第67話 再会と『女神』
マニョンたちと別れたディアは、静かに、その足を、城の奥深くへと、進めていた。
「――それにしても、広くて、豪華な城だな……」
俺は、静かに、周囲を見渡しながら、そう呟いた。
「――だが、ここまでくれば……。察知で、場所が分かる」
「――リアーナ……。待っていてくれ……。あと、少しだ……」
焦る気持ちを、静かに、抑え込みながら、俺は、慎重に、歩みを進めた。
――何せ、敵の本拠地に、たった一人。隠密のスキルを使っているとはいえ、油断は、決して、許されなかった。
外では、今も、マニョンとダリウスが、激しい戦いを、繰り広げているはずだった。
彼女の、あの秘策のことなど、知る由もない俺は、ただ、静かに、その無事を祈りながら――
(――救出まで、持ちこたえてくれ……)
そう、心の中で、幾度となく、祈り続けた。
「――見えた……。あそこか!」
不意に、俺の察知が、確かな反応を、捉えた。
――リアーナの、居場所が、分かった。
だが、同時に――その隣に、強大な存在の気配が、静かに、佇んでいることも、分かった。
「――主神……。エルリック……」
「――くそっ……」
俺は、静かに、歯を食いしばった。
「――戦闘は、避けられないか……」
焦りが、静かに、募っていく。
◇
その時――モーチから、静かに、念話が届いた。
『――ディア』
『――マニョンには、任せてきた。……して、場所は、特定できたか』
俺は、静かに、その念話に応じ、状況を、共有した。
(――どうすれば、主神と、リアーナを、分断できる)
俺が、静かに、思案を巡らせていると――モーチが、静かに、口を開いた。
『――仕方ない』
『――我が、エルリックの相手を、している間に……。救出せい』
「――モーチ! だが、それは……!」
俺は、思わず、そう、声を上げた。
『――案ずるな』
モーチの声は、静かに、しかし、確かな覚悟を、湛えていた。
『――我は、不死鳥。……理など、無視して、生き返る存在よ』
『――しかし、このやりとり、懐かしいな』
『――アルカナとの、やりとりを、思い出す』
『――しかし、今回は、とっておきが、あるのでな。……ただでは、やられんぞ』
「――ふむ……」
俺は、静かに、目を閉じた。
「――すまない。……任せて、いいか」
『――あい、わかった』
『――一分後に、いくぞ!』
「――了解!」
◇
――モーチは、城の外から、巨大な火の玉を、王の間めがけて、投げつけた。
無論、この程度で、神を、倒せるはずもない。これは――エルリックを、おびき出すための、囮の一手だった。
「――ほう」
エルリックは、静かに、あっさりと、その挑発に、乗った。
「――鳥の分際で、また、我に、逆らうか」
「――仕方ない。……相手してやろう」
彼は、静かに、王の間から、姿を現し、その火の玉を、あっさりと、かき消した。
「――一億年前の、敵討ちにしては……。この程度か?」
エルリックが、静かに、嘲笑うように、そう告げた。
「――あの時の、魔王のほうが、楽しませてくれたぞ」
「――ぬかせ」
モーチは、静かに、しかし、確かな怒りを込めて、言い返した。
「――今のは、挨拶じゃ。……目に物、見せてやるわ」
「――はっはっはっ」
エルリックは、静かに、笑った。
「――久しぶりに、血が、騒ぐわ」
◇
――そうこうしている間に、俺は、静かに、リアーナへと、近づいていった。
――やっと、会える。
五十年、待ち続けた。
胸の奥から、堪えきれない、感動が、静かに、溢れ出していく。
「――リアーナ……」
俺は、静かに、その名を、呼びながら――隠密のスキルを、解除した。
――その、瞬間だった。
「ザクッ――」
胸に、何かが、深々と、突き刺さる音がした。
「――が……」
滴り落ちる、鮮血。
周囲には――リアーナしか、いなかった。
(――嘘、だ……)
俺の中で、様々な感情が、渦を巻いた。
(――五十年で、忘れて、しまったのか……? 愛想を、尽かされて、しまったのか……? 待たせすぎて、しまったのか……?)
感情が、まるで、整理できなかった。
――そんな、俺の前で。
絶世の美女――リアーナの姿をした、その者は、静かに、口を開いた。
「――あなたが、元夫の、ディアね」
「――悪いけど、私は、リアーナであって、リアーナでは、ないわよ」
「――残念だったわね」
「――あなたの愛した、リアーナは……。もう、この世に、いないのだもの」
◇
俺は――理解が、まるで、追いつかなかった。
リアーナの、その姿。リアーナの、その声。何より――名付け親としての、確かな繋がりが、目の前の存在を、リアーナだと、告げていた。
「――う……。嘘だ……。そんな、馬鹿な……」
動揺を、隠しきれない俺を、余所に――俺の体は、本能的に、刺された胸の傷を、静かに、癒し始めていた。
「――あら」
彼女は、静かに、微笑んだ。
「――そのまま、死んだら、良かったのに」
「――残念ね」
「――俺には」
俺は、震える声を、必死に、抑えながら、答えた。
「――愛する者を、連れ帰る使命が、ある」
「――諦めるわけには、いかないのでな」
「――はぁ……」
彼女は、静かに、深い、溜息をついた。
「――もう、いないって、言ってるじゃない……」
「――仕方ないわね。……説明してあげる」
◇
「――私は」
彼女は、静かに、しかし、確かな威厳を込めて、名乗った。
「――三柱のうちの、一柱である、オリーブよ」
「――エルリックの、妻であり」
「――女神のスキルを、有し、慈愛を、司る者」
「――ど、どういうことだ……」
「――リアーナはね」
オリーブは、静かに、続けた。
「――私の、復活のために……。依り代に、なったの」
「――だから、もう」
「――あなたの愛した、リアーナの人格は……。ないのよ」
「――そ、そんな……。馬鹿な……」
俺の中で、何かが、静かに、崩れ落ちていく音がした。
「――嘘を言って、どうするの?」
オリーブは、静かに、微笑んだ。
「――ちなみに、私は、記憶は、引き継いでるから」
「――あなたの事は、よく、知ってるわ」
「――スリップ使いの、インプさん」
「――くっ……」
俺は、静かに、拳を、握りしめた。
(――ど、どうしよう……。この女、嘘を、言っているようには……。見えない……)
――だが。
(――俺は、連れ帰ると、皆に、約束したんだ……)
(――リアーナを、復活させる方法は……。後で、考えよう……)
「――仕方がない……」
俺は、静かに、しかし、確かな決意を込めて、告げた。
「――無理やり、連れて、行かせて、いただく」
「――舐められたものね」
オリーブは、静かに、しかし、不敵に、笑った。
「――やってみなさいな」




