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左遷先に優秀な女騎士がついてきたのだが  作者: アレセイア
第三章

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第27話

 猛然と土煙を舞い上げ、突っ込んでくる遊牧民族の戦士たち。

 距離は五里、といったところだろうか。

 それを見据えながらライルは腕を組んでいた。跨る愛馬のシュバルと呼吸を合わせながら精神を集中させる。その隣に馬を進めたアリシアが遠慮がちに言う。


「野戦で挑むのですね。ライル将軍」

「ああ、俺たちはそれしか戦い方を知らなくてな」


 苦笑を一つこぼし、背後の仲間たちを見る。彼らは当然のように頷いた。

 軍議では籠城という意見は一つも出なかった。それもそうだろう――籠城は援軍があってこその戦術だ。結局、アリシアが手配したという物資も届かなかった以上、包囲されたら征西軍が干殺しにされてしまう。

 仮に籠城するとしても、まずは野戦で一撃を加えてからだとライルは考えていた。


「ま、数の差は俺たちの実力で補えばいい」

「そう、ですよね……すみません、私の打った手が間に合っていれば」

「大丈夫だ。相手の数が多いなら、多いなりに戦いようがある」


 劣勢の戦いは今に始まったことではない。ライルは吐息をこぼしながら視線をアリシアに向けた。彼女は自分に言い聞かせるように呟いている。


「――大丈夫、私も訓練してきた。いける、いける……」


 アリシアの表情は硬く、槍を握る手には力が込められている。その様子を見て、ライルは目を細めながら告げる。


「城砦の守備に回ってもいいぞ。今なら、まだ間に合う」


 この中で実戦経験が乏しいのはアリシアだけだ。彼女の実力は疑っていないが、覚悟が決まっていなければ命が危険なだけだ。

 だが、アリシアは真剣な表情で首を振り、ライルを鋭い眼光で見た。


「侮らないでください。私だって将軍についていけるように訓練を重ねました!」

「そうか。なら、傍を離れるなよ。アリシア」


 ライルは短く告げると、視線を正面に向ける。

 敵軍はもう近くまで迫っていた。もうこれ以上、アリシアを気に掛ける余裕はない。他人を気に掛ければ、自身の命も危うい。


「騎馬隊で初撃を叩き込む。パラオッド、歩兵たちの指揮は任せるぞ」

「はっ、お任せを」


 背後の副官の声に頷き、ライルは騎馬隊をゆっくり進めた。距離が二里まで近づいたところで馬の脚を速めようとした瞬間、視界の端に違和感を覚えた。

 北の方角――そちらで土煙が舞い上がっている。

 その源は地を蹴って猛然と駆ける騎馬隊だ。遠くて何者か判別できないが、この戦場に向かって騎馬隊が駆けてきている。

 まさか、増援か。嫌な予感が頭に過ぎった直後、細めた目がそれを捉えた。

 土煙の中でも分かる、掲げられた旗――双鷲が描かれた王国旗。

 そして、それと共にあるのは傍を見て、ライルは思わず目を見開いた。


(――まさか)


 目を疑う。だが、ライルがその旗を見間違うはずがない。

 何故なら、その旗の下で彼はずっと戦い続けてきたのだから。兵士の一人もその旗に気づき、信じられないとばかりに声を震わせる。


「――()()()……!」


 それは紛れもなく、北部軍だった。

 かつてライルの父親であるウルスが率いた、実戦経験が豊富な軍勢。それが土煙を巻き上げて全速力で向かってきているのだ。

 ライルはちら、と背後を見る。誰もがその姿に驚愕する一方で、アリシアだけはそれを冷静に見ている。ライルと目が合うと、彼女は一つ頷いた。


(彼女の仕掛けか――!)


