第八話「老いた鷹が逝く」
秋の初めに、老いた鷹が来なくなった。
最初は、今日だけ来ないのだと思った。
しかし、翌日も来なかった。
その翌日も。
降りてきた鳥は、山の高いところへ飛んだ。
鷹がいつもいた場所へ行った。
枝に、羽が一枚落ちていた。
灰色の羽だった。
大きかった。
鷹の羽だった。
その羽を、降りてきた鳥は見た。
長い間、見た。
それから、巣に戻った。
もう一羽に、羽を見せた。
もう一羽は、羽を見た。
二羽は、しばらく並んでいた。
夜、山が静かだった。
いつも静かだったが、その夜は別の静かさだった。
何かが、なくなった静かさだった。
降りてきた鳥は、夜の空を見た。
星が出ていた。
鷹がよく止まっていた木の、てっぺんを見た。
誰もいなかった。
もう一羽が、降りてきた鳥の傍に来た。
体を寄せた。
二羽は並んで、夜の山を見た。
川の音がした。
どこかで風が鳴った。
星が動いていた。
ゆっくりと、動いていた。
ひな鳥たちは眠っていた。
三羽とも、巣の中で眠っていた。
鷹のことを知らなかった。
知らないまま、眠っていた。
夜が深くなった。
もう一羽が先に眠った。
降りてきた鳥は、まだ起きていた。
夜の山を見ていた。
鷹がいつも見ていた方向を、見ていた。
何が見えるか分からなかった。
しかし、見ていた。
夜明け前、山が少しだけ明るくなる頃。
どこかで鷹が鳴いたような気がした。
一声だった。
遠かった。
とても遠かった。
しかし確かに聞こえた気がした。
降りてきた鳥は、その方向を見た。
何もなかった。
空だけがあった。
それでも、聞こえた気がした。
朝になった。
三羽のひな鳥が目を覚ました。
いつものように、食べ物を求めて鳴いた。
降りてきた鳥は、山へ飛んだ。
食べ物を探した。
山はいつもの山だった。
木があり、草があり、虫がいた。
川が流れていた。
空があった。
鷹はいなかった。
しかし、山は続いていた。
(第八話 了)




