第七話「飛び方を教える」
ひな鳥たちは、急いで育った。
最初の一週間で、羽毛が生えた。
二週間で、目が開いた。
三週間で、声が出た。
声は、大きかった。
朝から鳴いた。食べ物をくれ、と鳴いた。
降りてきた鳥は、山を飛び回った。
もう一羽も、交互に食べ物を運んだ。
三羽の口が、いつも開いていた。
ある朝、ひな鳥の一羽が、巣の縁に立った。
翼を動かした。
飛ぼうとした。
降りてきた鳥が、すぐ傍に来た。
ひな鳥の前で、翼を広げた。
こうするのだ、と見せた。
ひな鳥は見た。
また翼を動かした。
飛ばなかった。
しかし、動かした。
もう一羽は、地面で虫を探した。
わざと、ひな鳥たちに見えるように。
ここに食べ物がある、ということを見せた。
ひな鳥たちは、巣の縁から地面を見た。
遠かった。
しかし、見た。
飛んだのは、二番目のひな鳥だった。
ある午後、巣の縁から飛び出した。
落ちた。
地面に落ちる前に、翼が開いた。
ふわりと、落ちた。
地面の近くで、また翼を打った。
浮いた。
少しだけ、浮いた。
また落ちた。
地面に降りた。
降りてきた鳥が、すぐに地面に降りた。
ひな鳥の傍に来た。
怪我をしていないか確かめた。
していなかった。
ひな鳥は、地面に立っていた。
翼を広げて、また飛ぼうとしていた。
一羽目が飛んだのは、その翌日だった。
三羽目が飛んだのは、また翌日だった。
三羽とも、最初は落ちた。
三羽とも、また飛んだ。
老いた鷹が、低く飛んだ。
ひな鳥たちの上を、ゆっくりと旋回した。
こうやって飛ぶのだ、と見せているようだった。
ひな鳥たちは、鷹を見上げた。
その目が、空を見ていた。
夏の終わりに、三羽は山の上まで飛べるようになった。
最初はよろよろしていた翼が、安定してきた。
降りてきた鳥は、三羽と一緒に飛んだ。
並んで飛んだ。
山を越えた。
その向こうに、別の山があった。
川があった。
広い空があった。
もう一羽は、巣から三羽が飛び立つのを見ていた。
巣の縁に立って。
三羽が戻ってくるまで、そこにいた。
三羽が戻ると、また温めた。
まだ、温めていた。
ある夜、三羽が巣で眠っていた。
降りてきた鳥と、もう一羽が、巣の縁に並んで止まっていた。
三羽の呼吸を聞いていた。
「もうすぐだ」と降りてきた鳥は思った。
正確には思っていない。
しかし体が知っていた。
もうすぐ、この巣が空になる。
(第七話 了)




