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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
西大陸と神々の正体

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第53話 天使の『不穏』

建国から一年半が経ち、ディスガイアの経済基盤も、着実に安定を見せ始めていた。

「――ディスガイア東側の洞穴、そろそろ、本格的に調査すべきだな」

俺は、報告書に目を通しながら、静かに呟いた。

「――以前から、時折、瘴気が漏れ出ているという報告があった。……このままでは、いずれ、街にも影響が及ぶかもしれん」

「――久しぶりの、フルメンバーでの遠征、というわけね」

リアーナが、静かに、俺の隣に寄り添いながら、微笑んだ。

「――当然、私も、行くわよ」

「――ああ、頼りにしてる」

「――ちょっと」

その様子を見ていたノノが、僅かに、頬を膨らませた。

「――イチャつくのは、ダンジョンの外でやってくれる?」

「――ノノ、言い方」

隣で、メメが、苦笑しながら、そっと窘めた。だが、その表情にも、微かな、複雑な色が浮かんでいた。

「――さて、行くか」

俺の号令に、ルピンと、べべが、静かに、しかし力強く頷いた。二人とも、こうした軽口の応酬には、いつも通り、我関せずといった様子だった。

こうして、ディア、リアーナ、ノノ、メメ、ルピン、べべの六人による、久方ぶりのフルメンバーでの攻略が、始まった。

洞穴の内部は、これまでのダンジョンとは異なる、重く、澱んだ空気に満ちていた。

「――嫌な、気配だな」

ルピンが、盾を構えながら、静かに呟いた。

「――アンデッド系が、多いようです」

メメの『察知』が、鋭く、周囲の反応を捉えていた。

「――来ます!」

朽ちた骸骨の兵士たちが、次々と、闇の奥から現れた。

「『黒雷雲』――!」

ノノの雷撃が、骸骨兵たちを、瞬く間に打ち払う。以前よりも、明らかに、その威力は増していた。

「――ノノ、進化してから、本当に、強くなったな」

俺の言葉に、ノノは、僅かに、頬を紅潮させた。

「――当然でしょ」

「私も……! 『癒しの風』、それに――『聖域展開』!」

メメが、新たに習得した支援魔法を、静かに紡ぐ。淡い光の結界が、全員を包み込んだ。

「――メメも、随分と、頼もしくなった」

「――ふふ……。ありがとう、ございます」

だが、骸骨兵たちは、倒しても、倒しても、僅かな間を置いて、再び、蠢き始めた。

「――これは、しつこいな……!」

「――核となる魔石を、砕かねば、根本的には、消えないようだ」

俺は、槍を振るいながら、静かに指示を出した。

さらに奥へと進む中、床や壁に仕込まれた、毒や麻痺の罠が、幾度も、俺たちの行く手を阻んだ。

「――『仕掛け(罠)』の勘が、随分と、忙しないな」

俺は、慎重に、罠の位置を見極めながら、皆を先導した。

「べべ、上空からの索敵、頼めるか」

「――承知した」

族長としての貫禄を増したべべが、静かに、翼を広げ、周囲を警戒する。

長い道のりの果て、俺たちは、最下層――巨大な竜の骸が眠る、広間へと辿り着いた。

「――ここにも、いたか」

腐り果てた鱗を纏う、暗黒龍のゾンビが、静かに、その巨躯を持ち上げた。

「散開しろ!」

戦いは、これまでの経験の蓄積により、以前よりも、遥かに、円滑に進んでいった。

「『黒流岩』――!」

「『氷結槍雨』――!」

ノノとべべの連撃が、竜の巨躯を、着実に打ち据えていく。

「――今だ、ルピン!」

「――応よ!」

ルピンの一撃が、止めを刺した。

――ドガァァンッ!!

