3の話【ゲーム会場】
「…ここか」
「なんか、普通のファミレスじゃね?」
蒼太、悟志は普段自分たちが過ごしている地区から電車で2時間、何度か乗り継ぎもして、とあるファミレス前に立っていた。
類瀬波美の話はこうだった。
自分の携帯にメールが届いた。当選おめでとう。あなたは選ばれた。一生に一度のチャンスがある。
と、いわゆる迷惑メールにありがちな一文がちりばめられた勧誘だった。
ただ、少し違う所もあった。何かに入会したり、購入する内容ではなくゲームの参加への誘いだったこと。おめでとう等と軽い調子で散々煽ったのにも関わらず気になった最後の一文。
[参加条件 生死を問わない方。また、自分の価値に絶対の自信がある方]
「なんか、重いよね?しかも自分の価値に自信持ってるのに生死問わないってどういう人のこと言ってるんだろうね?自分に自信あったら死にたくないって思うよね?」
本能なのか気まぐれなのか、普段は迷惑メールなんてタイトルを見ただけで削除する波美だったが、どうしてもメールの内容が頭から離れなかった。仲の良い友達に冗談っぽくメールの事を言っても、気持ち悪がられるか笑われて終わりだった。とても詳しい内容は言えなかった。それでも頭から消えてくれない一文。
[参加条件 生死を問わない方。また、自分の価値に絶対の自信がある方]
1人でメールに載っている会場まで行こうかとも思っていた。
しかし、教室でふと目が止まった2人。蒼太、悟志がよくゲームセンターに入り浸っている事を知っていた波美はダメ元で話を持ちかけてきたというわけだった。ゲームと言えば少しは興味を持ってくれるかも知れないと思って。
(ゲームは好きだけど、完全に自分の価値って言葉に釣られたなぁ…)
蒼太は来てしまったことを今更になって後悔していた。
冷静になってみれば今まで散々悩み、考えてきたことが急に解決するとは思えなかった。ましてやゲーム、目の前にあるのはファミリーレストランである。
それに片道2時間の電車賃は高校生の財布にも痛かった。
「しかし寂れてんな、ここらへん。ファミレス以外なんもねえじゃん。てかファミレスあることすら不思議に思えるわ」
悟史の言うことはもっともだった。
駅から出て目に入ったのは小さなロータリーのみ。しかし、まだ日も高いというのにバスやタクシーの姿は見えなかった。店も見当たらない。高くても3階までのビルと平屋の家がぽつりぽつりとあるだけで人とは全くすれ違わなかった。
そんな様子の町とも言えないような町を1時間歩きやっとここまで来た。
「類瀬は本当に来るのか?騙されたとかじゃないのかこれ?待ち合わせ過ぎてねないか?なんで地元の駅から一緒に来なかったんだあいつは」
「おま、あいつとか言うなし!波美ちゃんはなぁ、俺らと最寄り駅が違うんだよ。女の子だから支度も大変で時間かかってるんだろ!
「あ、そー」
呆れる蒼太。
惚れた弱みなのか悟史は疑うということを知らないらしい。
たとえ地元の駅で待ち合わせなくても、降りる駅で待ち合わせない理由等、疑問はあったが口に出す気は失せた。
「おーまーたーせー!!」
女の声に振り返ると波美がいた。
「おー!!なーみちゃーん!!」
「遠っ…」
まだ100mは離れていた。隣で手をぶんぶん振る大男に思わずため息が出る。
「いやー、お待たせ!ごめんねー。遠かったね〜ここ」
「ぜんっぜん!波美ちゃんこそ疲れてない?!荷物持とうか?!」
「…。で、どうするこれから?」
ハンカチで額の汗を拭く波美の姿に見惚れてしまった自分に、太鼓持ちな友人と同じくらいの嫌気を感じつつ話を進める蒼太。
「んー。まぁ学校でも話したけど参加したいとかじゃないんだよね、本当に危なかったらイヤだし。外から様子見てみよーかなと…。ま、心霊スポット巡り的な?」
「そーだね!そうしよう!」
言うや否や周りをキョロキョロ見渡す波美、悟史。
幸か不幸か今のところ人には会っていない。建物の中を覗けるような窓を探す。
なぜか目に見える窓は全て高い位置に取り付けてありとても覗けるものではなかった。
蒼太は2人のようにせっせと窓探しをする気にもなれず、それでも参加してますよと形だけでも示すため壁に耳をつけた。
(かえりてえ……ん?)
かすかだが音がしていた。間違いなく建物の内部から。
(笑い声?音楽?ファミレスというかライブハウスとかクラブみたいな雰囲気の音だな…)
「なにか聞こえるの?」
夢中になって音を拾っている背後からかけられた声に思わずビクリとする。
「類瀬ぇ…!びびらすなよー、わざとだろ?!あー、びびった、はぁ」
安堵の苦笑いで波美の方へ向き直る。
「あは、ほんとにわざとじゃないよー。なんか中見れる窓も出入口も無くてさー、ソータくんは何か収穫あったかな?って思って。」
「いや、見つからない。中から少し音は聞こえるんだけど…。てか、前から思ってたけどソータ言うな」
「えー、いいじゃーん、かわいいじゃーん」
頬を膨らまし、言いながら蒼太に習って壁に耳を付ける。
「…なにこれ?パーティでもやってるのかな?」
「なんか…やばいか?帰ろう。全然人の気配のない町なのにここだけパーティって。しかもあの窓、見当たらない出入り口。マトモな場所じゃなさそうだ」
急いで壁から離れる2人。
急いで悟史と合流する。
つもりだった。
「久留米くんいた!?」
「だめだ!見つからねえ!」
声を潜めながらも焦りは隠せない。もう建物の周りを3周探している。
勝手に1人で帰るような事をする人でもない事を分かっている分余計に焦りを募らせる。
2人とも予想はしている。どこにいるのか。しかし口に出さない。出したくない。
反対方向から周り4周目、また向かい合わせになる2人。
互いに目を合わせ、ゆっくり同時に見た。ファミリーレストランらしき建物の入口を。
「くっ…」
実は2周目から気付いていた。なかったはずの出入口が突如現れたことに。
ファミリーレストランには似つかわしくない木製の扉。古い洋館を彷彿とさせる。そしてその扉の木目を無視して斜めに書かれた真っ赤な[IN]の文字。
「いつから、あったんだろーね?見落としちゃってたのかなー、あはは…」
波美の唇がかすかにふるえている。
蒼太も気を緩めれば膝が震え出しそうだった。
目を凝らして見ると、扉の前にはストラップが落ちている。どこのゲームセンターにも一時期はあったゆるキャラのストラップだ。
蒼太はよく知っている。その持ち主の背の高い男を。
蒼太は被害妄想だと思いながら、どこも千切れていないそのストラップに
「この中にいるよ。早くお入り」
とでも言いたげに笑っているように感じた。




