第66話 武ノ神と『矜持』
「――ここには、三柱の神が、おる」
ダリウスは、静かに、しかし、確かな自負を込めて、そう告げた。
「――その中でも、我は、別格の武力をもって……。お主を、葬ってやろう」
その言葉には、単なる、はったりではない、確かな根拠が、宿っていた。
――ダリウスもまた、神スキルの、保有者だった。
『武ノ神』。それは、戦闘に関わる、あらゆる能力を、飛躍的に、向上させる、神クラスのスキルだった。
そして――彼は、元々、人族であった。かつては、勇者として、数多の魔族を、葬ってきた身。主神を、深く、篤く、信仰し続けてきた、その果てに――彼の持つ勇者のスキルは、そのまま、上位のスキルへと、昇華を遂げていた。
ディアが、事故によって、他者の勇者スキルを奪い、それを、後に、魔王のスキルと融合させたのとは、まるで違う、道のり。
ダリウスの力は――生まれながらの、勇者としての在り方を、ひたすらに、極め続けた末に、辿り着いた、上位互換の姿だった。
「――あはは〜」
マニョンは、静かに、しかし、不敵に、笑い返した。
「――やれるもんなら、やってみなっ」
その声には、隠しきれない、余裕と――同時に、静かな、緊張の色も、滲んでいた。
(――精霊魔法で、撹乱しながら……。隙を、狙うしかない)
マニョンは、静かに、その戦術を、頭の中で、組み立てていた。
◇
戦いは、瞬く間に、激化した。
「――ほう」
ダリウスは、静かに、マニョンの攻撃を、次々と、捌きながら、そう呟いた。
「――この威力、スピード、ともに、高レベルだな」
「――だが」
彼の声に、僅かな、余裕が、滲んだ。
「――決め手に、欠けている。……我には、刃は、届かないな」
「――じゃあ……」
マニョンは、静かに、しかし、確かな闘志を込めて、答えた。
「――そろそろ、ギア、上げてくよ〜」
――刹那、大気が、大きく、揺れ動いた。空間そのものが、歪むほどの、膨大な魔力が、静かに、放たれていく。
だが――幾度、ぶつかり合っても。
「――……」
マニョンの胸の内に、静かな、しかし、確かな焦りが、募り始めていた。
(――まったく、余裕、ないよぉ……)
(――このまま、ディアが、帰ってきてから、で……。間に合うしなぁ……)
――そう。ダリウスは、強かった。
彼は、この天界において、主神エルリックに次ぐ、序列二位の実力者。その武ノ神の力は、まさに、圧倒的だった。
だが――それでも。
――諦める、マニョンではなかった。
決闘が始まってから、既に、一時間以上。二人の激突は、絶え間なく、続いていた。
◇
マニョンは、次第に、疲弊の色を、隠せなくなっていた。
(――はやく、終わらせよう……)
その時――マニョンの脳裏に、静かに、一つの、閃きが、浮かんだ。
「――そうだ。いいこと、思いついた」
マニョンは、静かに、しかし、悪戯めいた笑みを浮かべながら、口を開いた。
「――ダリウス! 後ろに、エルリックが!」
――無論、それは、真っ赤な嘘だった。
こんな、あまりにも、子供じみた、手垢のついた誘いに、引っかかる者など、そうそう、いるはずもない。
だが――目の前の、この男は、果たして、どうだろうか。
「――なんだと!?」
ダリウスは、反射的に、そう叫び、そして――
「――あ、お疲れ様です!」
咄嗟に、振り向きざま、そう発してしまった。
――当然、その先には、誰もいなかった。
その一瞬の、あまりにも、無防備な、隙。
「――あまねく、精霊よ……」
マニョンは、静かに、しかし、確かな覚悟を込めて、その両手を、掲げた。
「――彼の者の、スキルを、封じよ……! 『ディスキル』!」
――まさに、一瞬だった。
ダリウスの体から、力が、抜け落ちていく。
「――な……! こ、これは……!」
抵抗する間もなく――彼は、その場に、静かに、崩れ落ちた。
「――これで、勝負ありだね」
マニョンは、静かに、しかし、確かな戦意を込めて、その姿を、見下ろした。
「――まだ、やる? ……まぁ、いいや。ばいばい♪」
――その一言と共に、マニョンの、渾身の一撃が、ダリウスへと、振り下ろされた。
『――この世界の理により、蘇生は、適用されません』
――かつて、彼自身が、そう告げた通り。
天界という、この場所において――彼は、二度と、その目を、開くことはなかった。
こうして――主神に、長きにわたり、忠誠を捧げ続けた、武ノ神の担い手、ダリウスは――静かに、この世界から、姿を消したのだった。




