第61話 使者と『架け橋』
「――部品を、送り込む方法から、考えなければ、なりませんね」
デルポポは、静かに、穴の前で、思案を巡らせていた。
「――物理的に、人が、通れない以上……。何か、別の"手"が、必要です」
俺は、静かに、その言葉に、頷いた。
「――なら」
俺は、静かに、自らの掌に、意識を集中させた。
「――魔物使い、いや……。『魔ノ頂点』の力を、使おう」
『――使役召喚、発動』
淡い光と共に、俺の足元に、小さな影が、現れた。
ネズミよりも、さらに、遥かに小さな――極小の、蟲のような姿をした、下級の魔物だった。
「――こいつなら、あの穴を、通れるはずだ」
「――なるほど……! 使役した魔物になら、細やかな、指示も、通せますものね」
デルポポが、静かに、感心したように、頷いた。
◇
「――さあ、あなたたちの、出番よ」
ノノが、静かに、術式の描かれた、小さな部品の欠片を、掌に載せた。
「これを、あの穴の奥へ、少しずつ、運んでちょうだい」
俺の使役した、極小の魔物たちが、次々と、その欠片を背負い、あの、小さな穴の中へと、消えていく。
「――これで、いけるかしら……」
メメが、祈るように、その様子を、見つめていた。
だが――それだけでは、足りなかった。
「――やはり、部品を運ぶだけでは、組み立てまでは、手が回りませんね……」
デルポポが、静かに、眉を寄せた。
「――なら」
ノノが、静かに、閃いたように、顔を上げた。
「――転写魔法を、使いましょう」
「――転写、魔法?」
「うん。……こちら側で組み上げた、完成品の"設計"そのものを、魔力の波として、あの穴の先に、直接、投影するの。……向こうで、部品さえ揃っていれば、あとは、その"型"に沿って、勝手に、組み上がっていくはず」
ノノは、静かに、自信ありげに、微笑んだ。
「――魔術研究の、応用よ。……任せて」
◇
それから、幾日にもわたる、根気強い作業が、続いた。
極小の使い魔たちが、少しずつ、部品を運び続ける。
ノノとメメが、緻密な転写魔法の術式を、幾度も、幾度も、練り上げていく。
「――くっ……! また、失敗……!」
「――ノノ、大丈夫。……もう一度、いきましょう」
何度も、何度も、試行は、失敗に終わった。だが、そのたびに、二人は、諦めることなく、術式を、練り直し続けた。
俺は、その様子を、静かに、見守り続けていた。
(――俺には、こういう、緻密な作業は、できない)
自分の得意な分野が、力業や、大局的な知略であることを、俺自身、よく理解していた。だからこそ――こうして、彼女たちが、丁寧に、この道を切り拓いていく姿を、静かに、信じて、見守ることしか、できなかった。
「――ディアさん、心配、しないでください」
メメが、ふと、俺の様子に気づき、優しく、微笑みかけた。
「――私たち、必ず、成功させますから」
「――ああ。……頼りにしてる」
俺は、静かに、しかし、確かな信頼を込めて、頷いた。
◇
そして――幾週間もの、試行錯誤の末。
「――あ……!」
穴の奥から、微かな、しかし、確かな、機械的な作動音が、静かに、響いてきた。
「――これ、は……!」
デルポポが、静かに、息を呑んだ。
『――向こう側の装置、起動を確認』
「――やった……! やりましたよ、ディア様……!」
デルポポが、静かに、しかし、堪えきれない喜びを滲ませながら、俺を振り返った。
「――向こう側に、転移装置の、出口が……! 完成、しました……!」
「――本当、か……」
俺は、静かに、その穴を、見つめた。
「――やったね、メメ!」
ノノが、涙ぐみながら、メメと、しっかりと、手を取り合った。
「――はい……! やりました、ノノ……!」
その光景に、俺は、静かに、深い、確かな安堵を覚えた。
◇
俺は、静かに、その小さな穴の前に、跪いた。
「――ありがとう、皆」
俺は、静かに、しかし、心の底から、そう告げた。
「――お前たちの、その知恵と、根気強さがなければ……。この道は、決して、開かなかった」
「――ディア様……」
デルポポが、静かに、目を潤ませながら、答えた。
「――私たちも、あなたと、あなたが愛する人のために、力になりたかったんです」
俺は、静かに、その言葉を、深く、胸に刻んだ。
(――もう、迷わない)
五十年もの間、抱え続けてきた、あの、深い虚無感が、静かに、薄れていくのを、感じた。
――目の前に、確かな、一筋の光が、見えていた。
「――待っていろ、リアーナ」
俺は、静かに、その小さな穴を、見つめながら、静かに、しかし、確かな決意を込めて、そう呟いた。
「――今度こそ、必ず……。迎えに行く」
――だが、その戦いは、俺一人の力で、成し遂げられるものではない。
俺は、静かに、その場に集まった、皆の顔を、一人一人、見渡した。
「――ここから先は、誰を連れて行くか、慎重に、決めなければならない」
相手は、神。……並の力では、足を踏み入れることすら、叶わない領域だ。
「――皆で、これからのことを、話し合おう」
その言葉に、皆が、静かに、しかし、確かな決意を込めて、頷いた。




