第58話 魔王と『魔王』
アリマンの国葬は、魔王城前の広場にて、盛大に執り行われることとなった。
中央大陸はもとより、西大陸ディスガイアから、ドラゴン族の代表としてべべとライト、ライオネル王国からタラボーヤ、人族の国からはゴウロウが、それぞれ参列した。多くの魔族、亜人、そして、かつての敵国であったはずの人族までもが、静かに、その死を悼みに集まっていた。
「――十三代魔王アリマン様は、その生涯を通じ、我らを、導いてくださった」
デルポポが、静かに、しかし、涙を堪えながら、弔辞を読み上げた。
「――部下を守るため、自らの命を賭してくださった、その御心を……。我らは、決して、忘れることはないでしょう」
参列者たちの間から、静かに、啜り泣く声が、幾つも聞こえた。
俺は、ただ、静かに、棺の前に立っていた。
(――アリマン……)
胸の奥に、まだ、癒えぬ痛みが、確かに残っていた。だが、今は、その痛みを、前へ進む力に変えなければならない。
「――さらばだ、アリマン」
俺は、静かに、そう呟いた。
「――お前の願い、必ず、果たす」
棺は、静かに、多くの者たちに見送られながら、丁重に、埋葬された。
◇
それから数日後――俺は、正式に、十四代魔王としての戴冠式に臨むこととなった。
「――今日、我らは、新たなる王を、迎える」
デルポポの厳かな声が、広場に、響き渡った。
俺は、静かに、アルカナより受け継いだ、恩寵武具――『魔を統べし王冠』を頭に戴き、『覇者の杖』を手に取り、『創世のローブ』を纏った。かつて、アリマンが、その身に纏っていたものだった。
(――この重みを、確かに、引き継ぐ)
「――皆に、伝えねばならぬことがある」
俺は、静かに、集まった者たちを、見渡した。
「――本来、魔族には『魔王』、人族には『勇者』。……それぞれ、必ず一名のみが授かる、特別なスキルがある」
その言葉に、その場が、静かに、ざわめいた。
「――俺は、事故によって、この二つの力を、同時に、その身に宿すこととなった」
俺は、静かに、続けた。
「――そして、先代魔王アリマン様より、正式に、この魔王のスキルを、譲り受けた」
「――さらに」
俺は、静かに、しかし、確かな覚悟を込めて、続けた。
「――俺は、初代魔王アルカナ様と同じ、デーモンロードへの、進化を果たした」
どよめきが、より一層、大きく、広場を包み込んだ。
「――アルカナ様の遺志を、そして、アリマン様の願いを……。俺は、必ず、継いでみせる」
俺の声には、隠しきれない、確かな決意が、滲んでいた。
(――全能ノ神のことは、まだ、誰にも、明かせない。……この力の正体を、悟られるわけには、いかない)
その、静かに秘めた覚悟を、俺は、胸の奥に、深く、しまい込んだ。
◇
戴冠式の後、俺は、新たな国の在り方について、皆に、発表した。
「――これより、この中央大陸北部と、西大陸ディスガイアを合わせ、新たな魔王国――『ディステニア』とする」
その宣言に、集まった者たちが、静かに、耳を傾けた。
「――そして、この国を支える、七名の幹部を、ここに、任命する」
俺は、静かに、一人一人の名を、呼んでいった。
「――デルポポ」
「――はっ」
「――黄色い妖精」
「――はーい!」
「――スルート」
「――おう!」
「――ルピン」
「――任せろ!」
「――ノノ」
「――……うん」
「――メメ」
「――はい……!」
「――べべ」
「――承知した」
「――お前たち七名を、我が国の柱――『七星』とする」
俺の宣言に、その場に、静かな、しかし確かな熱気が、満ちていった。
◇
「――そして、もう一つ」
俺は、静かに、続けた。
「――デルポポを、副魔王として、任命する」
「――……! 私、が……!」
デルポポは、驚いたように、目を見開いた。
「――国政の実務は、デルポポに、託したい。……俺は、これより――」
俺は、静かに、しかし、揺るぎない決意を込めて、告げた。
「――『君臨すれど、統治せず』の姿勢を、貫かせてもらう」
「――俺は、これより、自らの足で、リアーナの痕跡を、探し続ける」
その言葉に、集まった者たちは、静かに、しかし、深く、頷いた。
「――デルポポ、頼んだぞ」
「――……はい」
デルポポは、静かに、涙を拭いながら、深く、頭を下げた。
「――謹んで、お受けいたします。……ディア様の想い、必ず、支えてみせます」
◇
こうして、新たな魔王国――ディステニアの、体制は整った。
◇
思えば、遠い道のりだった。
大雨の夜、嫌がらせのつもりで放った、たった一つの『スリップ』。
その事故から、全ては、始まった。
名もなきインプが、勇者のスキルを奪い、リアーナに名付けられ、ディアという名を得た。
洞窟での泥臭いレベリング。ルピンとの出会いと、幾度もの死線。ノノとメメという、かけがえのない仲間。辺境伯との死闘。常世の塔での試練。魔王国での日々。ニコルとの因縁。アオスの真実。西大陸での、新たな国づくり。
そして――リアーナとの、誓い。
多くの出会いと、別れと、そして、積み重ねてきた、絆。
その全てが、今、この瞬間へと、繋がっていた。
だが――物語は、まだ、終わらない。
最愛の人は、まだ、神々の元に、囚われたままだ。
「――待っていろ、リアーナ」
俺は、静かに、遠く、天の彼方を、見上げた。
「――必ず、迎えに行く。……何度でも、何度でも」
事故から始まった、成り上がりの旅路は、こうして、一つの区切りを迎えた。
だが、この物語の、本当の戦いは――今、ここから、始まろうとしていた。




