第60話 悪知恵と『技術者』
「――必ず、やり遂げます! 少々、お待ちを!」
デルポポは、静かに、しかし、確かな気迫を込めて、そう告げると、瞬く間に、動き出した。
「――魔術研究所の、総力を、挙げます。……ノノ、メメ、手伝ってもらえますね」
「――もちろん」
「――私も、頑張ります……!」
ノノとメメが、力強く、頷いた。
◇
まず、着手されたのは、転移装置そのものの、設計だった。
「――通常の転移陣とは、勝手が違いますね」
デルポポは、静かに、図面を広げながら、思案を巡らせた。
「――今回は、装置の"出口"だけを、遠く離れた場所――それも、あの、小さな穴の先に、設置する必要がある」
「――部品を、分けて、運ぶしかない、ってことね」
ノノが、静かに、腕を組んだ。
「――ええ。……幸い、あの穴の奥からも、微かに、魔素の気配が、感じ取れます。……転移そのものは、成立するはずです」
俺は、静かに、その説明に、耳を傾けていた。
「――だが、あの穴は、拳ほどの、大きさしかない」
「――普通の手段では、部品一つ、運び込むことすら、できないでしょう」
デルポポが、静かに、眉を寄せた。
「――何か、良い、手立てはないか……」
その場に、静かな、しかし、重い、沈黙が落ちた。
◇
技術者たちもまた、連日、試行錯誤を、繰り返していた。
「――もっと、小型化できないか。……極限まで」
「――いや、これ以上、小さくすると、術式の精度が、保てません」
魔術研究所の一角では、絶えず、そんな議論が、交わされていた。
「――装置の"核"となる部分だけでも、あの穴を、通せないものか」
技術者の一人が、そう提案するも、すぐに、別の者が、首を振った。
「――核だけでは、意味がありません。……周辺の術式回路が、揃わなければ、装置として、機能しないでしょう」
俺は、静かに、その様子を、見守っていた。
(――このままでは、埒が明かない)
俺自身、これまでの旅路で、幾多の知恵を、絞り出してきた自負があった。だが、今回ばかりは、こうした、緻密な技術の壁に、静かに、頭を悩ませていた。
◇
数日後、俺は、改めて、あの穴の前へと、足を運んでいた。
「――やはり、変わらんな……」
穴の大きさは、依然として、拳ほどのまま。焦りが、静かに、胸の内で、募っていく。
(――後少し。……後少しなんだ)
せっかく見つけた、この手掛かりを、逃すわけには、いかなかった。
俺は、静かに、目を閉じ、これまでの旅路で培ってきた、あらゆる知恵と、悪知恵を、フルに、巡らせ始めた。
洞窟での、泥臭いレベリング。水攻めの、知略。毒草を使った、搦め手。ダンジョンでの、幾多の工夫。
――そして。
「――あ」
俺は、静かに、目を見開いた。
「――いいこと、思いついた」
それは、まさに――閃きだった。
こんな発想を、果たして、これまでの、どんな魔王が、思いついただろうか。
「――デルポポ」
俺は、静かに、しかし、確かな確信を込めて、彼女を呼んだ。
「――軽量化した、転移装置の"出口"を……。向こう側に、作ろう」
「――……!? !?」
デルポポが、驚愕の表情を浮かべた。
「――部品を、一つ一つ、丸ごと、運ぶ必要は、ない」
俺は、静かに、その悪知恵を、丁寧に、説明していった。
「――空間さえ、繋がっていて、魔素さえあれば――転移そのものは、成立する。……幸い、あの穴の先にも、僅かながら、魔素の気配がある」
「――なら」
俺は、静かに、続けた。
「――装置の"部品"そのものは、こちら側で、小分けに作り、あの穴を通して、運び込む。……そして、向こう側で、遠隔から、組み立てる」
「――そんな、方法が……!」
デルポポが、静かに、目を輝かせた。
「――技術者たちの、腕の見せ所、というわけですね」
「――ああ」
俺は、静かに、頷いた。
「――頼めるか」
「――必ず、やり遂げます! 少々、お待ちを!」
デルポポは、静かに、しかし、確かな気迫を込めて、そう告げると、瞬く間に、動き出した。
こうして――向こう側へと、渡る道を切り拓くための、準備が、急ピッチで、始まることとなった。




