第五話「危険が来た」
蛇は、下から来た。
幹を伝って、静かに上がってきた。
音がしなかった。
気配だけがあった。
もう一羽が最初に気づいた。
体が、固くなった。
羽が、立った。
卵を温めながら、下を見た。
幹の途中に、蛇がいた。
灰色の体が、幹に巻きついていた。
頭が、上を向いていた。
目が、巣の方を見ていた。
もう一羽は声を出した。
鋭い声だった。
いつも出す声とは違う声だった。
降りてきた鳥が、遠くの木から飛んできた。
巣を離れていた。食べ物を探していた。
しかし声を聞いた。
体が動いた。
考える前に、飛んでいた。
杉の木に戻った時、蛇は幹の半分まで上がっていた。
降りてきた鳥は、蛇に向かって飛んだ。
翼で打った。
くちばしで突いた。
蛇は動いた。しかし止まらなかった。
また打った。また突いた。
蛇はゆっくりと、また上がってきた。
その時、影が来た。
大きな影が、上から落ちてきた。
老いた鷹だった。
鷹は蛇の頭を掴んだ。
大きな爪で。
蛇が体をくねらせた。
鷹は、蛇を掴んだまま、飛び上がった。
そのまま、遠くへ飛んでいった。
静かになった。
降りてきた鳥は、幹の近くに止まっていた。
羽が乱れていた。
巣に戻った。
もう一羽が、卵の上にいた。
卵は、無事だった。
三つとも、そこにあった。
二羽は並んだ。
何も言わなかった。
言葉がないから。
しかし、並んで、卵を見た。
卵は動かなかった。
ただ、そこにあった。
温かかった。
夕方、老いた鷹が戻ってきた。
高い枝に止まった。
二羽は鷹を見た。
鷹は、二羽を見なかった。
遠くを見ていた。
しかし、近くにいた。
それでよかった。
夜になった。
降りてきた鳥は、巣の縁に止まった。
もう一羽が卵を温めていた。
月が出た。
山が、青白く照らされた。
卵が、月の光の中にあった。
降りてきた鳥は、その夜、巣の縁から離れなかった。
朝まで、そこにいた。
(第五話 了)