 詳しく聞く時間はない。ただ、それだけ分かれば充分だ。視線を正面に戻し、接近してくる敵を見据えてライルは吼える。


「側面を衝きながら、こちらに注意を惹きつける! 総員、突撃するぞ!」

「了解!」


 ライルの声に背後の兵たちが呼応した。瞬時に狙いを正面から左翼に切り替え、鋒矢の陣形を変化させる――敵を貫く陣形だ。

 狙いが変わったことに気づいたのか、敵軍の動きがわずかに乱れた。だが、勢いだけの軍勢だけにそれに柔軟な対応をすることはできない。

 狼狽えた動きを見せる敵左翼――そこに向かい、ライルは咆吼を響かせた。


「おおおおおおおおおおおおお!」


 瞬間、敵部隊に突っ込み、剣を薙ぎ払った。目の前の敵の首を刎ね飛ばし、返す刃で真正面から敵を斬り捨てた。五、六人を叩き斬っただけで左翼を切り抜けた。

 その後ろをぴったりとアリシアたちが駆け、ライルが突き進む道をさらに押し広げている。二百人足らずの騎馬隊は乱れていない。そのまま、ライルは突き抜けて荒原を駆けながら振り返る。敵は左翼を砕かれた衝撃から立ち直れていない。


 だが、中央の敵は瞬時に反転し、ライルたちの騎馬隊を追い始めた。

 数はおよそ五百。ライルたちは距離を取るように疾駆するが、執拗に追いすがり、徐々に距離を詰めている――さすが遊牧民族の戦士たち、一筋縄ではいかない。


(だが、それでいい)


 ライルの狙いはまさしく、注意を惹きつけることなのだから。

 彼の耳はすでに捉えている。重なった馬蹄が地面を響かせ、戦場に到来した音を。数瞬後、遠く離れた場所から喚声が響き渡った。

 振り返れば、取り残された敵軍が崩れている姿が目に入った。

 援軍に駆けつけた北部軍がその敵を貫き、瞬く間に崩している。予期しない方向からの突撃に敵軍は明らかに浮足立っていた。

 それに気づいたのか、ライルの部隊を追っていた敵部隊は動きが鈍る。


 その瞬間を逃さず、ライルは弧を描くように反転した。

 一瞬で敵部隊と向き合い、真正面から突貫する。それに気づいた敵はライルに向かって全力で駆けてくる。先頭の男は眦を裂き、唸り声を響かせて槍を構える。

 ライルもまた剣を構えながら馬腹を蹴り、全力で駆けていく。


「おおおおおおおおおおおおお!」

「あああああああああああああ!」


 瞬く間に彼我の距離が消し飛ぶ。その交錯の一瞬にライルは剣を振り抜いた。真下からの斬撃が鋭く槍を跳ね上げ、両腕ごと斬り飛ばす。

 その直後、後ろを駆けるアリシアが槍を突き出し、その男の胸を刺し貫いていた。

 ライルは続けざまに剣を振るい、敵を斬り捨てながら駆け抜ける。その敵部隊はもう目もくれず、北部軍が戦っている場まで馬を駆けさせる。


(――とはいえ、援護はもう必要なさそうだが……)


 どうやら、北部軍の一撃は想定以上に反乱軍に衝撃を与えたらしい。もはや敵はまとまりを失くし、戦える状態ではなくなっていた。

 中にはすでに離脱している部隊もある。遠ざかっていく部隊を見て眉を寄せる。

 恐らくは反乱軍が崩れた段階で不利を悟り、犠牲を出す前に退いたのだろうが――。


(妙に引き際がいい。逃げている割には、統率だった動きだな)


 そんな統率の執れた動きができる存在は、遊牧民族であるはずがない――王国軍の騎馬隊と同じ匂いがする。


(だが、その正体を突き止めるのは、後――)


 視線を正面に向ける。好機を逃さず、パラオッドは歩兵を前進させ、北部軍を援護していた。たちまち騎馬隊が敵を包囲し、抵抗する戦士たちを無力化する。

 次第に戦士たちは武器を捨て、馬から降り、降伏の意思表示を始めた。

 ライルは部隊を率いたまま、パラオッドの方に馬を進めて声を掛ける。


「降伏を呼びかけろ。抵抗する者は容赦なく処断で構わない」

「了解しました。北部軍と連携して進めます」

「ん、頼んだ――さて」


 視線を別の方向に向ける。そこでは一人の将校が馬に跨り、ライルの方に悠然と向かってくる。北部軍の意匠が取り入れられた外套をなびかせていた。


「お久しぶりです。若――どうやら、間に合ったようですな」

「ああ、来てくれるとは思わなかったよ。セドリック隊長」


 ライルは苦笑交じりに手を差し伸べて馬を進め、手を差し出した。セドリックはがっしりと握手を交わし、嬉しそうに目を細めて笑う。

 その二人の上では、北部軍の旗が風に大きくはためいていた。

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