第四話「卵が来た朝」
ある朝、卵があった。
一つだった。
もう一羽が産んだ。夜のうちに産んでいた。
小さかった。色は薄い茶色で、小さな斑点があった。
二羽は並んで、その卵を見た。
卵は動かなかった。ただ、そこにあった。
次の朝、また一つ増えていた。
その次の朝も、また一つ。
三つになった。
三つの卵が、巣の中に並んでいた。
もう一羽が、卵を温め始めた。
体の下に卵を入れて、じっとしていた。
温める、という行為を、誰かに教わったわけではなかった。しかし体が知っていた。こうしなければならない、ということを。
降りてきた鳥は、食べ物を探しに行った。
山を飛び回った。
虫を見つけた。木の実を見つけた。くわえて戻ってきた。
もう一羽の傍に置いた。
もう一羽は卵から離れずに、食べた。
長い時間が始まった。
毎日、同じことをした。
もう一羽が温める。降りてきた鳥が食べ物を運ぶ。
そういう日が続いた。
雨の日も続いた。晴れの日も続いた。
風の強い日も、霧の深い日も、続いた。
降りてきた鳥は、食べ物を探しながら、山を飛んだ。
飛びながら、巣のある杉の木のことを考えた。
考えた、というのは正確ではないかもしれない。しかし体がそこへ向いていた。どこを飛んでいても、体が巣の方向を知っていた。
戻ると、もう一羽がいた。
卵の上で、じっとしていた。
目が合った。
それだけだった。
それだけで、十分だった。
老いた鷹が、時々見に来た。
巣のある木の近くを旋回して、戻っていった。
何も言わなかった。
ただ、見ていた。
あるいは守っていたのかもしれなかった。
二羽には分からなかった。しかし、鷹が来ると、少し安心した。
体が安心した。
ある夜、降りてきた鳥は、卵の傍に座った。
もう一羽が少し体を動かして、場所を空けてくれた。
二羽で、卵を囲んだ。
体の温かさで、卵を囲んだ。
夜の山が、静かだった。
川の音がした。
どこかで風が鳴った。
三つの卵が、二羽の体の下で、温かかった。
(第四話 了)




