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左遷先に優秀な女騎士がついてきたのだが  作者: アレセイア
第二章

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第16話

 カルガン族の家は、簡易幕舎に似た布張りの住居だった。円形なのが特徴的であり、その布も色とりどりだ。中から見ると、傘のような骨組みが天蓋に張り巡らされている。

 その中にライルはアリシアと共に招かれると、もてなしを受けながら、言葉を交わしていた。


「――ふむ、ハサムから聞いていたが改めて聞けば、王国の者たちは愚かしいな。ライル殿のような者を重用しないとは」

「初めて会ったばかりなのに、そこまで言っていただけるか」


 家畜の乳が使われた飲み物を、ライルとヴァルゴは酌み交わす。

 二人は集団を率いる長として細かい話を済ませていた。そのうちに最初は堅苦しかったヴァルゴの表情は少し柔らかくなり、親しみを感じさせていた。


「少し話しただけでも分かるとも。気持ちのいい生え抜きの男だとな。少なくとも、東の街にいる代官よりは余程、話が分かりそうだ」

「代官――ああ」


 ライルは一つ頷きながら苦笑した。

 王国西方には一応、街が一つだけある。トリスタ荒原に入る直前の場所であり、王国内でも小規模な部類だ。そこには周辺を治める代官がおり、ライルも赴任する前に挨拶に行ったが、確かにあまり好ましい人物ではなかった。

 アリシア曰く、代官は男爵らしく、名門貴族の派閥に所属しているらしい。

 そのため、権威を笠に着たような言動が目立っていたが、アリシアが出てくると途端に委縮してしまったのが見ていて面白かった。


「まぁ、貴族はそんなものだ。つまらないことで威張ろうとする」

「で、あるな。しかし、ライル殿も将軍なら、貴族なのではないか?」

「ああ、そういえば」


 アリシアにも言われていたが、将軍は一代限りの爵位である騎士爵も得られるのだ。隣のアリシアが深々と頷くのを見ながら、ライルは苦笑をこぼした。


「とはいえ、俺の出身は平民で、父は武人だからな」

「なるほど、そうであったか――うむ、お父上にもぜひお会いしたかったな。さぞ素晴らしい人物だっただろうに」


 そう言いながらヴァルゴはライルのコップに飲み物を注いでくれる。ライルはそれを受けながら少しだけ目を細めた。


「ありがとう。その言葉だけでも嬉しい」

「機会があればもっと話を聞かせて欲しい。我々は親睦を深める余地があるようだ」

「そうだな、互いに協力できるようにな」


 ライルとヴァルゴは笑い合っていると、ふとテントの外で声が上がったのが耳に入った。ヴァルゴは思わず眉を寄せ、軽く腰を上げた。


「すまない、随分と騒がしいな――」

「――ウチの部下の声もするな」


 ライルは眉を寄せる。族長との話の間、アリシア以外は外に待機させている。何かトラブルが起きたのだろうか。アリシアはすぐに頷いて口を開いた。


「私が見に行きます」

「いや、俺も行くよ。部下が迷惑をかけたかもしれない」

「であれば、私もだな」


 ライルとヴァルゴはコップを置き、立ち上がってテントから出る。幕をめくって外に出ると、また一段と大きな声が上がった。歓声のようだが――。

 そちらに足を向ければ、目に入ったのは取っ組み合いをしている男二人がいた。その姿に思わず呆れてしまう――その片割れは、ライルが連れてきた兵だ。


(おいおい、何をやっているんだ――)


 弾かれたように二人は距離を取った、と思えば、民族衣装の男が一気に兵士に向けてタックルを仕掛ける。それを低い姿勢で兵は受け止めようとしたが、踏ん張りが利かずに豪快に真後ろへ弾き飛ばされてしまう。

 それに周りで見ていた男たちが歓声を上げる――そこにヴァルゴは歩み寄りながら、低い声を響かせた。


「止めないか。客人と何をしておるのだ」

「いやなに、ただの力比べですよ。何せ、王国の軍人さんなんだ。俺たちに比べたら、さぞ強いんだろうな、と思って」


 周りで観戦していた男の一人がにやにやと笑いながら告げ、なぁ? と周りの男を振り返る。若い男たちは同意するように頷き、薄い笑みを見せている。

 それに対して地面に転がった兵士たちは悔しそうに地面を叩いている。

 他の兵たちも見てみれば、土埃に塗れていた。アリシアは呆れたように吐息をこぼし、ライルに視線を向ける。

 ライルが頷くと、アリシアは足早に駆けていき、兵たちの様子を確かめる。ヴァルゴは深くため息をつくと、押し殺した低い声を発した。


「だとしても、王国の客人に何たることをしたんだ。将軍に謝れ」


 その言葉に若い男は肩を竦めたが、ライルの方を見て頭を下げる。


「あはは、すみません、将軍殿。まさか兵士たちがあそこまで弱いとは」


 全く反省していない口調と、笑った目つき。周りの男たちもせせら笑っている雰囲気に、ライルは小さくため息をこぼして手を振った。


「否定はしない――このような者たちがいるなら、腕っ節が立つ奴を連れてくるべきだったと後悔している」

「……すまない、ライル殿」


 苦々しさを隠そうとせず、頭を深々と下げる族長にライルは首を振る。


「いいや、族長が頭を下げる必要はない。カルガン族全体が、この男たちのように粗暴であるとは思っていないから」


 その言葉に冷笑していた男たちの表情がぴたりと固まった。その表情に徐々に怒りが浮かんでくるのを見て、ライルはため息をこぼす。


(安っぽい挑発に乗ってくるとはな)


