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左遷先に優秀な女騎士がついてきたのだが  作者: アレセイア
序章

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第4話

 王より征西将軍の官職を授かってから慌ただしい日々が続いた。

 赴任の準備を含めた職務ももちろんながら、父と親睦があった将校の挨拶を受けたり、将軍の就任を祝う式典に参加したりと、ライルは多忙を極めた。

 正直、式典や宴などは興味がなかったが、断ると角が立つ人物もいる。

 それに父の知り合いは親身になって相談に乗ってくれた。父の親友だったという一人の将軍は部下を派遣することすら申し出てくれたが、丁重にお断りした。

 すでに大将軍が充分な兵を集めてくれていたのだ。


 そして――その日、ついに新しい部下たちとの顔合わせの日がやってきた。


 王都西門の外に設けられた訓練場。

 そこには兵たちがずらりと並んでいる。新しい軍服を身に纏い、整然と立つ彼らは整然と隊列を組んでいた。その中には見知った顔が少なからずいる。そこへライルは歩いていくと、すでに初老の軍人が待っていた。

 ジェイル・モスカート大将軍――この国の軍権を掌握する軍人だ。


「大将軍閣下」


 ライルが踵を揃え、敬礼すると、大将軍は鷹揚に頷いて視線を兵たちに向けた。


「兵が集まったぞ。ライルくん。君は懸念していたようだが、志願兵が続出してね。逆に絞り込む方が苦労したよ。中には私に直談判し、加わりたいという気骨のある者もいたほどだ」

「そうだったのですね」


 兵たちの顔を見れば、どこか見覚えのある者たちばかりだった。若い者たちはもちろん、父に仕えていた者も恐らくいる。ライルは目を細めると、大将軍は視線をライルに戻して言葉を続ける。


