所。
そこで、こんな会話が聞こえてきた。
「香山さん、雪乃さん、何から何まで助かりました。
ここまで手厚くしていただきありがとうございます…」
マスターは深々と頭を下げていた。
「子供は…この世界の宝です。
私は、子供達こそが悲しみの連鎖を断ち切るチカラを秘めた偉大なものと考えています。
この子も名前に込められた願いと共に育ちますよ。」
香山の深い皺が一際、深くなる。
神々しいくらいの笑顔で美優希を見つめていた。
温かそうなおくるみに包まれている美優希はニコニコしていた。
「私も…鼻毛さんも明日には夕張に行きます…
他の仲間も先行して夕張にいます。
共に行きますか?」
「益田君、良いのか?
命をかけることになるのだぞ…」
マスターの肩に手を置いて鼻毛は話した。
鼻毛の手は…躊躇しているかのように震えていた。
マスターも自慢の息子だと笑っていた鼻毛を思うと目頭が熱くなってきた。
「せめて…ケリはつけなきゃならない。
そうだよな、鼻毛さん…」
「すまない、不甲斐ない親父なんだよ、私はな…」
マスターの肩からスルリと手が落ちると…
鼻毛の自慢の髭が、みるみる濡れていった…
マスターは鼻毛の大きな肩を抱いた。
「あんたのせいじゃない、あんたは…よくやってたさ…
だから、任せろ!
一緒にケリつけようぜ‼︎」
鼻毛もマスターの肩を抱いた。
「すまない、火中の栗を拾わせる…
バカ息子は…ぶん殴ってやるさ‼︎」
濡れた髭が困っていた。
「ダーリン…」
サラは…共に戦う決意を固めていた。
こちらを嘲けるような不気味な笑顔みたいに下弦の月が輝いていた。




