表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
左遷先に優秀な女騎士がついてきたのだが  作者: アレセイア
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/32

第17話

「……ま、こんなものか」


 軽く息を整えながらライルは振り返る。そこには地面に転がる遊牧民族の若者たちがいた。三十人近い男たちが地面で伸びている光景に、誰もが絶句している。

 落ち着いているのは王国軍の兵士だけだ。アリシアをはじめ、当然のように頷いている。彼女はライルに歩み寄ると、手ぬぐいを差し出してくれる。


「どうぞ。汗を拭いてください」

「ああ、ありがとう」

「手応えはどうでしたか?」

「全然だな。体格や身体能力は確かに買う。ただ、気骨もなければ、芯のある強さも感じられない。これならまだ我が軍の兵の方が見どころもあるというものだ」


 汗を拭いながらライルは告げると、さもありなん、とばかりにアリシアは頷く。若者たちは悔しそうに表情を歪めるが、何も言い返せないようだ。

 それもそのはず、ライルは汗こそかいたものの、背中に土がつくことは一切なかったからだ。ライルは悠々と汗を拭い終えると、ヴァルゴに向き直って頭を下げる。


「申し訳ない。少し手荒なことになってしまった」

「いや、むしろこちらとしては礼を言うべきだな。つけあがった若者たちに、手痛い灸を据えてくれたのだから」


 ヴァルゴは首を振って告げると、真っ直ぐにライルを見て微笑んだ。その瞳には先ほどよりも感心や親しみを感じさせる。


「しかし、聞いた以上の武勇の持ち主だな。ライル殿は。頼もしく好ましい隣人が来たことを嬉しく思う。よければ、昼餉を共にせんか。じっくりと膝を突き合わせて話がしたい」

「構わない。ただ、部下の様子を見てからにはなるが」

「もちろんだとも。昼までは時間がある。ハサムに案内させる故、我が住まいをゆっくり回るといい。どこでも見て構わんぞ」


 そう告げたヴァルゴは上機嫌にライルの腰を叩いてから離れていく。アリシアはライルに上着を手渡しながら小さく苦笑する。


「えらく気に入られましたね。腕っ節が気に入られたのでしょうか」

「そうかな。まぁ、それなら戦った甲斐もあるものだが」


 視線を地面で伸びていた若者たちに向ける。そこでは彼らの親や兄だろうか、引っ張り起こしながら叱責している。それに彼らは肩身が狭そうだ。

 一部は恨めしそうな目で見てくるが、自業自得としか思いようがない。


「ライル将軍」


 声を掛けられて振り返ると、そこには土埃に塗れた兵士たちが立っていた。少し申し訳なさそうな顔をした彼らは深々と頭を下げる。


「ありがとうございます。それと――不甲斐ない姿をお見せして申し訳ありません」

「謝る必要はない。三人とも。三人を連れてきたのは、戦闘させるためじゃないからな」


 今回の人選は護衛というより、交渉を意識して連れてきた面々だ。無論、彼らは兵として戦うことができるが、地形の把握や文化の理解の方が余程重要だ。


「むしろ、よく戦ってくれた。自身が不得意な分野であるにも関わらず、彼らに勇敢に戦いを挑んだ。そのことは称賛に値する――ただ、命令を受けずに戦ったのはいただけないところではあるがな」

「将軍……」


 兵士たちは顔を上げると、ぐっと唇を噛みしめた。ライルはその面々を見渡すと、微笑みながら言葉を続ける。


「今回は独断を問わないことにする。ただ、その代わり今度、稽古に付き合え。この反省を次に活かせるようにな――いいな?」

「――っ、了解しました! 将軍!」


 兵たちは声を揃え、熱を込めた声で敬礼する。その気迫に満足げに頷くと、拍手しながらハサムが歩み寄って来た。


「さすがライル殿だな。この将軍にして、この部下がある、というのが理解できた」

「俺自身も未熟で、精進が必要だけどな」

「謙虚なことだ――それとすまないな、少し離れている間に若い連中が世話をかけた」

「気にするな。それよりハサム、ここを案内してくれると族長から聞いたが」

「ああ、もちろんだ。仰せつかっている」


 ハサムは大きく頷いて胸を叩くと、にやりとライルに笑ってみせた。


「それにしても族長にえらく気に入られたな。まぁ、あれだけ気分のいい戦いぶりを見せられたら納得だが。我が一族の友人に相応しい、とまで言っていたぞ」

「そうなのか。それは光栄だが」

「ああ。王国の人間であそこまで認められたのは、もしかしたら協定を結んだあの将軍――ええと、フェルディナンド将軍だったか? 彼以来かもしれないぞ」

「まさか。俺はただ腕っ節が立つことを見せただけだよ」


 あの王弟将軍と比較されるのも烏滸がましいだろう。苦笑をしている一方で、アリシアはしみじみと頷き、ハサムの方を見て告げる。


「貴方の種族は見る目がありますね。我が国の貴族に見習わせたいです」

「いや、彼の武勇や器の広さは誰が見ても分かるだろう」

「そう、そうなのですよ。なのに、我が国の貴族たちは――」

「俺のところの若い連中にも、ライル殿に叩き直して欲しいところだ」

「……さすがに面映ゆいから、やめてくれ。二人とも」


 揃ってため息をこぼす二人に対し、ライルは手を振って言い、それよりも、と続けて話題を変える。


「折角だから、ハサムたちの馬や家畜たちを見せてくれるか。ついでに、いろいろと教えて欲しいこともある」

「ああ、喜んで。しかし、教えて欲しいこととは?」

「この地での馬の育て方だよ。ここは水が少ないんだが、どういう風に育てればいいのか、少し気になっていてな」


 ちら、と視線を荒原の方に向ける。そこでは馬や家畜がかなりの数を放し飼いしている。純粋に彼らのことをどう面倒を見ているか気になるところだ。

 もし、何か秘訣があれば、征西軍の馬の世話に役立つかもしれない。


「なるほど、まぁ、確かにこの地は水がなくて苦労するからな。俺たちで教えられることなら、教えよう」

「ありがたい。助かるよ。ハサム」

「なんのこれしき。俺たちの家畜を見ながら話そうか」


 そう言いながらハサムは家畜たちの方に歩き出す。ライルはアリシアについてくるように合図し、その後に続いて歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