第54話 積み重ねし『成果』
半年余りをかけ、俺たちは、西大陸に点在する、あらゆるダンジョンを踏破していた。
毒に満ちた洞穴、灼熱の火山、深い森、極寒の雪原、そして、乾いた砂漠。
「――思えば、随分と、色んな場所を、潜ってきたものだな」
俺は、城の宝物庫に並べられた、数々の戦利品を眺めながら、静かに呟いた。
そこには、九つの恩寵武具と、五つの神の恩恵書が、静かに、その輝きを放っていた。
◇
「――まずは、装備の割り振りを、決めよう」
俺の号令に、皆が、それぞれの新たな得物へと、手を伸ばした。
「――この鎧、随分と、軽いな」
俺は、新調した鎧を纏いながら、静かに、その感触を確かめた。硬度は以前の比ではないというのに、動きを一切阻害しない、絶妙な仕上がりだった。
「――ルピン、こっちの棍と盾、お前に合うと思う」
「――お、こいつは……! 受け止めた瞬間、力が返ってくる感じがするな」
ルピンが、新たな棍を構え、静かに、その手応えを確かめた。
「ガーディアンの名に、恥じぬ得物、というわけか」
「――ノノ、メメも、それぞれ、これを」
「――わ、綺麗な、法衣……!」
ノノが、纏った瞬間、僅かに、驚いたように目を見開いた。
「――魔力の、巡りが、全然違う……!」
メメもまた、静かに、自分の纏う法衣を見つめながら、その温かな加護を、確かに感じ取っていた。
「べべ、これを」
「――この鱗衣、我の氷の理と、よく馴染む」
べべは、静かに、満足げに頷いた。
◇
装備を整えた後、俺たちは、五つの神の恩恵書を、それぞれ手に取った。
淡い光が、一人一人を、静かに包み込んでいく。
『――スキル『槍聖』を取得しました』
「――槍聖……。これは」
俺は、静かに、自らの手を見つめた。以前とは、比較にならないほどの、確かな手応えが、そこにあった。
『――スキル『魔物使い』を取得しました』
続けて、もう一つの恩恵が、静かに、俺の中に流れ込んでくる。
「――使役できる範囲が、随分と、広がったようだな」
「――『超級攻撃魔法』……! それに、『二重詠唱』……!」
ノノが、興奮気味に、自分の掌を見つめていた。
「――二つの魔法を、同時に、放てるってこと……!? すごい……!」
「――私は、『慈愛の女神』……」
メメは、静かに、その名を、噛み締めるように呟いた。
「――皆さんを、もっと、しっかり、支えられる、力……」
「――我には、『不倒』、か」
べべが、静かに、その効果を確かめるように、目を閉じた。
「――一度だけ、致命の一撃を、凌げる、というわけだな。……悪くない」
そして、最後に――リアーナが、静かに、恩恵書を手に取った。
淡い光が、彼女を包み込む。
だが。
「――……あら」
リアーナは、静かに、首を傾げた。
「――何も、感じないわね」
「――どういうことだ」
俺は、静かに、鑑定を発動させた。
『――スキル取得。詳細不明』
「――鑑定でも、見えない、だと……?」
俺は、思わず、目を見開いた。
「――ふふ、面白いじゃない」
リアーナは、静かに、不敵に笑った。
「――何が起きるか、分からない。……真祖の私にすら、底知れぬ力、ということかしら」
その言葉には、不安よりも、むしろ、確かな余裕が滲んでいた。
「――まあ、いざという時に、分かることもあるでしょう」
「――そうだな」
俺は、静かに、頷いた。
(――何が眠っているのか、想像もつかない……。だが、リアーナのことだ、きっと)
その底知れなさもまた、彼女らしい、と、俺は、静かに思った。
◇
装備と、新たな力を得た俺たちは、改めて、互いの姿を見渡した。
「――随分と、頼もしい面構えに、なったものだな」
