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左遷先に優秀な女騎士がついてきたのだが  作者: アレセイア
第三章

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第21話

 ライルはリーシェの手から剣を執り上げた。それから無造作にアリシアの方に剣を投げる。彼女は声かけも何もしなかったが、驚きもせずに片手で掴み取りながら半眼を向ける。


「急に剣を投げるのは止めた方がいいですよ。ライル将軍。私ならともかく、他の兵ならびっくりすると思います」

「アリシアだから投げ渡したんだ。分かってくれ」

「――本当にずるい言い方です」


 アリシアは唇を尖らせ、剣を大切そうに抱きしめる。そのライルとアリシアのやり取りを見ていたリーシェはため息をつきながら、やれやれと首を振った。


「やっぱり、アリシアさんには敵わないな。世話役があったとしても、結局、アリシアさんにその座を奪われそうな気がする」

「そ、そんなことないと思います。むしろ、ライル将軍にお世話は必要ないかと」

「あったら、って話。だって、アリシアさん、ライル将軍の癖や習慣は熟知しているのでしょう?」

「それはまぁ、副官ですし」

「寝る時間も起きる時間も分かっていそう」

「当然ですね」

「何なら今、ライルさんが何を考えているか分かっていそう」

「多分、平和だな、くらいしか考えていませんよ」


(――正解)


 丁度、二人のやり取りを眺めながらそう思っていたことだ。傍にいるパラオッドは笑いを噛み殺すように口元を手で抑えている。ライルは思わず半眼をそちらに向けた。


「何がおかしい。パラオッド」

「いえいえ――ところでライル様、つかぬところをお伺いしますが」

「――聞こうか」


 パラオッドは一度咳払いをしてから、空々しい口調で続ける。


「仮に、です。仮に世話役というものを任せるとした場合――どなたにお任せになるおつもりですかな?」


 その言葉にリーシェとアリシアのやり取りがぴたりと止まった。二人の視線が揃って向くのを感じ、ライルは首を振って否定してみせる。


「世話役を置くつもりはない。それは断言するぞ」

「ええ、承知しておりますとも。これはあくまで仮定の話です」

「そんな仮定が聞きたいか?」

「うんっ、聞きたいっ」


 声を弾ませたのはリーシェだ。アリシアも落ち着かない様子で剣の柄を弄りながら、ちらちらとライルの様子を伺ってくる。パラオッドも面白がる視線を向けている――ごまかしようも、逃げようもなさそうだ。

 ライルは観念しながら吐息をこぼし、腕を組んで三人を見た。


「あくまでこれは仮定だ。実際に頼むわけではないからな」

「分かっているから。早く教えてっ」


 期待の眼差しから視線を逸らしながら、ライルは不承不承口を開く。


「――アリシアしか、考えられないだろう」


 瞬間、アリシアは息を呑むと同時に、肩を震わせた。握っていたライルの剣を取り落としそうになり、慌てて抱え直している。

 一方でリーシェとパラオッドはやっぱり、という顔で頷いている。


「迷わなかったね。パラオッドさん」

「言い渋ってはいましたが、即答でしたな。リーシェさん」

「――当たり前だろう。迷う理由もない」


(さっきもアリシア自身が言っていただろうに)


 ため息を一つつき、ライルは半眼を二人に向けた。


「副官として一番近くにいるし、俺の癖も理解している。剣を渡すタイミングも、書類を持ってくる順番も――些細なことに関して全て、だ」


 言ってしまえば、とライルは続けながらはっきりと告げる。


「逆から言えば、アリシア以外に務まるはずがない」


 その言葉にぴたりとアリシアの動きが止まっていた。顔は真っ赤で恥ずかしそうにしながらも、その瞳がじわじわと薄い膜が張っていく。

 そして、どこか感極まったような声で、確認するように言葉を続けた。


「――私以外、務まるはずがない、のですか……?」

「……ああ、副官としての動きを評価した形だがな」

「つまり、私がライル様にとって一番の存在……?」

「…………副官として、だな」


「あ、少し迷った」

「副官以外の意味もありそうですな」


 リーシェとパラオッドの茶々にライルは思わず睨みを入れると、二人は揃って視線を泳がせた。パラオッドは腕を組み、リーシェは口笛を器用に吹く。


(こいつら、後でお仕置きだな……)


 心の中で決めていると、目の前でアリシアが潤んだ瞳で敬礼した。


「ありがとうございます……! そのお言葉に応えられるように、これからさらにライル将軍のお傍で支え続けたいと思います……!」

「あ、ああ――世話は大丈夫だからな」

「はい、承知しております。あくまで副官として、ですね」

「そう、その通りだ」


 アリシアはきちんと理解している。ほっと一息ついていると、彼女はライルの剣を抱きしめ直しながら、消え入りそうな声で囁いた。


「あくまで副官として、ライル先輩のお世話を……ふふっ」

「……大丈夫か? アリシア」


 言葉は聞き取れなかった。だが、その潤んだ瞳は明らかに熱を帯びており、どこか危うい雰囲気を漂わせている気がする。

 念のため、ライルが確認すれば、アリシアは我に返ったように咳払いをする。

 それから背筋を伸ばして敬礼した。


「はいっ、大丈夫ですっ」

「――なら良し。雑談はここまでで職務に戻るぞ」

「はーい……やっぱりアリシアさんには敵わないかなぁ」


 リーシェが手を挙げて応じ、小さくため息をこぼす。それを慰めるようにパラオッドが肩をぽんぽんと叩いていた。一方でアリシアは上機嫌そうに隣に並ぶ。


「アリシア、書類仕事はもう溜まっていないよな」

「はい、なので今日は落ち着いて行動できるかと。何にせよ、どこまでもお供致します。副官ですので……!」

「分かった、分かった。なら、少し遠乗りでも――」


 そう言いかけたところで、ふとライルは目を留めた。城門の方から遊牧民族の衣装を見た男が兵と共に足早に入ってくる。彼はライルに気づくなり手を挙げた。


「やぁ、ライル殿――ご挨拶に来たぞ」

「ハサム殿か。先日、カルガン族の住まいに邪魔して以来だな」

「ああ、リーシェは頑張っているかい?」

「いつも助けられているよ。ただ、冗談が多いのは玉に瑕だが」

「はは、なるほど――頑張っているようだな。いろんな意味で」


 ハサムは一人で何かに納得したように頷くと、軽く目を細めながらライルに歩み寄る。どこか真剣な面持ちになったのを見て、ライルは声を低くする。


「――ひょっとして何かあったのか?」

「鋭いな。その通りだ。少し話せるか?」

「もちろん――こっちに」


 城塔の方へとハサムを案内する。ライルはハサムと並んで歩きながら訊ねる。


「それで、一体何が?」

「うむ、まだ未確定の情報ではあるのだが」


 そこで言葉を切ると、ハサムは声を落として小さく続けた。


「他の氏族で、反乱の兆しがあるのだ」

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