第9話 双子の『仲間』
北へ向かう道中も、俺たちは無為に足を進めているわけではなかった。
「今日も一狩りするか、ディア」
「ああ。北へ行くにも、道中で稼げる経験値は稼いでおきたい」
街道沿いに潜み、時折通りかかる盗賊や、金払いの荒い護衛付きの商隊を狩る――旅をしながらの、実戦レベリングだ。
◇
その日、俺たちが目をつけたのは、粗末な檻を積んだ一台の荷馬車だった。
護衛は五人。手練れというほどではないが、油断ならない構えの傭兵崩れだ。
「……ルピン、あの檻から嫌な臭いがする」
「奴隷商か」
荷台に積まれた鉄格子の中、うずくまる二つの人影が見えた。
黒髪の少女が二人。片方はショートカットで気の強そうな目、もう片方は緩やかな癖毛を伸ばしたセミロングで、怯えたように身を寄せ合っている。
背には小さな翼の痕、額には小さな角――サキュバスの血を引く者の特徴だ。
「――お前ら、大人しくしてろよ。次の町で高く売ってやるからな」
御者の下品な笑い声に、少女の一人が唇を噛んだ。
(……嬲るような目だ)
俺は静かに棍を構えた。
「ルピン、行くぞ」
「言われるまでもない」
◇
戦闘は、あっけなく終わった。
護衛たちは、実戦を積んだ俺たちの敵ではなかった。
「が、はッ……!」
「ば、化け物が――!」
五人の男たちを地に伏せさせるのに、大した時間はかからなかった。
檻に近づくと、二人の少女がびくりと身を強張らせた。
「……敵、じゃない。ここから出してやる」
俺は鉄格子の鍵を叩き壊し、扉を開いた。
「な、なんで……。あんたも、私たちを売り飛ばすんじゃ……」
ショートカットの少女が、警戒しながら問う。
「悪いが、そういう趣味はない。事情を聞かせてくれ」
◇
焚き火を囲みながら、二人は訥々と身の上を語り始めた。
「私はノノ。こっちは妹のメメ」
「サキュバスの集落の……長の娘、だった」
母親から名付けを受け、基礎能力は高いはずだった二人。だが、鑑定を受ける前に村を人間の一団に襲われた。
「サキュバス狩り、って言うんだって。……人間の、悪い貴族の裏の仕事」
母親は魔力を封じる魔導具をつけられ、貴族のペットとして連れ去られた。
「私たちは……先天性スキルが、無いって言われて」
「無能だから、って。売られたの」
まだ幼く、サキュバスとしての『魅了』の力も開花していなかった二人は、商品価値がないと判断され、奴隷商へと横流しされたのだという。
ノノが、拳を握りしめた。
「母様を、取り戻したい。集落を襲った奴らにも、落とし前をつけさせたい」
「でも、私たちには何の力もない……」
メメが俯く。
俺は少し考え、二人に問いかけた。
「強くなりたいか」
「――え?」
「強くなりたいなら、俺たちと来い。旅の道連れに、ちょうどいい」
ノノとメメは顔を見合わせ、やがて力強く頷いた。
「行く。私たち、強くなる」
「母様を、絶対に取り戻すから……!」
こうして、ディア・ルピン・ノノ・メメの四人のパーティーが結成された。
――誰も気づいていなかったが、この日から静かに、恩恵が働き始めていた。
勇者スキルの影響で、パーティーメンバー全体の獲得経験値がわずかに増加する。ルピンのリーダーシップスキルにより、基礎能力の伸びにも補正がかかる。
本人たちが自覚することのない、地味だが確かな加護だった。
◇
「そういえば、こいつら護衛の荷物から出てきたんだが」
ルピンが差し出したのは、一枚の古い地図だった。
そこには、この街道から少し外れた場所に、一つの印がつけられている。
「……ダンジョン、か」
護衛の私物らしき紙には、走り書きでこう記されていた。
『ルーメン遺跡ダンジョン――駆け出し向け、稼ぎ場』
ノノとメメには、まだ戦う術がない。弓なら護衛から奪ったものが数丁ある。だが、実戦の場数を踏ませるには、街道での狩りだけでは心許なかった。
「ノノ、メメ。弓は使えるか」
「多少なら」
「教われば、すぐ慣れる」
「なら決まりだ。このダンジョンで、まとめて場数を踏ませる」
ダンジョンという理の外側の場所であれば、多少手荒な訓練をしても目立たない。何より、そこには実戦経験だけでなく、思わぬ拾い物が眠っているという噂もある。
「――行くぞ、ルーメン遺跡ダンジョンへ」
俺の号令に、三人が頷いた。
北を目指す道すがら、四人のパーティーは、新たな稼ぎ場を目指して足を進め始めた。