竜の骸が、静かに、崩れ落ちた。

『――ダンジョンボスを撃破しました』

だが、その骸は、消え去ることなく、静かに、輪郭を取り戻していく。

「――これは……」

「――リポップ、か」

俺が呟くと、しばらくして、そこには――腐り落ちた鱗ではなく、艶やかな漆黒の鱗を纏う、本来の姿を取り戻した、一頭のドラゴンが、静かに佇んでいた。

「――ゾンビ状態は、あくまで、一時的な、理の歪みだったんだな」

俺たちは、静かに、警戒を解いた。ドラゴンは、敵意を見せることなく、静かに、その場を後にしていった。

そして、その先――マスタールームで、俺たちを待っていたのは、青白い顔をした、苦悶の表情を浮かべる天使だった。

「――ひぃ……! ぐぅ……! はぁ……!」

「――大丈夫か、これ」

ルピンが、思わず、そう漏らした。

「――我が名は、ガステンダー……。ぐっ……! こ、この体は、常に、毒に、蝕まれておって、な……!」

ガステンダーは、苦しげに顔を歪めながら、静かに、そう名乗った。

「――毒に、蝕まれてる? 自分自身の力で、か」

「――左様……。ひぃ……! この毒素の暴走、我自身にも、制御しきれぬ……!」

俺は、静かに、槍を構えながらも、慎重に、相手の様子を窺った。

(――シャスドラと、似た症状か……)

「――戦うしか、なさそうだな」

「――仕方あるまい……! だが、恨むなら、我を、こんな体にした、主神を、恨むが良い……!」

その一言に、俺は、僅かに、眉をひそめた。

戦いは、毒との消耗戦だった。

「――皆、毒霧に、気をつけろ!」

ガステンダーの纏う、紫色の瘴気が、絶えず、周囲に漂う。

「メメ、解毒を!」

「はい……! 『清心の光』、『癒しの風』!」

メメの支援魔法が、絶え間なく、全員の体を守り続けた。

「――ハアッ!」

俺は、槍を振るい、ガステンダーへと肉薄する。

「――ぐぅ……! はぁ……! やめて、くれ……! こちらとて、好きで、こうなったわけではない……!」

苦悶の声を上げながらも、ガステンダーは、なおも、その毒の力を、振るい続けた。

「――今だ、リアーナ!」

「――ええ!」

リアーナの一撃が、渾身の力を込めて、ガステンダーの体を捉えた。

「――ぐ、ぁ……」

長い戦いの末、ガステンダーの体が、静かに、崩れ落ちた。

『――ダンジョンマスターを撃破しました』

しばらくして、その場に、淡い光と共に、先ほどとは、明らかに違う、落ち着いた気配のガステンダーが、再び姿を現した。

「――ふぅ……。ようやく、毒素が、リセットされたようだ……」

「――大丈夫、なのか」

「――ああ。……本来の状態に、戻れたのだ。……感謝する」

ガステンダーは、静かに、深く息を吐いた。

「――だが、また、時が経てば、同じことの繰り返しだろうな。……我が身に巣食う、この毒の暴走。……根本的な原因は、未だ、分からぬままだ」

その声には、隠しきれない、疲弊が滲んでいた。

「――なあ、ガステンダー」

俺は、静かに、切り出した。

「――近頃、天使の"暴走"が、増えている気がするんだ。……シャスドラの一件も、そうだった」

「――……気づいて、おったか」

ガステンダーは、静かに、重い口を開いた。

「――我らのような、下位の天使は、主神より、力を分け与えられ、その理に従って、生かされておる。……だが、近年、その力の流れに、明らかな、異常が生じ始めておるのだ」

「――異常、というと」

「――力の"配分"が、乱れておる。……本来、均等に、流れるべき魔素が、偏り、澱み、そして――我らのような、末端の者たちを、蝕み始めておるのだ」

ガステンダーは、静かに、続けた。

「――人族の国でも、少し前、似たような一件があったと、耳にした。……守護天使の一体が、突如、暴走し、街の一部を、破壊したと」

「――今まで、こんなことは、なかったのか」

「――なかった。……少なくとも、我が知る限りでは」

ガステンダーの声に、微かな、しかし確かな、不満の色が滲んだ。

「――主神は、一体、何をしておられるのか。……我らは、ただ、理不尽に、この身を蝕まれるばかりだというのに」

その言葉に、俺は、静かに、拳を握った。

(――モーチの言っていたことと、繋がる。……何かが、確実に、狂い始めている)

「――教えてくれて、感謝する」

「――なに。……こちらこそ、この毒素、しばし、鎮めてくれたこと、感謝する」

ガステンダーは、静かに、頭を垂れた。

「――また、いずれ、会うこともあろう。……その時までは、この身、なんとか、保たせてみせよう」

俺たちは、静かに、ダンジョンを後にした。

外に出ると、夕暮れの空が、静かに、赤く染まっていた。

「――近年、天使の暴走が、増えている、か……」

俺は、静かに、その空を見上げながら、呟いた。

(――何かが、確実に、近づいている)

その予感は、静かに、しかし確実に、俺の胸の奥に、根を下ろし始めていた。

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