「おかげで頭の固い連中を説得できた。ここにいる約五百は君の配下として働いてくれることになった――ただ、予算だけは渋られてしまったがね」

「相変わらずですね。財務卿は」

「仕方あるまい。連中は剣や鎧よりも、ワインや豪華な服の方が大事らしい」


 辛辣な物言いに思わず苦笑してから、ライルは敬礼して告げる。


「大将軍、感謝を申し上げます――三日後、西に発ちます」

「うむ、先触れなどは出しておいた。問題なく移動できるだろう。明日、鑑札を渡す故、改めて出頭するように」


 それと、と大将軍は言葉を続けながら目を細める。まるで孫に向けるような柔らかい眼差しに少しだけライルは戸惑った。


「――困ったら我々を頼ってくれ。ウルスにも借りがあるのでな」

「……大将軍」


 ふと思い出す。先日、挨拶に来た将校が口にしていた。

 父は大将軍と友人であり、命を助けたこともある――と。父が話したことがなかったことではあったが。


「ありがとうございます。閣下。それともしよろしければ今度、父の話を伺えれば」

「うむ、必ず。その日を楽しみにしよう」


 そう告げた大将軍は肩を軽く叩いてからその場を立ち去る。敬礼してそれを見送ると、ライルは兵たちの方を振り返った。

 兵たちは整然と並んでおり、ライルが近づくのを待っている。

 ライルはそこに近づいていくと――ふとその先頭に見知った顔がいるのに気づいた。目が合うと、彼女は片目を閉じて笑ってみせる。

 ライルは思わず足を止めかけたが、すぐに表情を引き締めた。


「整列を崩すな。ここは訓練場だぞ」


 低く告げると、兵たちの背筋がさらに伸びる。先頭に立つ彼女は、いたずらが見つかった子どものように小さく肩をすくめ、それでも凛とした声で号令をかけた。


「征西軍、総員四八七名。将軍閣下の指揮下に入ります!」


 声は以前よりもよく通り、迷いがなかった。

 ライルは頷きながら列の前を歩いた。兵の一人一人を見れば、すぐに顔見知りと分かる者たちばかりだった。目が合うと笑ったり、肩を竦めたりする。

 それに頷き返しながら、ライルは彼女――アリシアの前に立った。


「――アリシア、近衛はどうした?」

「異動願を出したところ、受理していただけました」

「まぁ、ここにいる、ということはそうなんだろうが」

「少し一悶着ありましたけど――でも、ここに来たのは私の意思です」


 彼女ははっきり告げると、長い金髪をなびかせながら晴れやかな笑みを見せた。


「アリシア・ローズライト、これよりライル・ベルガルト将軍の指揮下に加わります」

「ああ――頼もしいよ。本当に」


 軽く頷くと、全員に軽く手を振ってみせた。


「崩して構わない。楽にしろ」


 その言葉で全員が肩の力を抜く。その面々を見渡し、ライルは苦笑をこぼした。


「みんなもよく志願したな。赴任先は西方だぞ」

「はは、でも隊長が行くんでしょう?」

「貴方に恩もありますし」

「ウルス殿から頼むって言われちまったからな」


 兵たちが口々に言い、笑い声を響かせる。気負いもなく、当然のように志願してくれる仲間たち――それに胸が熱くなってくる。

 アリシアも無邪気に笑う。まるで学生のときに遊んだときのように。


「皆さんも自身の意思で来られていますよ――ライル先輩の人徳ですね」

「そう言われると面映ゆいが……みんな、ありがとう」


 頭を下げると、兵士たちは笑いながら何でもなさそうにしている。そのうちの一人が軽く咳払いをし、ライルに告げる。


「隊長、早速ですが号令を出していただけると。このままだと話が進みませんし」

「ああ、それもそうだな。といっても皆、辞令にある通りだ。三日後にここを出立し、西方に向かう。それまでに各自装備の最終確認を行うように」

「了解!」


 ライルの指示に声を合わせて応じる兵士たち。それに一つ頷いてライルは手を振った。


「よし、では解散!」


 その合図に応じ、三々五々に兵たちが散っていく。

 去る前に声を掛けてくる兵たちにライルは挨拶を返しながら見送り――さて、と視線を正面に戻す。そこにはアリシアが残り、兵がいなくなるのを待っていた。

 静けさが満ちた訓練場――そこで束の間、二人は視線を交わし合う。アリシアはくすりと笑いながら、少しだけ首を傾げた。


「もう少し驚いてくれると思ったんですけどね」

「充分、驚いたさ。まさか、こうして俺の軍に加わってくれるとはな」


 ライルの言葉にアリシアは一瞬だけ目を伏せ、それから真っ直ぐに彼を見つめ返した。その瞳からは揺るぎない決意が滲んでいる。


「約束以上に、貴方のお力になりたいと思いましたから」

「いいのか? 茨の道だぞ。実家から何と言われるか」

「百も承知です。無論、近衛に残れば出世も見えたでしょうが」


 見つめてくるアリシアはほんの少しだけ頬を染め、言葉を続ける。


「そこに貴方はいませんから。私としてはライル先輩を支えていきたいのです」


 その言葉からは他の兵士たちとは違った、熱を帯びた意思を感じさせる。ライルは少し目を見開くと、アリシアは少し不安そうに瞳を揺らした。


「――少し、重すぎますかね?」

「……いや、その決意は上等だ」


 アリシアの性格は知っている。

 一度決断したことは曲げず、粘り強く物事に取り組む姿勢を見せる。名門貴族らしかぬ、泥臭い努力ができる点が魅力的なのだ。そして、どんな苦境でも諦めない根性もある。そんな部分に学生時代は助けられたこともある。

 だから、自然とライルは口から言葉がついて出てきた。


「頼もしいよ――正直に言うと、ついてきてくれて嬉しい」


 その言葉にアリシアは大きく目を見開いた。その表情にライルは気恥ずかしくなって視線を逸らした。


「――すまん、女々しいことを言った。忘れてくれ」

「……いえ、忘れません。そのお言葉だけで私の決断が報われるようです」

「大袈裟だな。アリシア」

「いいえ、そのようなことは」


 アリシアはふるふると首を振ると、微かに頬を染めながら胸に手を当てて告げる。


「誓います。必ずやライル先輩のお力になることを。ですから、ぜひお傍に置いてください。どんな戦場でも、どんな状況でも」


 気のせいだろうか――その言葉を告げる彼女の瞳はどこか湿気を帯びた熱を漂わせており、どこか危うげな雰囲気を漂わせている。

 いつもの彼女の微笑みのはずなのに、どこか妖しい。

 それに思わず呑まれそうになり、慌ててライルは咳払いを一つした。


「それはアリシアの実力次第だな。不充分ならば、叩き直すことになる」

「それも、望むところです。どんな厳しい訓練でも――個人鍛錬も大歓迎ですよ?」


 冗談めかした口調で告げるアリシアは、いつの間にか昔のような無邪気な笑顔を見せていた。それに何故か安堵してしまいつつ、ライルは肩を竦めた。


「ま、時間があればな――それよりアリシア、この後の時間は?」

「特にありません」

「なら、飯に付き合え。久々に奢ってやる」

「わっ、やったっ、先輩っ、お肉を食べに行きましょう!」


 笑顔を弾けさせ、子犬のようについてくるアリシア。それにライルは目を細めながら歩き出す――彼女が共にいてくれれば、西方の赴任も悪くない気がしてきた。。

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