 そこにアリシアが駆け戻ってくる。彼女は憤然とした表情を見せて男たちを一睨みすると、ライルの方に耳打ちした。


「彼らから話を聞きました。不愉快なことにライル将軍を馬鹿にされたと」

「――俺が?」

「ええ、随分貧弱な将軍だと笑われたそうで」

「そうか。怒ってくれたのか、兵たちは」

「当然でしょう。敬愛する人が馬鹿にされれば、誰だって怒ります」


 そう告げたアリシアの全身から怒りを漂わせていた。民族の若者と兵たちの間で睨み合っている状況に、ヴァルゴは頭を抑えながら首を振った。


(――こうなった以上は、仕方ないか)


 小さくため息を一つ。ライルはヴァルゴを振り返りながら訊ねる。


「ヴァルゴ殿。よろしければ、自分も手合わせに参加したいのだが」

「……ライル殿? しかし……」

「王国軍として何か問題になることはないと誓おう。ただ、もしかしたら、そちらの若者たちを怪我させてしまう恐れがあってだな」


 その言葉に若い男たちの表情に怒りが満ちていく。肩を怒らせて睨んでくる男たちに冷ややかな視線を注いでいると、ヴァルゴは腕を組んでから言葉を続ける。


「その逆も然り、だと思うが?」

「その場合は遺恨としない」

「ならば、両者遺恨とせず、親善のために手合わせをする、ということでいかがかな」

「構わない――アリシア、これを」


 ライルは軍服の上着を脱ぎ、アリシアの方に放って渡す。ついで腰に帯びた剣を鞘ごと外して、これもアリシアの手に。

 彼女はそれを受け取りながら眉を寄せ、小さく吐息をこぼす。


「――将軍が出なくても、私がお相手しますのに」

「まぁ、これは俺の役目だろう。俺のために怒ってくれた兵たちのためにもな」


 そう言いながらシャツ姿になったライルは前に進み出る。遊牧民族の男たちや兵たちが見守る中、彼は若い男たちの前に出る。

 すぐに進み出たのは、表情に怒りを浮かべた男だ。彼は拳を胸の前で打ち合わせると、ライルを睨みつけて低い声で告げる。


「ぬかしやがって――後悔するなよ、将軍様」

「ああ、どこからでもいいから掛かってくるといい」


 自然体でライルは挑発するように手招きすると、男は咆吼と共に地を蹴った。猛然とした勢いでタックルを仕掛けてくる。

 一瞬で詰まる距離――だが、ライルはそれを冷静に見ながら半身になった。

 掠めるようにタックルが彼の横を駆ける。その足元を掬うように、ライルは下蹴りを一閃させた。直後、足払いを受けた男は一回転して背中から地面に打ち付けた。

 舞い上がる土埃の中、ライルはそれを見下ろして首を傾げる。


「まだやるか?」

「――っ!」


 地面に倒れた男は顔を真っ赤にすると、弾かれたように立ち上がった。それから猛烈な勢いで掴みかかろうとしてくる。

 だが、ライルはそれを見切って懐に飛び込み、鳩尾に拳を叩き込んだ。

 その衝撃に息を詰まらせ、目を白黒させながら後退る男。それを見ながらライルは小さく吐息をこぼした。


(動きが大振り過ぎる。見てからでも避けられるな)


 苦しそうに悶絶する男の後ろから、新しく男が進み出た。ライルは軽く頷いてみせれば、その男は鋭い動きで殴りかかってくる――。

 だが、振りかぶりで動きが丸わかりだ。その軌道を読むと、ライルは首を傾けて躱す。耳の脇を掠めて通過する拳――彼はその腕を掴み、身を捻って懐に身体を入れ込んだ。その身体を背負い、殴りの勢いを利用する形で投げ飛ばす。

 宙を舞った男の身体は地面に落下。受け身が取れなかったのか、豪快な音を立てて呻き声をこぼした。ライルはそれを見てから振り返る。


「――次は?」


 その声に男たちは顔を見合わせる。わずかに怖気づいたようにその表情に不安が過ぎる。だが、その若者たちを押しのけて一人の男が進み出た。

 今まで一番、大柄な男だ。男は目をぎょろつかせると、のし、のしと地面を踏みしめるように迫ってくる。それをライルは見ながらあくまで自然体に構え――。

 瞬間、ライルは身を低くしながら地を蹴った。

 重心を落としたときに生まれた力を真横に変換。一瞬で急加速し、低い位置から電撃的に駆ける。その動きに男はついていけない。

 そうして、視界の中から消えたライルは男の懐で地面に手をつくと、身体を捻った。

 その鋭く真下から回し蹴りを叩き込む。重たい衝撃が迸り、男は目を見開いた。


「か――はッ!」


 絞り出す声と共に、口から何かがこぼれだす。そのときにはライルは地を蹴り、男の懐から離れていた。軽く足を振り、小さく吐息をこぼす。


(さすがにいい身体をしているな。足に響く)


 だが、片足と両手を地面につきながら放つ蹴り――海老蹴りはそれなりに効いたはずだ。実際、大柄な男は悶絶し、その場で倒れ込んでいる。

 ライルはため息をこぼすと、遠巻きに見ている若者たちを見て告げる。


「手応えが一切ないな。ウチの兵士たちに比べると全然だ」


 その挑発に男たちの表情に再び怒りが灯る。それを見てライルは手招きして不敵に笑った。


「全員、まとめて掛かってこい――相手してやるよ」


 その言葉に男たちが怒号を上げて次々に飛び掛かって来た。

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