第64話 マニョンの『秘策』
ダリウスの胸の内には、怒りが、渦を巻いていた。
自らの信頼が、たった一撃の奇襲によって、地に落ちたことへの、焦り。動揺。そして、行き場のない、屈辱。それらが、複雑に、絡み合っていた。
「――お主らは、知っておるぞ」
ダリウスは、静かに、しかし、抑えきれぬ怒気を滲ませながら、口を開いた。
「――下界の、住人だな。……死を繰り返し、糧になれば、良いものを。……こんなところに、来るとは、愚か者どもめ」
「――良いことを、教えてやろう」
ダリウスは、静かに、冷たく、続けた。
「――ここでは、お主ら、下界の理は、通じんのでな。……死んで、蘇生は、されぬ。……永遠に、意識は、戻らんぞ」
その言葉に、その場の空気が、一段と、張り詰めた。
「――お主らの、最後の言葉くらいは、聞いてやるぞ。……何か、あるか?」
◇
その、あまりにも高圧的な問いかけに対し、マニョンは――静かに、しかし、確かな冷たさを湛えた笑みを、浮かべた。
「――僕はね……。こう見えて、怒ってるんだよ」
その声色には、これまでの無邪気さとは、明らかに異なる、静かな刃のようなものが、宿っていた。
「――友達を、殺されてるからね。……それをやった奴には、同じ目に、遭わせたいと、思ってたんだよ」
マニョンは、静かに、ダリウスの姿を、じっと、見つめた。
「――そういえば」
その表情に、ふと、何かに気づいたような、色が浮かぶ。
「――君の風貌、ディアの報告書にあった、ダリウスってやつに、似てるけど……。まさか、五十年前に攻めてきた神って、君のことかな?」
「――ふん」
ダリウスは、静かに、嘲るように、鼻を鳴らした。
「――だから、どうしたと、言うのだ」
彼は、静かに、しかし、確かな自負を込めて、続けた。
「――我は、主神エルリック様に仕える、ダリウス。……主神の右腕として、貴様も、消し炭にしてやろうぞ」
「――ふーん」
マニョンは、静かに、笑みを深めた。
「――まさか、すぐに会えるなんて、僕って、ラッキーだね」
その瞳に、静かな、しかし、隠しきれない、確かな戦意が、宿った。
「――モーチくん、先に、行ってていいよ」
マニョンは、静かに、しかし、はっきりと、そう告げた。
「――このおじさんは、僕の獲物だからね。……ちょっと、手加減も、できなそうだから。……君まで、巻き込んじゃうかも」
「――うむ、わかった」
モーチは、静かに、頷いた。
「――ワシは、ディアを、追いかけるとするかのう」
「――それじゃあ、おじさん……。いくよ!」
「――かかってこんかい、餓鬼がぁ!」
――こうして、マニョンと、ダリウスの、戦いの火蓋が、静かに、しかし、確かに、切って落とされた。
◇
――マニョンには、一つの、秘策があった。
時は遡り、数日前――まだ、天界への突入の、前のこと。
「――ぼくの攻撃じゃ、神殺しは、できないんだよなぁ……」
マニョンは、静かに、一人、そう呟いていた。
「――ディアが持ってる、槍と、同様の攻撃手段がないと……」
「――戦闘は、あまりしないって、ディアが、言ってたけど」
マニョンは、静かに、その表情を、僅かに、翳らせた。
「――ぼく、アリマンやった奴が、いたら……。殺しておきたいんだよなぁ」
――この時の、マニョンは、まだ、知らなかった。
この後、とんでもないことが、起こることを。
「――そういえば」
マニョンは、静かに、何かを、思い出したかのように、顔を上げた。
「――精霊神って、精霊魔法だけじゃなくて……。精霊召喚も、できるんだね」
「――そうだ。……ちょっと、精霊、呼んでみよっかな」
「――こうかなー。……えいっ」
その男は、静かに、しかし、重々しい声で、そう呟いた。
「――ワシが、下界で召喚されるのなんて。……ワシクラスに、なると、神レベルのスキルが、必要じゃからのう」
「――ほれ、今回は、お主が、召喚したのか」
「――うん、そうだよ」
マニョンが、静かに、頷いた。
「――して、何用じゃ」
「――それなんだけどね」
マニョンは、静かに、しかし、確かな期待を込めて、そう切り出した。
「――僕にも、神様を殺す、手段が……。欲しいんだ」




