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左遷先に優秀な女騎士がついてきたのだが  作者: アレセイア
第三章

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第26話

ムーディ族視点

「見えて来たぞ。あれが忌々しい王国軍の城砦だ」


 ムーディ族の一人が声を上げる。それに頷きながら先頭をゆっくりと進む男、レダイは正面を睨んだ。朝焼けの中、土埃で視界が悪いが、そびえ立つ城砦のシルエットははっきりと分かる。


(とうとう、この時が来たか――)


 身が奮い立つのを感じる。ムーディ族最大の敵と言える王国軍との戦いだ。

 レダイは幼い頃からその敵の存在について祖父から、父から何度も聞かされていた。連中は侵略者であり、住む場所や家畜を奪われてきたという。

 誇り高きムーディ族は何度もそれに抗い、戦い続けた。

 だが、その結果、多くの仲間を喪い続けた――それを忘れてはならない、と。

 来たる時が来れば、お前が先祖たちの恨みを晴らすのだ、と。

 ここにいる仲間たち同じ思いを抱えた同志だ。いずれ来る王国軍への戦いに向けて、血を滲むような鍛錬を繰り返し続けてきた。

 そして、ついに積年の恨みを晴らす瞬間が来たのである。

 前進を続けていたレダイは足を止めると、振り返って声を張り上げた。


「いよいよ王国軍に復讐するときが来た! 皆の者、準備はいいか!」


 それに応じるように多くの遊牧民族の民たちが声を張り上げた。

 集まったのはムーディ族だけではない。同じく王国の支配下にいることに良しとしない者たちが集まっている。少なくない数の氏族が兵を出してくれた。

 その数はおよそ三千三百――王国軍を叩き潰すには充分な数だろう。

 士気も充分であることを確かめ、レダイは背後に視線を向ける。そこには一人だけ遊牧民族の衣装を着ていない、外套姿の男がいる。

 それを一瞥してレダイは低い声で告げる。


「――約定は確かだろうな。ジュライ。王国軍をこの地から打ち払えば、帝国軍は必ず支援してくれるのだろうな」

「ああ、もちろんだとも。レダイ殿」


 そう告げた男の声は帝国訛りを帯びていて不愉快だ。帝国の男――ジュライは尊大な口調で応じ、軽薄な笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「先日、申し上げたが、軍はすでに動き、国境付近に待機している。ムーディ族の方々が王国軍を討ち取れば、帝国軍はすぐさま動き、王国軍の動きを掣肘するであろう。そうなれば、この地は其方たちの物だ」

「――その言葉が偽りではなければいいが」

「偽りなものか。現に帝国軍は三百の軍勢を義勇軍として派兵したではないか」


 そう言いながら自身の背後を示すジュライ。その後ろには民族衣装に身を包みつつも、どこか不気味な静けさを宿した一団がいる。

 その雰囲気は他の氏族とは決定的に違い、近寄りがたい雰囲気を出している。

 それにムーディ族以外の氏族は近寄ろうとしない。それをジュライはどこか自慢げに身ながら、視線をレダイに戻した。


「ここまで帝国軍にさせたのだ。こちらとしては是が非でも王国軍を叩き潰していただかなければ困るな――どうも想定よりも戦士の数が少ないのが懸念点だが?」

「……ふん、臆病風に吹かれた連中など不必要だ」


 レダイは鼻で笑いながら一蹴する。だが、その指摘はレダイも感じていたことだ。


(本来ならば、もっと多くの戦士が集まるはずだったのだが――)


 一部の氏族は動こうとせず、戦火を避けるように移動してしまった。どうやらカルガン族がムーディ族に与しないように説得して回った節がある。


(誇りのない連中め)


 心の中で罵りながらも、まぁいい、とレダイは気を引き締める。

 ここで王国軍を完膚なきまでに打ち破れば、日和見に動いた連中もムーディ族が正しかったと認めるはずだ。そうなればカルガン族もムーディ族に頭を下げ、女や家畜を差し出すことになる。


「いずれにせよ、王国軍は五百も満たない。数の利は我らにある――心配なら戦士たちを退かせて我らの武勇をとくと見ていればよかろう」

「頼もしい言葉だ。とはいえ、我らも義勇軍――適度に援護はさせていただこう」

「ふん、好きにしろ」


 レダイは視線を前方に戻す――話している間にいつの間にか、城砦の姿がくっきりと見える距離まで近づいていた。その城門の前に立つ影にレダイは目を細める。


「――あれは……」

「王国軍、だな」


 城門の前では整然と並ぶ王国軍の姿があった。

 旗を掲げて威風堂々と立つ兵たち――だが、明らかに数は少ない。はっ、とレダイは思わず笑いをこぼし、嘲りを表情に浮かべた。


(やはり、事前の情報通りか……!)


 見る限り、数は五百程度。しかも騎馬隊に至っては二百も満たない。三千の騎兵を有する遊牧民族の戦士たちからすれば、あまりにも貧弱な兵数だ。

 それを見た戦士たちからは徐々に嘲笑うざわめきが広がっていた。


「戦士長! 戦わせてくれ!」

「そうだ! 今こそ連中に思い知らせてやる!」


 背後の戦士たちが声を上げるのを聞き、レダイが不敵に笑っていると、不意にぽつりと傍のジュライが言葉をこぼした。


「何故、野戦に出た? 籠城戦にすれば圧倒的に有利だというのに」

「ふん、俺たちを過小評価したのだろうよ」


 レダイは鼻で笑いながら告げると、戦士たちを振り返って声を張り上げた。


「民族の戦士たちよ、王国軍に膝を屈する日々はもう終わりだ! 今こそその武勇を振るい、我らの強さを王国軍の兵たちに思い知らせるのだ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 レダイの声に応えるように、戦士たちの士気が絶頂を迎えた。

 空が震えるほどの鬨の声が響き渡る。凄まじい戦意を見せる戦士たちの気迫を受け、レダイは剣を引き抜くと前方に突き出した。


「全軍突撃! 一揉みに潰してしまえ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 その声と共に弾かれるように戦士たちが馬を駆け始める。足並みはやや乱れているが、戦士たちは士気が天を衝くほどだ。

 勢いのまま、打ち崩すことができる。それを確信しながら馬の腹を蹴って猛然と駆ける。剣を振りかざしながら、レダイも雄叫びを上げた。


 ――彼らは目の前の敵を狙うあまり、気づかなかった。

 全力で進む遊牧民族の戦士たちの側面から舞い上がる土煙があることを。

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