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左遷先に優秀な女騎士がついてきたのだが  作者: アレセイア
終章

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第29話

 反乱の鎮圧から三日後の夜。

 城砦内では久々に活気が戻っていた。訓練場に机が並べられ、そこには料理がふんだんに並べられている。そこに集う兵士たちは料理と酒に舌鼓を打ちながら騒いでいる。

 戦勝の宴だ。その一角でライルは一人の男と酒を酌み交わしていた。


「改めてお疲れ様だ。ライル殿――まさかあそこまで見事に打ち破るとはな」

「ありがとう。ハサム殿。軍としては当然の働きをしたまでだが」

「頼もしいな、本当に」


 戦勝祝いに来たハサムは笑いながら美味そうに酒を口に運び、吐息をこぼした。それからここで宴を繰り広げている兵たちを見る。

 彼らはカルガン族が提供してくれた肉や酒で大いに盛り上がっている。

 その給仕に加わるのはリーシェ。兵士たちを上手くあしらいながら、近くの焚火で肉を手際よく焼いては兵たちに振る舞っている。彼女の周りは明るさが絶えない。

 その様子に目を細めながら、ハサムは言葉を続けた。


「誰一人欠けることなく、我々と戦えるとは――王国軍の精強さを思い知ったよ」

「正直、今回は北部軍の協力があったおかげだけどな」

「ああ、ライル殿の古巣の――彼らはもう帰ったのか?」

「翌日にはな」


 セドリックは馬の引き渡しを終えると、速やかに軍をまとめて去っていた。休んだのもたった一日――それも軽く仕事をしながらだ。

 彼らからしてみれば、今回の戦いはいつもの訓練程度でしかなかったのだ。

 それを聞いたハサムは少しだけ残念そうに眉尻を下げた。


「それは残念だ。ぜひ話してみたかったのだが」

「機会があれば、会えるさ。きっと」


 そう言いながらライルはハサムの盃に酒を注ぎ足し、ふと思い出して口にする。


「そうだ、族長殿に感謝を伝えてくれ。反乱に加わることを思い止まるように各氏族を説得して回ってくれたんだってな」

「はは、当然の仕事をしたまでだ。戦いに手を貸せない以上、友人のためにはこうして貢献するしかない。それに礼を言うなら俺たちの方だろう」

「そうなのか?」

「ああ、降伏した戦士たちを無事に返してくれただろう」

「――まぁ、ここにいられても困るだけだからな」


 ライルは事も無げに告げながら酒を口に運んだ。

 反乱に加わった戦士たちは武装解除させた後に、カルガン族に引き取らせた。捕虜として扱うこともできたが、数は二千人近くいたため、それに充分な食事を与えることも難しい。だから、カルガン族に全部丸投げしたのだ。


「彼らは氏族の場所に帰したのか?」

「ああ、反乱に与した氏族たちには王国軍の寛大な処置でお咎めなし、となったと伝えている――だが、本当にそれで良かったのか? 賠償として家畜や馬を供出させることも難しくなかったが」

