第六話「殻が割れた」
音がした。
小さな音だった。
巣の中から来た。
卵から来た。
もう一羽が、体を少し上げた。
卵を見た。
一つの卵に、細い筋が入っていた。
ひびだった。
降りてきた鳥も、巣に入った。
二羽で、その卵を見た。
ひびが、少しずつ広がっていった。
音がした。
小さな、しかし確かな音がした。
殻が割れた。
内側から、小さなくちばしが出てきた。
赤かった。
小さかった。
力強かった。
長い時間をかけて、殻が開いた。
小さな体が出てきた。
濡れていた。羽毛がなかった。目がまだ開いていなかった。
震えていた。
もう一羽が、そのひな鳥を温めた。
体の下に入れた。
降りてきた鳥は、外に出た。
食べ物を探した。
急いで戻った。
二つ目の卵が割れたのは、半日後だった。
三つ目は、翌朝だった。
三羽のひな鳥が、巣の中にいた。
三羽とも、小さかった。
三羽とも、震えていた。
三羽とも、生きていた。
もう一羽が、三羽を温めていた。
その顔を、降りてきた鳥は見た。
鳥に表情はない。
しかし、その顔に何かがあった。
静かで、温かい何かが。
泣いているのかもしれなかった。
鳥は泣かない。
しかし、泣いているような何かが、あった。
降りてきた鳥は、食べ物を探しに飛んだ。
山を、また飛んだ。
今日から飛び方が変わった気がした。
急いでいた。
急ぐ理由があった。
帰る場所があった。
老いた鷹が、高い木から見ていた。
遠かった。
しかし、その目が、巣の方を向いていた。
ずっと、向いていた。
夜になった。
三羽のひな鳥が、もう一羽の体の下で眠っていた。
降りてきた鳥は、巣の縁に止まっていた。
月が出た。
山が静かだった。
川の音がした。
三羽の呼吸の音がした。
小さな、確かな呼吸の音が。
(第六話 了)