ルピンが、豪快に笑いながら、そう言った。
「――ここまで、来られたのも」
俺は、静かに、皆の顔を見渡した。
かつて、たった一人、洞窟に籠っていた自分。あの日から、どれほどの旅路を経て、どれほど多くの仲間と、共に歩んできたことか。
「――皆のおかげだ。……ありがとう」
俺の言葉に、皆が、それぞれ、静かに、しかし、確かな笑みを浮かべた。
「――最後に、皆の力、しかと、確認しておこう」
俺は、静かに、『鑑定』を発動させ、一人一人の姿を、丁寧に見つめていった。
◇
ディア
種族:グレーターデーモン
武器:恩寵武具『ストレンジスピア(嘆きの槍)』
防具:恩寵武具『鏡花の鎧』
スキル:勇者、スリップ、仕掛け(罠)、槍聖、魔物使い、鑑定、耐熱耐性、飛行、悪魔支配
「――こうして並べると、随分と、詰め込んだものだな」
◇
ルピン
種族:オークジェネラル
武器:恩寵武具『守護の戦棍』
防具:恩寵武具『不壊の大盾』
スキル:怪力、自己回復、統率、上級棒術、盾術、耐熱耐性、ガーディアン
「――守護に、不壊、か。……俺らしい、名だな」
ルピンが、満足げに、自分の得物を見つめた。
「――棒術も、いつの間にか、上級まで、育ってたんだな」
◇
ノノ
種族:ハイサキュバス
武器:恩寵武具『宵闇の弓』
防具:恩寵武具『深淵の法衣』
スキル:魔術師、瞬足、弓術、超級攻撃魔法(黒炎槍・黒流岩・黒雷雲)、二重詠唱
「――深淵、かぁ。……なんか、格好いいじゃない」
ノノが、袖を翻しながら、嬉しそうに笑った。
◇
メメ
種族:ハイサキュバス
武器:恩寵武具『夢喰いの扇』
防具:恩寵武具『慈愛の法衣』
スキル:回避、察知、扇術、慈愛の女神(身体能力向上・癒しの風・清心の光・聖域展開)
「――慈愛、ですか……。皆さんを、支えられるように、頑張ります」
◇
べべ
種族:氷龍
防具:恩寵武具『不倒の鱗衣』
スキル:氷雪の理、攻撃魔法、飛行、瞬足、不倒
「――不倒の鱗衣、か。……この身に、相応しい」
べべは、静かに、その名を確かめるように、鱗衣に触れた。デェソンから受け継いだものは、あくまで、族長という"座"のみ。この一つ一つの力は、全て、自らの旅路の中で、積み上げてきたものだった。
「――我の力は、我自身のもの、か。……悪くない響きだ」
◇
リアーナ
種族:ヴァンパイア(真祖)
スキル:予知、眷属化、超級体術、超級攻撃魔法、参謀、回避、???(未鑑定)
「――やっぱり、私のは、一つだけ、分からないのね」
リアーナは、静かに、自分の掌を見つめた。
「――でも、なんだか……」
その声には、僅かな、戸惑いが滲んでいた。
「――力が、内側から、満ちていくような……。それに、妙な、全能感のようなものも、感じるわ」
「――大丈夫か?」
俺が、静かに問うと、リアーナは、静かに、しかし穏やかに、微笑んだ。
「――ええ、悪い感覚じゃないの。……ただ、少し、自分が、自分でなくなるような、不思議な、心地」
「――……無理はするな」
「――ふふ、心配性ね。……大丈夫よ」
リアーナは、静かに、いつもの涼やかな笑みを浮かべた。だが、その瞳の奥には、まだ、彼女自身にも、正体の分からぬ何かが、確かに、静かに宿り始めていた。
◇
俺は、静かに、その一覧を、胸に刻み込んだ。
(――皆、それぞれの形で、確かに、強くなった)
「――さて」
俺は、静かに、宝物庫の窓から、遠く、西の空を見つめた。
ガステンダーの言葉が、静かに、脳裏を過る。
――近年、天使の暴走が、増えている。
(――積み上げてきた、この力。……いずれ、必ず、必要になる時が、来る)
その予感を、俺は、静かに、しかし確かに、胸の奥に、刻み込んだ。




