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左遷先に優秀な女騎士がついてきたのだが  作者: アレセイア
序章

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第2話

「しかし本当にお久しぶりです、ライル先輩」


 王城の広々とした廊下を歩きながら、アリシアは小さく吐息をこぼしながらはにかんだ。思い出すように視線を泳がせ、軽く指折り数える。


「直接お会いするのは、士官学院を卒業して以来でしょうか――先輩、少し瘦せましたか?」

「ああ、まぁな。いろいろと苦労をしてきた。アリシアは出世が順調みたいだな」


 視線を彼女が身に纏う軍服に向ける。それはライルが身に纏う軍服と違い、どこか高級感が漂う近衛の軍服だ。胸には徽章が誇らしげに輝いている。


「聞いているぞ。近衛軍に入隊して、今は小隊長か」

「半分は家のおかげですけどね。ローズライト家の名は偉大です。出世という意味では、先輩の方が上ではありませんか?」

「一応はな。ただ、この肩書が有名無実なのはよく分かるだろう?」

「ま、そうですよね。左遷先の代名詞ですし」

「はっきり言ってくれるな、おい」


 ライルはアリシアに半眼を向けると、くすりと彼女は笑ってから謝る。


「ごめんなさい。でも一応は将軍位です。将軍位となると、騎士爵扱いになるので一応は貴族ですよ。良かったですね」

「ああ、一代限りだけどな――そしてその代価が辺境の警備だ」

「その割にはあまり悲観してなさそうですね。先輩」

「割り切った。ま、考えてみれば、俺の身の丈には合っているよ。あの戦果だって、本当は親父のものだった」


 思わず吐息をこぼすと、アリシアの笑顔が引っ込み、その表情が曇った。視線を伏せさせると、彼女は小さな声で告げた。


「――ウルス様のこと、お悔やみ申し上げます。確か、伏兵にやられたと?」

「ああ、一応な。それでも仲間を逃がすために一人で奮戦した」

「ウルス様らしいです。ただ、寂しいですね。あの豪快な笑いがもう聞けないのは」

「ありがとう――そう言ってくれるのは、親父も喜ぶと思う」


(……こうしてちゃんと惜しんでくれる人もいるんだよな)


 兵たちもウルスの死を嘆き悲しんでいた。王都に戻ったとき、武官たちからも多くお悔やみの言葉を頂戴した。本当に多くの人から慕われていたのだろう。

 ただ一方で権威に媚びない姿勢は貴族や官僚たちから嫌われていた。

 どの派閥にも属そうとしない父を危険視する者もいたようだ。


(もしかしたら、あの伏兵も――)


「ライル先輩、大丈夫ですか? なんだか怖い顔をしていますよ」

「――何でもない。儀礼の際の文官たちが腹立たしかっただけだ」


 ライルが笑ってごまかすと、ああ、とアリシアは嫌そうな顔をする。


「軍事について何も理解せず、金だけしか見ない連中ですよね。誰がこの国を守っているのか理解していないのでしょうか」

「全くだ。とはいえ、軍も金食い虫なのは事実なのだが」

「……まぁ、それもそうですよねぇ」


 アリシアは不承不承頷きつつ、それにしても、と話題を変える。


「先輩が征西将軍に任ぜられた、ということは、西に赴任するのですよね。連れて行く部隊についてはもう編成は?」

「内定があった時点で、大将軍と相談している。だが、兵数はかなり減るな」

「まさか、千くらい?」

「いや。三百にしろ、との軍務卿のお達しだ」

「さんびゃ――」


 絶句するアリシアの表情が面白くて思わず笑ってしまう。そんなライルにアリシアは頬を膨らませると、抗議するように声を上げる。


「だって、それは無茶ですよ! 西方ってどれくらい広いと思っているんですか!」

「ただまぁ、もうほとんど脅威はいない上に、人が住んでいない」


 王国西方の荒原は確かに広い。ライルが少し前まで戦っていた北部と同じくらいの広さがある。だが、一部の遊牧民族が住むだけなのだ。

 そう考えれば、三百というのは案外妥当かもしれない。


「にしても少ないですよ。広さを考えれば、せめて三千は必要でしょうに」

「大将軍もそう仰られ、何とか数を増やせるようには打診してくれているが」


 憤然と怒ってくれるアリシアの様子にライルは苦笑しながら続ける。


「ま、志願してくれる兵がどれくらいいるか分からない。それ次第だな」

「先輩の下で動けるなら、千でも二千でも兵が集まりそうですが」

「買い被り過ぎだよ。親父なら、ともかくな」


 話すうちに廊下の終わりが見えてきた。近づいてきた外の気配にアリシアは少し残念そうに眉尻を下げた。


「本当ならもう少しお話したかったですが、ここまでのようですね」

「何か用事があるのか?」

「ええ、というか、今も本来は職務中でして」

「おいおい、サボっていてもいいのか?」

「これも立派な職務です。王城の巡回という」


 悪戯っ子のように片目を閉じながらアリシアは微笑んでから、ライルに向き直った。彼女は真剣な眼差しで彼を見つめて告げる。


「先輩――私が言った約束、覚えていますか?」

「……それは俺が卒業したときの、かな?」


 その言葉に彼女はこくんと頷き、言葉を続ける。

 それは卒業式典の日――アリシアはお礼の品として一振りの剣を渡しながら、ライルに真摯な口調で告げたのだ。


『先輩が困ったときは絶対に助けになりますから――必ず、ですよ』

『それはありがたいな。なら、そのときは代わりにアリシアの望みを何でも聞くよ』

『――何でも、ですか?』

『無論、俺にできることに限られるがね』

『なら、約束です。そのときはきっと』


 それを思い出しながら、ライルは軽く目を細めて頷いた。


「助けてくれる、というのなら――ありがとう。気持ちは嬉しい。ただ、そちらも立場があるから、できる範囲で構わないぞ」

「ふふ、分かりました。無論、できる範囲でやらせていただきますので」


 そう言った彼女はおどけた仕草で敬礼して見せる。ライルは笑って敬礼を返すと、彼女は微笑んで軽く手を振った。


「では先輩――ここで失礼します。()()()()()()()

「ああ、近いうちに会えるといいな。じゃあ」


 軽く手を振り返して別れる。外では部下に馬を預けて待たせている。


(ここから軍務省に出頭して、いろいろな書類仕事か――気が滅入るな)


 明るい彼女の笑顔に接したせいか、これから待つ仕事を思うと憂鬱に思える。ライルは頭を振って切り替えると、王城の外に向かって足を踏み出した。

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