「それをすればまた恨みが増えるだけだ。俺たちに犠牲がなかった以上、ここは白紙で手打ちするのがいいだろう。無論、自治権を奪うようなこともしない」


 ライルの言葉にハサムは大きく目を見開き、やがて感心したように吐息をこぼしてライルの肩を叩いた。


「――本当にライル殿は大した男だ。友として誇りに思う」

「はは、ありがとう。ハサム殿」


 ライルとハサムが盃をぶつけ合わせて笑みを交わし合う。そのまま、二人は酒を口に運んでいると、不意に焚火の方で歓声が上がった。

 視線を向け、思わず顔を顰めた。ほう、とハサムは面白がるように目を細める。


「あいつらは一体、何をやっているんだ……?」


 思わずぼやくライルの視線の先では、アリシアとリーシェが睨み合っていた。その間では一人の兵士が酒を注いだ盃を二人分用意している。

 それを二人は手に取ると、勢いよく酒を煽って一気に飲み干す。

 その豪快な飲みっぷりに周りの兵士たちは歓声を上げた。


「すげぇな、アリシア殿――こんなに酒が強いのか」

「それを言うならリーシェちゃんだ。あんな小さいのに酒豪だな」

「おい、賭けようぜ。どっちが勝つか――」


 どうやら飲み比べの勝負をしているらしい。ライルとハサムは顔を見合わせると、腰を上げてそちらの方に歩いていく。

 その間にももう一杯飲み干した二人は睨み合っている。リーシェは乱暴に口元を拭うと、不敵に笑いながら告げる。


「アリシアさん、やるね……っ! そこまで飲めるんだ……っ!」

「ライル将軍の副官として退けません……っ!」


 傍らに積み上がっている盃の量は相当な数になる。彼女たちがまた一杯と飲み干すのを見ながら、面白そうに見守る兵に声を掛ける。


「一体どうしてこういう経緯になったんだ?」

「あ、ライル将軍、いいところに。実は――」


 兵士たちが振り返り、にやにやと笑いながら話してくれる。

 どうやら最初は古参の兵が何気なく口にした話題――ライルが今まで付き合った女性が一人もいないことについてだった。それを聞いたリーシェがふと口にしたのである。


『だったら、私がライルさんの初めての女になれるかもしれないのかー』


 その言葉に瞬間的に反応したのは、通りかかったアリシアだった。彼女も女兵士たちと共に酒を程々に口にしていたが、それに劇的な反応を示していた。


『聞き捨てなりませんね。まだライル将軍に取り入ろうとしているのですか』

『ライルさんと誰がどう付き合うかは、アリシアさんに関係ないでしょう?』

『……っ、関係大ありです! 私は公私ともに頼られている副官ですよ……!』

『そうかもしれないけど、私はまだあきらめていないからね……!』


 その言い合いがヒートアップしたところで、兵士の一人が間に入って提案した。


『折角の宴だから、酒の勝負でケリをつければいいじゃないか』


「――で、こういう形になっています」

「……何をやっているんだか」


 ため息をこぼす。宴の席とはいえ、そんな勝負に乗るとは。


(アリシアは俺が絡むと、過剰反応するようになったな――)


 少し面映ゆく感じるものの、酒の飲み過ぎは身体に障る。今もアリシアとリーシェは囃し立てる兵士たちの掛け声に合わせて酒を干していた。


「……っくぅ、まだまだですよ……!」

「あははっ、楽しくなってきたね……っ!」


 アリシアの目が据わっていき、リーシェは弾けんばかりの笑みを見せる。ふむ、とハサムは目を細めながら、ちら、とライルの方を見る。


「俺としてはライル殿に妹を貰ってくれるのが一番ありがたいな。何せ、カルガン族随一のじゃじゃ馬だからな」


 その言葉に思わず苦笑しながら視線をアリシアに向け、軽く肩を竦めた。


「遠慮しておく。手のかかるのは、一人で充分だ」

「それもそうだな――なら、そろそろ止めるとするか。リーシェは結構、酒乱だからな。これ以上飲むと手に負えなくなる気がする」

「了解した。それじゃあ」


 ライルとハサムは頷き合うと前に進み出る。ライルはアリシアの方に、ハサムはリーシェの方へと。同時にその手から盃を捥ぎ取ると、彼女たちは抗議の声を上げる。


「兄さま、面白くなってきたのに……っ!」

「先輩、止めないでください……っ! この小娘に今日こそ引導を……」

「そこまでだ。酒が過ぎているぞ。お前たちも」


 アリシアを窘めながら視線を兵士たちに向けると、彼らはばつが悪そうな顔をする。ライルは視線をアリシアに戻し、口調を改めて告げる。


「アリシア、お前は誰の副官だ?」

「……っ、ライル将軍の、です」

「そうだ。故に命ずる。少し酔い醒ましに付き合え」

「はい!」


 アリシアは不機嫌さがどこへやら、ぱっと表情を明るくしてライルの傍に並ぶ。それからリーシェを振り返ると、勝ち誇ったような笑みを見せた。


「勝負は預けておきます。私は副官としての務めがありますので」

「……っ、兄さま、退いて! まだ勝負がついていない……!」

「お、落ち着け。リーシェ……!」

「そうですぞ。アリシア殿を倒したければ、まず我々を飲み潰してみなさい!」

「上等! まとめて潰してあげるんだから!」


 悪乗りした兵士の声と、リーシェの甲高い声が城砦内に響き渡り、一層の盛り上がりを見せる。ライルは苦笑を浮かべながら、アリシアを連れて城塔に足を向けた。

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